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欧州最大規模のテクノロジー見本市「IFA」の100周年を視察してきた。 ②企業のサステナビリティ報告が必須になると...?

こんにちは。Dentsu Lab Tokyo なかのかなです。
欧州最大規模の家電見本市「IFA(イーファ)」レポート2回目をお届けします。1回目はこちらです。

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オープニングトークでも注目トピックとされていた「AIとサステナビリティ」。この数年はCES(米国最大のテクノロジー見本市)などでも持続可能性は中心テーマとなっていますが、IFAで注目を集めているのには欧州特有の事情があります。

EUでは、年明けの2025年からCSRDの段階的な運用がはじまります。CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステナビリティ報告指令)は、企業に対してESG(環境・社会・ガバナンス)に関する情報の開示を義務付けるもので、これによりサプライチェーン全体でのCO2排出量の削減や、製品ライフサイクルでの環境への影響を軽減するなど、より具体的なサステナビリティ施策に取り組んでいく必要が生じます。欧州内で一定規模の事業を行っている場合は対象となるため、日本のメーカーにとっても他人事ではありません。

欧州に多くの家電を輸出しているトルコの大手メーカーVestelのブースでも、オリーブ残滓を活用したバイオプラスチックBioliveを使用した製品や、キノコ由来のMYCONOMで作られたエコ緩衝材など、トルコ国内のエコマテリアル・スタートアップ製品を活用したサステナビリティへの取り組みが紹介されていました。

(左)自然に還るキノコ由来の梱包材MYCONOM。
(右)トルコの特産品でもあるオリーブ油の残滓からできるバイオ樹脂Bioliveを使用した家電       

Panasonicのブースでは、再生素材やリファービッシュ製品(メーカー再生品)などのサステナビリティ施策の紹介コーナーを設けると共に、会場自体の床を活かしてゴミとなるカーペットの面積を少なくする、組み立て式の木製展示台を毎年使用する、配布用ドリンクがペットボトルではなく瓶、など展示自体での実践がなされていたのも印象的でした。

(左)ドイツでは瓶は回収を前提としたデポジット制になっている。
(右)健康志向の高まりで人気のエアフライヤー。展示台は再利用できる組み立て式。


Miele
は2年前からオランダで修理した洗濯機を再販する取り組みを、今年の7月からEU5カ国で再生部品の再販をスタートしています。同社がドイツで1000人を対象にした調査によると、8割以上が「保証がついていて安ければ、再生部品を購入する」と答えたそうです。
今回、コンセプト・スタディとして発表されたスティック型掃除機「Vooper」は、製品ライフサイクルの終了時にまた素材へと戻せるというサーキュラーな取り組み。グリーンアルミニウム(製造時に二酸化炭素の排出量が少ない)やモノマテリアル(混合プラではなくリサイクルしやすい)を用いて、接着剤などを使用せずに組み立てられており、使用している素材ごとにバラバラにできるためリサイクルがしやすくなっています。
また、パーツを交換することでアップグレードもできる構想だということで、Dentsu Lab Tokyoで2023年に発表した UP CYCLING POSSIBILITYに通じるものを感じました。

「Vooper」は Vac(掃除機)+Loop(循環) から。

スタートアップ企業が集まるエリア「IFA NEXT」にも、リペアブルな製品がありました。10年前にドイツで起業されたSIFTは、修理しやすいモジュール型スマートフォンの開発からスタートし、現在はパソコンやスピーカー、電動自転車など商品の幅を広げています。どこかが壊れてしまってもパーツごとに交換ができるため製品寿命が長くなります。また、Closing the Loopとの提携で、製品1台ごとに1台の古いスマートフォンをリサイクルして電子廃棄物の削減を行なっているそうです。

SHIFT Phone 8を手でバラバラにする様子

製造企業とユーザーの関わりは、IoT化による使用時のデータ取得やサービス提供によって、より長期に密接になりました。サステナビリティ報告が必須になることで、これからは製品の寿命や廃棄後までをも見据えた長期的な取り組みが必要になってきます。一方で、地球環境や家計へのコストを抑えて長くつき合える製品づくりは、企業の魅力を高めるチャンスでもあると考えられます。





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