かみ合わせトラブルに関する見解・咬合トラブルに対する筆者の見解
どうも勤務歯科医師のかずぴんです。
ご覧いただきありがとうございます。
今日も、引き続き、以前執筆した
「歯科治療2.0」
を掲載していきたいと思います。
あくまで私の臨床経験に基づく私見であることを、強調し断っておきます。
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これから筆者の歯科治療の考え方について記述していく。
最近の筆者の考える歯科治療の考え方を述べていきたい。
咬合トラブルの定義
まず、この稿の執筆にあたり、筆者の用いる用語について伝えたい。歯に加わる物理的力が歯に悪影響を及ぼすことを「咬合トラブル」と定義したい。
広義には、片側咀嚼習慣などの習慣性咀嚼運動、睡眠体癖(寝相)、姿勢、クレンチングやブラキシズム、その他あらゆる歯牙に対し破壊的な力を及ぼす事象が含まれる。
狭義にはクレンチング、ブラキシズム、TCHなどの口腔異常習癖を指す。咬合トラブル、と表記されていれば、広義の咬合トラブルとして語句を使用しているつもりだが、皆様にも前後の文脈から判断していただければ幸いである。習慣性咀嚼とは、患者が日常行う咀嚼運動を習慣的に左右どちらで行うのか、いわゆる咬み癖、のことである。
筆者の考えは、口腔内に生じる我々歯科医師が日常遭遇するトラブルの多くが咬合トラブルに由来する、というものである。カリエス、ぺリオ、根尖病変、日常的に対応していると想定される口腔疾患は咬合トラブルが原因であると考えると、ほとんどが矛盾なく説明できると考える。順を追って説明していきたい。
咬合トラブルとカリエス
もっとも一般的な歯科疾患、カリエスについて考えてみる。
例えば上顎6前歯すべての隣接面に連続した充填がなされている患者を見たことはないだろうか。処置した痕跡がある以上、上顎前歯がカリエスであったことに疑いはないが、はたしてプラークコントロール不良によりカリエスを生じたと考えうるだろうか。
患者に聞いてみればいいのである「これまでに上の前歯を磨き忘れていましたか?」と。おそらくほとんどの患者は、いいえ、と答えるであろう。実際、ブラッシングスキルが無い患者ですら上顎前歯のブラッシングを怠ったことでカリエスを発生させた、とは考えにくい。歯を磨こうという意思のある人間であればまず上顎前歯は磨くであろう。また付着した汚れも視認しやすいはずである。
ここで筆者はこのように考える。すなわち、上顎前歯に加わる、咀嚼やブラキシズム・クレンチングといった外的もしくは内的な外力により歯牙にマイクロクラックが生じ、クラック内部への細菌侵入を生じたと考えるとどうであろうか、と。
クラックはわずかなものであったとしても、細菌にとっては十分に歯牙内部に侵入しうる「穴」である。そこに細菌感染が生じることでカリエスが形成される。力による歯牙構造の破壊がカリエスを引き起こすのではないかという考えである。この考え方によれば、上顎6前歯すべてに充填処置がなされていることに矛盾はない。これは前歯のみならず、臼歯にも当てはめて考えることができる。歯に加わるさまざまな力が歯を破壊し、結果、カリエスが生じるというロジックである。
筆者は毎日すべての診療行為を拡大鏡を使用し行っているが、多くの症例において、カリエス病変には病変に連なるクラックを確認している。皆様の中にも一般的に清潔域といわれる平滑面にもカリエスを認める症例に遭遇したことはないだろうか。その場合はまさにクラックカリエスの典型例といえるのであないだろうか。清潔域は清潔、なのであるからプラークの停滞により不衛生になるとは考えられない。また一方で、クラックを認めてもカリエスを生じない場合も多く見られる。クラックの存在がカリエス発生につながるかどうかはクラックの部位、クラックの位置、深さが決定要因ではないかと推定している。浅いクラックであっても不潔域に生じればカリエスとなり、深いクラックであれば平滑面などの清潔域でもカリエスを生じる。また、当然であるが、口腔内に存在するプラーク量の少ないほうがリスクが低いということはいうまでも無い。口腔清掃指導の重要性には何ら変わりない。
例えば以下のような症例が典型例と言える
咬合トラブルとペリオ
歯周病についても同様に考えている。
ある歯周病に罹患した歯牙を想定する。そして歯周病に先立ち咬合性外傷が存在すると考えると、まず先立って、咬合トラブルに起因するジグリングフォースにより局所の歯槽骨破壊、垂直性骨吸収が生じ、歯根膜腔が拡大する。
その時点では非感染性の可逆的な吸収であったとしても、力により破壊された繊維性付着の弱体化した歯牙周囲への歯周病病原細菌の感染が続いて生じてくる。
咬合性外傷による歯槽骨破壊と、歯周病原細菌の引き起こす炎症反応による歯槽骨破壊の相乗効果により効率的に骨吸収が進行し、非可逆的な歯槽骨吸収となり真の歯周病病変が形成される、と考える。
また、慢性的に歯牙に病的な力が加わることは、根尖部における免疫応答反応にも影響を与える可能性も考えている。すなわち、歯牙に過大な力が加わることで、根尖に圧迫が生じ、歯槽骨、根尖での毛細血管の血流を阻害するのではないかということである。血流が阻害され局所的な虚血が生じ、免疫応答細胞の遊走が阻害され細菌感染への抵抗性が低下することが考えられないだろうか。これらの機序により局所の歯槽骨破壊が進行すると推定している。この考えは、一般的に言われている歯周病発生の部位特異性とも矛盾しない。つまり歯周病の発生進行には部位特異性があり、部位特異性を決定する要因として局所の咬合トラブルが関与しているということである。
一例を示すが、例えば、全顎的に中等度に進行したペリオ病変において特異的に左下大臼歯の骨破壊を認めるケースである。このような骨破壊像においては強く咬合トラブルの関与を疑う。
余談であるが、左下7は根管治療後分割抜歯を施術し可及的に保存に努めた。
今後また別稿で述べるが、ペリオの治癒過程での歯牙位置移動も生体治癒反応として重要である。生体治癒反応としての歯牙移動も術前に予測可能であり補綴、ペリオ、などの症例において活用される。
咬合トラブルと根尖病変
根尖病変の形成においても、現在は咬合トラブルと関連付け考えている。
筆者は過去幾度も、カリエスのない歯牙、もしくはわずかな充填処置のみがなされた歯牙において根尖病変を形成したケースに遭遇している。発生部位も特異性はなく、上下左右前歯臼歯すべて経験している。当時は、過去における当該歯の外傷の既往を疑うことや、過去における治療の切削行為が歯髄組織に悪影響を与えたのでないか、など考えていたが、これらも咬合トラブルと関連付け考えると矛盾無く説明できると考える。
つまり機序はこうである。悪習癖などにより歯に過大な力が加わり根尖の虚血が生じる。その結果、歯髄栄養を司る毛細血管の循環障害が引き起こされる、歯髄にも神経圧迫が生じる。この状態が長期にわたり続くことで、自覚症状を伴わず緩やかに歯髄組織が壊死し失活に至る。
失活した歯髄は象牙細管内部圧を失わせの細管内を無圧の状態に陥らせる。免疫応答細胞も存在しない、蛋白質の残骸と化した壊死組織のみが存在するという、まったく無防備となった歯牙に内部への侵入可能な経路が存在すれば細菌は歯髄に容易に歯髄感染を引き起こすであろう。
感染経路は、マイクロクラックである可能性が高いと考える。咬合トラブルにより歯髄が失活し、咬合トラブルにより象牙質に達するクラックが生じる、これら二つの要因により一見問題のないように思われる歯牙において根尖病変を形成する、という事態が発生するのである。内部はすでに失活し細菌の栄養となる蛋白質は豊富に存在しているのだから。
もちろん、咬合トラブルからカリエスが発生し、カリエスそのものが歯髄に直達すればそのまま根尖病変を形成することは自明である。そして、クラックからの感染という視点に立つと、治療の予後を決定する因子として、根管治療のクオリティ、補綴治療など修復処置のクオリティ、加えて咬合のコントロールという力への対応の視点も必要であると考えている。たとえ良好な根管治療、修復処置がなされた歯牙であっても、咬合トラブルが存在し続けていれば、長期的に再び歯牙破壊が生じる危険があることは明白であろう。
以下にいくつかクラックからの歯髄感染、根管治療施術症例を例示する
症例①
↑術前
↓術後
症例②
↑術前レントゲン 主訴「左下に激痛」左下6遠心根尖に透過像、歯槽骨の不透過性亢進これは硬化性骨炎、つまりふか不可逆性歯髄炎の兆候である
術前口腔内
このように明らかなカリエス病変の形成はなくとも、左下6遠心に生じた破壊力による歯牙構造破壊を感染経路として不可逆性歯髄炎が起こっている
根充後 痛みは消失したものの、根本の原因因子である左下6を破壊した力という問題を除去したことにはならず慎重な管理が必要である。
前述の通り、咬合トラブルによるさまざまな口腔疾患が発生しうる、と筆者は考えている。この視点を念頭に置き常に診断を行うように心がけている。この診断手法を取り入れてから、筆者の日常臨床では矛盾を感じる分析に至る症例は少ないと感じる。メンテナンス継続中にカリエスを多発する患者、協力度が高い患者に歯周病治療を行うも理想的治癒が得られない患者、補綴治療を繰り返す患者、小児においても同様であり保護者協力も良く仕上げ磨きも食生活指導もなされているがカリエスを繰り返す患者、などすべて矛盾無く説明できる。皆様もこのようなケースを経験してはいないだろうか。
今回は、大分類で分けて論述したがが、筆者は書く診療手技においてもこの考え方を適応し対応している。
充填、インレー修復、歯冠修復、橋義歯、床義歯、ペリオ、根管治療、咬合管理、メンテナンス、など、診療における広範に適応し診療の質の向上を目指している。
次回以降も述べていきたい。
ながながとお付き合いいただきありがとうございました。
今日はここまで。