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ホン雑記 Vol.182「克己の神」

飽きっぽいオレは熱しやすく冷めやすいが、歳を重ねるごとに熱しやすくが弱まり、冷めやすくが顕著になってきた感がある。
これではいよいよ楽しみのほうが足りなくなって、世を儚んでしまうぞということで、子供の頃にやっていたことや運動に再び目を向け始めているのかもしれない。


そんなオレが20代の頃から、飽きては戻り飽きては戻りしているのが筋トレだ。今は大きなハマりの第4期目ぐらいだ。
オンラインから知り合ったイケメンの知人が、最近筋肉美ボディをよくアップしてくれるので、それに宛てられてというのもある。
もうひとつは、なぜか腹筋ローラーだけはちょこちょこと続けていて(ヒザで日に20回程度だけど)、ビッミョーに腹筋が浮いている… んだけど、腹圧を抜いた時の腹の出かたは「えっ?」ってなるぐらいの出かたで、ビール腹なのに腹筋が見えるという、自分以外に見たこともない体型なので、もうちょっと頑張ってみようかという理由からでもある。これは痩せたらだいぶ腹筋出てくるんだと思って老後の楽しみにしている。うそ。もうやる。


あ、また長い前置きになった。
その第4期の筋トレハマり期で、前から知ってはいたんだけど、また… というか、いよいよ強くリスペクトしはじめた人がいる。

プロボディビルダーのマッスル北村氏である。
日本のボディビルの第一人者と言えばこの人だろうし、彼ほどストイックな人間をオレは他に知らない。
北村氏は20年以上前に亡くなっている。筋トレに入れあげて、過度の減量を敢行。低血糖からの合併症で心不全を引き起こして急逝した。

彼は東大に入るほどの頭がありながら、それをはるかに上回る好奇心と行動力があった。意味がないと思えばすぐに東大もやめてしまう。
ボクシング部時代、まだ55kgというやせっぽちだった彼は、パンチ力は異常に強く、パンチングマシンを2台破壊してしまうほどだった。
そんな彼に、なんの皮肉か、それを凌ぐ異様な優しさが同居していた。試合中殴られた数を数えていて、それ以上は殴れなかったという。相手に悪いからと。

そんな彼がついに出逢ったのがボディビルだった。彼の伝説は数あれど、最も常軌を逸しているのが、その成長ぶりだった。
筋肉というものは、2~3日に1度の限界までの筋肉痛を狙う超回復、それと食事と睡眠という三本柱を完璧に使って、早くても1カ月か2カ月でようやく「あ、筋肉ついてきた?」と気づくようなたぐいのシロモノである。
それを最初期の10カ月間で、55kgから96kgに増量してしまった。太ったわけではない。これがいかに化け物じみた成長であるか、筋肉に興味のない人でも分かるだろう。脂肪ではなく、筋肉量だけで40kg増。
それはもうまったくの別人で、もう漫画でもちょっとリアリティなさすぎて描かないようなレベルの変化だ。

そんな北村氏に、オレはいい歳こいて新たな理想のヒーロー像を見てしまうのだ。



北村氏の肉体を荼毘に附す時、彼の妹さんはそれはたいそう悲しんだという。生前、太くなっていくカラダの各部をよく測らされて、兄と悲喜こもごもを分かち合ったらしい。

「あんなにして作り上げた肉体がこんな一瞬で骨になるのか」
妹さんを打ちのめす現実をやわらげたのは、彼が何度となく口にしていた、
「肉体は滅んでも、魂は不滅」という言葉だった。


まるで克己心を具象化したような彼は、その本名を北村克己(かつみ)という。
まさにその名の通りの人生であった。


オレも名をなぞるのが密かな夢だ。




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