アンコールにDestinyはなかった
あの夜は夢のようでした。
一緒に旅をした時間を忘れたくない。
いつまでもシートに腰かけてそのまま眠ってしまいたかった。
ユーミンと私たちが作り出した空間にずっと佇んでいたかった。
2022/5/30
「松任谷由実コンサートツアー 深海の街」
愛媛県民文化会館
私たちは潜水艦のクルーになって一緒に旅をしました。
乗船し、海を進み、深く沈み、また浮上し、絆を深め、愛を見つけて、船を降りる。
寄港地は砂漠だったり、リゾートだったり、宇宙へも。
五感をフル稼働させて風や匂いや喧騒を全身に感じて。
見たこともない景色が広がっていきます。
聴かせてくれたのは今の時代を窮屈に敏感に生きる私たちへのギフトのような楽曲。
語ってくれたのは手を取り、励まし、導き、その先へ向かうためのメッセージ。
コロナ禍にあってミュージシャンとしてアーティストとしてどん底まで落ちたと苦しい胸のうちを打ち明けてくれました。
それでも力強く「明けない夜はない」と絞り出すようなことば。
アンコールには「Destiny」も「14番目の月」も「魔法のくすり」もありませんでした。
でもそれは必然だったような気もします。
歳を重ね、コロナ禍を体験し、
違う時代になったと感じていた私にとって「青い船で」そして「二人のパイレーツ」は心に沁みるとても必要なアンコール曲でした。
一緒に行った友人が1度もスタンディングしなかった私を不思議そうな顔で覗き込んでたけど、
胸がいっぱいだったのです。
コンサートの余韻をこぼさないように抱き抱えて会場を後にしました。
冷たい雨の帰り道、心は温かく満ち足りていました。
70年代のスタイリッシュで洗練されたユーミンも
80年代の髪を振り乱しステージを激しく走り回るユーミンも
90年代の女王のようなショーステージに君臨するユーミンも
素敵だったけど
あの夜のユーミンは女神でした。
輝いて眩しくて、優しくて温かい。
包み込むような愛を私たちに届けてくれました。
本編のラストに歌った『水の影』は私のNo.1、お守りのような曲です。
「時は川 きのうは岸辺
人はみなゴンドラに乗り
いつか離れて
想い出に手をふるの」
歌声を聴きながら、過ぎた日々と紡いだ思い出と少しの絶望を心の引き出しにしまって。
これからの平穏を願って。
また明日から前を向けそうな気がしました。
あの夜を忘れない。
感謝を込めて。