これからの発車メロディのあり方とは?
ご覧いただきありがとうございます。
今回は、「これからの発車メロディのあり方とは?」。主観ではなく、客観的な内容を目指して作成しました。
なるべく分かりやすくまとめていきますので、是非最後までご覧ください。
0. 無意識な発車メロディ
発車メロディは、都会、特に首都圏に住んでいればとても身近なものです。たとえ、初めて行く駅で、電車から降りたときに聴いたことのない音楽が聴こえてきたとしても、別に違和感はないはずです。なぜなら、電車から到着してから、電車が出発するまでの間に音楽が流れたら、それは「発車メロディ」(=発車を知らせるものだ)と無意識に認識しているからです。
では、もしも普段利用している駅の発車メロディが、たとえば突然クラシック曲、それもベートーヴェンの『運命』に変更されたらどうでしょうか?大半の人は気づいて、違和感を覚えるかもしれません。では、この違和感とは一体何でしょうか。
実は、発車メロディにもその駅、そのホームに合う音、合わない音というのがあるはずです。どんな音がアリ、ナシなのか。発車メロディの歴史を遡りつつ、説明していきます。
1. 元祖発車メロディ
時は1980年代後半、公害問題の解決に向けて社会が歩みを進めている中、視線は鉄道にも向けられました。それは、「発車ベル」の騒音問題です。
JRも発足して間もない頃。イメージを向上させるためにも、不快感を抑えた「発車メロディ」の制作プロジェクトがはじまります。それは1989年、ヤマハ制作の新宿駅のメロディです。
実は、JRで一番初めに採用された発車メロディは、現状のものと比べてもかなり革新的なものでした。とても先進的で洗練された「音」です。(YouTube: https://youtu.be/TZUXJjEzCrU)
このプロジェクトでは、以下に示すような基本機能を前提とした付加価値の追究がテーマとされたそうです。
【基本機能】
発車の告知
注意の喚起
事故防止(駆け込み乗車の削減)
騒音下での高明瞭度
【付加価値】
路線区別の明確化
騒音感/不快感を与えない
普遍性/標準性を持たせる
駅のイメージアップ
駅全体の調和
元祖発車メロディでは、特に機能性が重視されて制作されました。このような視点は、現在においても革新的であり、また活用できるものです。
元祖発車メロディには、様々な工夫が込められていますが、たとえば、そのうちの一つに、音楽療法の「同質の原理」に基づく工夫があります。
たとえば、自分が落ち込んでいる時に、めちゃくちゃ明るい陽気な曲が聴こえてきたらどうでしょうか?「うるさい!」なんて思うかもしれません。落ち込んでいる気持ちの時には、ちょっと暗いような音楽が聴きたくなりますよね。逆に、明るい気持ちの時には、陽気な音楽が聴きたくなります。すなわち、自分の気持ちを反映した「同質」の音楽を人々は求めるわけです。
では、発車メロディが流れる状況ではどうでしょうか。明るい気持ちの人もいれば、暗い気持ちの人もいるわけで、様々な気持ちの人が入り混じっています。だから、元祖発車メロディは、明るくも暗くもない中庸的な音(ニュートラル・サウンド)に工夫されているのです。
少し視野を広げてみましょう。この工夫では、「人々」がどう音楽を受け取るか、という視点で考えました。つまり、スピーカーから出る音そのものではなく、周囲の状況にも目を向けたわけです。これは、「サウンドスケープ」(音環境)の考え方にもつながるもので、公共音楽や背景音楽において非常に重要な理論・考え方です。
2. 発車メロディの変化
この新宿駅の元祖発車メロディは、かなりの好評だったそうです。しかし、放送機器の更新の関係で消滅してしまいます。そしてその後の発車メロディは、大きく変化を遂げていくことになります。
その要因の一つは、ご当地発車メロディをはじめとした「エンターテインメント性」の重視です。親しみやすい音楽にすることで、駅や鉄道にも親しんでもらおうとしたのです。ある意味、発車メロディは明るい元気な曲に変化していきました。
実際、現在発車メロディの導入目的は、例えば以下のものが挙げられます。
駅や路線に愛着を持ってもらう
地域活性化、地域の魅力発信
プロモーション(広告)
この「エンターテインメント性」の重視によって、元祖発車メロディで重視されていたような「機能性」はあまり重視されなくなってきています。実際、現状の多くの発車メロディは中庸的ではありません。
ただ、機能性が低ければ発車メロディとして良くない、という訳ではないと私は考えます。たとえば、どこかに電車で出かけたときに耳にするご当地発車メロディは、旅情を感じさせ、また思い出にも結び付く、格別でとても素敵なものです。発車メロディは、公共音楽だからこそ、時に人々の心に残る音楽なのです。ですから、この発車メロディは機能性があるから良い、あるいはエンターテインメント性があるから良い、と一概に言い切ることはできません。実際に電車が発車するとき、その場にいる様々な人がどのように音を受け取るか?というところが、重視すべきところなのではないかと考えます。
3. どんな発車メロディが求められる?
やはり、前述の通り発車メロディは公共音楽であり、無意識であっても多くの人が耳にするものです。さらに、発車を告知し、危険を防がなくてはならない側面もあります。ですから、あまりに機能性がないものばかり、というのはあってはならないことであると考えます。
では、実際発車メロディはどんな音楽であるべきか。一言で言うのならば、「その駅空間に適した機能を備えた音」であるべきだと考えます。つまり、発車メロディはスピーカーから出る音そのものではなく、実際に電車が発車するとき、その状況でどのように聴こえるか、を重視するべき、ということです。
たとえば、乗降客の多い都会の駅では機能性を重視した「発車音」として、郊外の観光地ではエンターテインメント性を高めた「ご当地発車メロディ」とするのもアリなのではないか、などとも考えられます。
ですが、実はここはとても難しいところなのです。なぜなら、当然発車メロディを導入する決定権は鉄道会社や駅長にあるからです。発車メロディの導入に至るまでは様々なケースがあるようですが、おそらく、鉄道会社が作曲会社に発注→作曲会社が作曲者を選び作曲→導入 という形かなと思います。
しかし、この発車メロディ導入の仕組みにも改善すべき点があるのではないかと思います。極論、もしも機能性を重視して駅空間に適した音にするのであれば、作曲者はまず駅に行くべきです。音環境デザインにおいても、まず現地に出向くことが重要だそうです。どうやら、その道のプロの方は、潜在的な納得感が得られる音を、その場所に行けば思い浮かぶそうです。
習慣化され「駅メロ」として文化が成立しているからこそ、「当たり前」として現在の発車メロディの存在があるのだと思います。しかし、あり方そのものを考察してみると、実は課題は山積みであることが分かります。
発車メロディが広く導入され知れ渡った今だからこそ、今一度あり方を再検討することは、大きな意味があると思います。
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最後までご覧いただき、ありがとうございました。