すっきりとした風に押されて
優しいベージュのうちわが天井で右へ左へと動いて、小さな風を送っていた。
床には散乱したピーナツの殻。歩くとぱきぱきと音がする。
日本では思わず顔をしかめてしまうような光景だけれど、みんなピーナツを食べては思い思いに床に投げていた。
私も面白くなって、食べた後の殻をそっと床に落とす。
ステージではバンド演奏が、日本人観光客にサービスして『上を向いて歩こう』を演奏していた。
ギターの彼は目が合うと「おいでよ!」といった感じで手招きする。
音楽を聴いていると体がうずうずして、ステージに上がろうか、という気持ちがじわじわと出てきたけれど、結局行けなかった。
「みんな出て行かないしなぁ」
あの時の私は、いったい何に遠慮していたのだろう。
たぶん今だったら、行ける気がする。
シンガポール・スリングを片手に、グラマラスなボーカルの女性と一緒に踊れるかも。
そっと動くうちわからなのか、どこからか吹いてくる風といっしょに。