日本は素晴らしい!系番組の気持ち悪さ
1.日本は素晴らしい!系番組とは
日本は素晴らしい!系番組とは、ここ十数年で流行り出した(私の記憶が正しければ)テレビ番組やYouTubeであり、「日本のここがすごい!」「あれが世界中で大人気!」と過剰に持ち上げる番組のことを指している。
よく見られる構図としては
「日本では当たり前のものを外国に持ち込み、現地の人が驚く」or「日本に旅行に来た外国人に日本の文化などをみせ驚く」のようなものが多い。
2.なぜ流行っているのか
なぜ流行っているのか考えてみた。
私は幼かったため記憶がないのだが、面白いことにバブル期やバブルの名残が残っていた時代は「日本のココがヘン!」という番組が流行っていたらしい。
そんなことから考えるに日本の世界における地位(経済力など)が低下していることが肌感覚としてわかってきてしまい、現実から目を背けたいがために日本は素晴らしい!系番組が流行ったのではないか。
日本人は(全人類かも)自分に引け目があると下を見て安心したがる節がある。
キャバ嬢は風俗嬢を見て下がいることに安心するし、風俗嬢はニートを見て安心するし、ニートは生活保護受給者を見て安心するし、生活保護受給者は犯罪者などを見て安心する。
実際のところキャバ嬢の下に風俗嬢がいるかはわからない。給与という面でみれば風俗嬢の方が多いかもしれないが、身体を売るということに対する抵抗感からすると風俗嬢の方が抵抗がある。
しかし、各個人によって給与は当然違うし、抵抗感も人によって違うのでひとくくりにした職業を下に見て安心しても本当はなんの意味もないと思う。
自分の立場に自信がない(自信がある人間がいるかはわからない)からこそ下を見て自尊心を保ちたいのだと思う。
3.気持ち悪さについて
自分の国が好き!誇らしい!という意見は「ナショナリズム」と呼ばれる。
ナショナリズムという言葉はプラスの意味もマイナスの意味も持たない価値中立的な言葉ではあるのだが、日本では第二次世界大戦に突入したのは過激なナショナリズムが原因だとしてマイナスのイメージがつけられてきた。その反動ゆえか現在ではナショナリズム的な言動をする若者が増えており、若者の右傾化(本当に右傾化しているかは微妙であるが)という本や社説が出たりもした。
しかしこの最近のナショナリズムが気持ちが悪い。1.でも述べた通り素晴らしさの基準が自分の内ではなく、外にあるからだ。
「韓国や中国は治安がひどい!それに比べて日本は治安が良い!」「日本は外国人が選ぶ移住したい国No.1!」などなど…
これらの言説は本当の意味ではナショナリズム的ではない。仮言命法(もし○○ならば××である)の言説は、前提が崩れてしまえば日本は素晴らしい国ではない、と認めることになるからだ。
もし韓国や中国の治安が日本より良くなったら?ランキングで日本が最下位になったら?
好きなものは定言命法でしかあり得ないのではないか、と思う。
4.おふくろの味
「おふくろの味」という言葉がある。
私が「おふくろの味」と言われても思いつくのは味噌汁だ。私の母親の味噌汁は少し薄味であり、高級料亭で提供される味噌汁の方が100人に聞けば100人は美味しいというだろう。
親が最高級の飲食店でシェフをしていない限り、「おふくろの味」より美味しい料理が存在する人間ばかりである。しかし、私が最後の晩餐で食べたいのは高級料亭のお吸い物やミシュランで3つ星を獲得したフランス料理店のフォアグラではなく、少し味の薄い母親の味噌汁だ。
「おふくろの味」はランキングとは関係なく落ち着く、愛着がある、という意味で特別な存在なのだと思う。
子どもや配偶者もそうだ。世界一の美女や美男子と結婚している人なんてほぼいないし、世界一の金持ちと結婚している人もほぼいない。しかし、自分の配偶者は愛おしい。世界一の大学を出て素晴らしい大企業に勤めている子どももいるかもしれないが、そうではない子どもであっても愛おしいだろう。
本来のナショナリズムもそうなのだと思う。○○が世界で優れているから日本が好き!ではなく、
不自由なところがあるかもしれない、世界で劣っているところが多いかもしれないけど、自分が生まれて育った日本が好き。
治安が悪いかもしれないけど生まれたブラジルが好き。
貧しいかもしれないけど育ったブータンが好き。
一年中寒いけど住んでいるアイスランドが好き。
それで良いじゃないか。それで良いじゃないか。それで良いじゃないか。