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はじめてのミラノ・デザイン・ウィーク 

こんにちは!
Dentsu Lab Tokyo(DLT)新人、プロダクト・デザイナーのみくにこうです。DLTで企画やプロトタイピングを行っています。僕は入社したての今年6月に長めの休みをとって、ミラノ•デザイン•ウィーク(MDW)で作品を展示し、初めてのMDWを見学しながら色んなことを感じてきました。これは「1人の若手会社員のはじめてのミラノ•デザイン•ウィーク体験談」です。

初ヨーロッパで上機嫌な筆者

なんで私がMDW?

LEXUS Design Award 2022

そもそも僕がMDWに作品を展示するチャンスをえたのは、LEXUS Design Award 2022(LDA)でファイナリストに選んでいただいたことがきっかけでした。LDAは次世代のデザイナーの育成を掲げる世界的なデザインコンテストです。ファイナリストは第一線のデザイナーたちからメンタリングを受けながら、それぞれ最終発表に向けてプロトタイプを制作しました。

僕が参加した2022年度はファイナリストが6人選ばれ、それぞれアフリカ、ヨーロッパ、アジア、アメリカの各地からオンラインでワークショップに参加しました。メンタリングやサポートはとても手厚く、メンターだけではなくアワードの運営スタッフのかたがたも一丸となって制作をサポートしてくださったのが印象に残っています。

そしてLDAのファイナリストに、MDWでレクサスの展示会場内に最終プロトタイプを展示するチャンスが与えられました。

Tacomotive

LDAに僕がエントリーしたのは大学院で制作したTacomotiveという「誰もが直感的に使える触覚サイン」のコンセプトです。凹凸によって図形・記号を表現するエンボスとは異なり、Tacomotiveはカットパターンによって触感を表現します。

ざらざらとした「粗さ」、「柔らかさ」(触れた際の変形しやすさという意)、手を滑らした時に感じる「抵抗・グリップ感」、そして指を滑らせる方向に依って触感の異なる「方向感」、この4つのタイプの触感を、パターンカットで変化させます。

Tacomotiveは、僕が盲ろうのコミュニケーションに興味を持ったことを発端に開発を始めました。点字は、高度に完成されたシステムで視覚に障害のある人たちのためにその役割を大いに果たしていますが、その学習や読み書きには大きなハードルがあります。特に言語を習得する前に光と音を失った先天性の盲ろうの人々には点字を扱うのは不可能と言われています。僕は視覚障害の有無に関わらず誰もがフラットに触れて読み取れる触覚言語を目指してTacomotiveを開発しました。

なお、Tacomotiveは東京大学生産技術研究所山中俊治研究室で2020年から2022年までの間に私が大学院生として行なった研究の成果物です。

MDWでTacomotiveの展示

最終プレゼンの直前に5年間在籍した大学院、そしてTacomotiveの生まれた東大山中俊治研究室を離れて現会社に入社しました。MDWはちょうど配属直後の研修期間中でしたが有給を取得してミラノに飛び出しました。

到着後まず真っ直ぐにLEXUSの展示会場へ

実は僕はこれがはじめて自分の作品を公開する機会で、自分の制作物やビジョンが見る人にどんなふうに受け止められるかとてもドキドキワクワクしながら展示を見学しました。

真剣な目で見られている様子をドキドキしながら撮った写真

COVID-19の影響で来場客にはサンプルを触ることを禁止しました。触るためのプロダクトだったのでこの措置は大変残念でしたが、遠くからみていると、かなりの割合の人が控えめに一番手前のサンプルを触っていました。こんなことならその1つだけじゃなくて、いろんなサンプルを触り比べて欲しかった。今回は4つのカテゴリーを13個ずつ、合計52種類もサンプルを作ったので、「これすごい」や「これとこれは手触りが同じ」など、率直な感想を聞きたかったな。。。

展示には本当にたくさんの方が来てくださり、離れて見ていた僕に気がついてわざわざ声をかけにきてくれた人もいました。自分の作品を公にする初めての体験に、こんなに多くの人に見てもらえて、なんだか恥ずかしいような嬉しいような変な気持ちでした。見た人の反応を生で見たり、声をかけられたり、感想を聞けたりしてとても嬉しく、また作って、またいろんな人に見てもらいたいと、ものづくりへのモチベーションが爆アップしました。

興味深そうにみてくださりありがとう

MDWを見学して感じたものごと

MDWの歴史と成り立ち

MDWとミラノサローネとがあり、僕は渡航直前までこの2つの違いをわかっていませんでした。MDWとは、ミラノサローネをメインとしてミラノの市街地全体で行われるデザインイベントの総称です。元々、ミラノサローネが国際家具見本市として盛り上がりを見せた一方、その参加のハードルの高さに反発したメーカーやデザイナーが同じ時期にミラノ市街地の別の場所で展示を催すようになったのが、街全体のデザインイベントとしてMDWの始まりと言われています。

家具見本市として歴史のあるデザインイベントなので、インテリアなどのプロダクトデザインが主な対象となってます。特にミラノサローネの会場はどのブースを覗いても、美しくスタイリングとコーディネートがなされたインテリアやプロダクトばかりでした。

やわらかく広がるデザインの領域

かつてプロダクトデザインは工場で大量生産される製品のデザインを意味していました。しかし、近年はエンジニアリングが進歩して、従来の大量生産(=マスプロダクション)ではない、マスカスタマイゼーションを行う方法がいくつも考え出されています。パラメータを調整して利用者一人一人に合わせたスタイリングやデザインを行えるソフトウェアが発達し、そして、それを具現化するための3Dプリンタやレーザーカッターなどのデジタルファブリケーションツールはますます豊かになっています。こうしたエンジニアリングの進歩を味方にして、プロダクトデザインの領域は広がり、柔らかくなっています。

MDWでは、特に市街地のトルトーナ地区、ミラノサローネ会場内のSatelliteという区画で、新しいデザイン領域へ挑戦する色々なスタイルの展示を見ることができました。

Super Design Show @トルトーナ地区

トルトーナ地区で催されたSuper Design Showの会場内にLEXUSのパビリオンがありました。LDAの入賞プロトタイプはここで展示されました。Super Design ShowでLEXUSは、新製品のアピールよりも、若手育成を掲げたLDAの企画展示や、英国ロイヤルカレッジオブアートの学生との共同研究の成果発表など、未来への投資を積極的に行う姿勢を強く感じさせる展示を行っていました。

レクサスのパビリオン内のアート
LEXUS Design Awardファイナリストのプロトタイプ展示、
手前はグランプリのPOH YUN RUの「REWIND」
英国ロイヤルカレッジオブアートとLEXUSの、自動運転に関する共同研究の成果物の展示

Super Design Showには、3Dプリンタの大手メーカーStratasysがジュエリーブティックのようなブースを構えていて、Forum8のVR関連の開発技術の展示ブースではVRと連動して360度回転するシミュレータの体験には長い行列ができていました。そして、その横にはトレンドの再生系素材のディスプレイが大量に並んだ一角があったりと、LEXUSの他にも「ちょっと新しいかも」と思わせる製品やプロトタイプが多く展示されていました。

布の上に直接フルカラー造形された構造物群が目を引く服、Stratasysの展示にて
ローテーションテーブルのフルカラー3Dプリンタ、Stratasysの展示にて

Satellite @ミラノサローネ会場

また、ミラノサローネの会場内に35歳以下の若手デザイナーのみが出展できるSatelliteというエリアがあり、この場所でも冒険的でワクワクするようなデザインの取り組みをたくさん見つけることができました。

Satelliteの出展ブースと出展者リスト

まず吉添裕人さんの出展されていたOrbitは、廃棄される蛍光灯のガラスを再利用して作られた照明で、ガラスが冷えていくときに生まれる揺らぎのあるテクスチャと独特なスタイリングによって氷や流水を通して眺めた時のような動きのある光を放っていました。

またAATISMOさんも廃棄ガラスを活用した照明を展示していて、そのWater(Elements of lightの3作品のうちの1つ)もガラスを溶かして固める時にほのかに残る不規則なパターンを生かして月光に照らされた泉のような有機的で美しい光を実現していました。吉添さんのOrbitもAATISMOさんのWaterもそれぞれ試行錯誤を重ねた上で、廃棄ガラスを溶かして固める際に生じるテクスチャや揺らぎを生かしていました。このように再生素材の「再生の痕跡」をあえて残して活かすというスタイリングは、どうしてもムラが出るなど扱いの難しい再生系素材を用いる上での定石となるかもしれないと感じました。

ベルギーのStudio part(https://www.studiopart.be/)の展示していたP5というネジの斬新な留め方もとても印象的でした。うすい鉄板(3~5mm厚程)に入れた切り欠きをねじ穴にして止めることで、見た目がすっきりとしたプロダクトを作っています。一見強度を心配してしまいますが、苦手な方向に強い力をかけなければ十分に固定できるというのはコロンブスの卵だと感心しました。

そのほかの気になった企画

上記以外で変わりダネの展示を一つ紹介します。観光地としても有名なドゥオーモの駅でたまたま見つけたトイレです。

イベントの告知かな……?

THE TOKYO TOILETという取り組みをミラノで紹介する展示だそうで、ミラノ滞在中、唯一日本式のウォシュレットが使えるトイレでもありました。しかし、その空間は、壁も照明も真っ赤。植物でも育てるのかというくらい真っ赤でした。

トウキョーのトイレ!

駅で最初知らずに、真っ赤なトイレが目に飛び込んできた時はびっくりしました。その入り口で受付スタッフの女性に行ってらっしゃい〜と手を振ってもらって、真っ赤なトイレで用を足し、出て行く時はじゃあね〜とお土産に剥き身のトイレットペーパーをいただき、その剥き身のトイレットペーパーを携えてドゥオーモを観光しました。忘れられない思い出になっています。

剥き身のトイレットペーパー

ミラノの街の雰囲気

ミラノの街はあちこちで色々なデザインイベントが開催されていて、まるでお祭りのようでした。日本でもこんなに街全体で一つのテーマで盛り上がる世界的な「ウィーク」をやれたら楽しいだろうなといろんな妄想を膨らませながら滞在しました。期間中、夕方になると繁華街や運河沿いの素敵なお店で大勢の人がお酒とおつまみを楽しんでいました。

Tortona地区のとある展示会場にて、無料のビールに集まる人々……
運河沿いに素敵なお店がいっぱい。夕飯の前に軽く食べるつもりがお腹いっぱいに。

まとめ

今回のミラノでの体験は、自分のものづくりを、世界の基準や最先端と観客の目線で比較するチャンスでした。自分の個性を言語化し、自分の弱みを自覚する機会になりました。

高すぎるホテル代(MDW期間中はミラノ周辺の宿代が爆あがりします。渡航の際は注意!)と予約が直前であったせいで悲しいくらい値が張った航空券代、占めて2ヶ月分の(略)。しかし、元が取れるくらい学びが多く、また、新しい出会いを得ることができた渡航になりました。次はこの会社でどんな挑戦ができるかなー。。○

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三國 孝  Kou Mikuni
Product Designer
東京大学教養学部・東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻卒。
大学院でものづくりを学び、触覚コミュニケーションのデザインの実践と研究に従事した。

この会社でプロダクトデザイナーを名乗るとどんな化学反応が起こるのか実験中の新入社員。ハードウェアや体験の設計を中心に活動しつつ、テクノロジストやプランナーとしても幅広くものづくりをしている。

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Dentsu Lab Tokyoは、研究・企画・開発が一体となったクリエーティブのR&D組織です。日々自主開発からクライアントワークまで、幅広い領域のプロジェクトに取り組んでいます。是非サイトにもお越しいただき、私たちの活動を知っていただけると幸いです。

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