場所の記憶をマグネットにする
先月、家族旅行で台湾に行ってきた。
夜市の食べ歩きや建て増し建築鑑賞など、台北の町歩きだけでも気軽で楽しい台湾だが、今回の旅のハイライトはランタン飛ばしだ。
台北からタクシーで1時間ほどの、十分という小さな町は、願い事を書いたランタンを飛ばす行事で有名。本番は旧正月だが、観光客向けにいつ行ってもランタン飛ばし体験をさせてもらえる。
線路を挟んでランタン飛ばし屋さんとお土産屋さんが立ち並ぶ。上げたい運気に対応する色のランタンを選んで願い事を書き、係の人が謎の燃料に着火するとあっという間に空に昇ってゆく。
電車もふつうに通るので、ランタン中であってもサッと道を譲らないといけない。
ランタン飛ばしも電車も、何もかもがかわいいジオラマのような町、十分。
で、お土産に買ったのがこちらです。
観光地で売ってる、情景をジオラマ風のレリーフにしたマグネット。
僕はこういうのが大好きなのです。どう大好きか説明させていただいてよろしいでしょうか。ありがとうございます(好きなものを褒めるときはなぜか敬語になってしまう、許して)。
台湾のマグネットを褒めます
ポイント1.空間表現の妙
台湾島の形の土台にランタン飛ばしの情景をあらわしているわけですが、電車の屋根あたりを目線の高さに設定して、下のポストや飛ばしてる人を俯角、飛び上がったランタンを仰角であらわし、伸びやかに上に広がる空間を演出しているんですな。
そして電車のパースが水平方向の奥行きも作っています(このように、ジオラマ風マグネットでの空間表現には電車が重宝されがち)。
ポイント2. 文字表現でバリューアップ
台湾島の形をしてるだけでもじゅうぶんなのに、十分の駅名とともに「台北」「Taiwan」とこれでもかと地名を入れてます。なんなら「HOLLYWOOD」みたいに現地にこういう看板あるのかな、と思わせるけど、そもそも十分は台北ではないので、日光東照宮のマグネットに「東京」と書いてあるような感じ。大抵の観光客は台北経由で十分に来てるので、台北要素もオマケと思えばむしろ有難いです。
なんだかんだで、文字が入ることでデザインのバランスも土産バリューも上がってるんですな。
ポイント3. 量産性の工夫
マグネットは金型で量産され、手塗りで着彩して仕上げてると思われます。この手塗りでとても手がかかってると思うんですが、この文字部分はハンコのように出っ張らせることで、手塗り工程の人がサッと筆でひと塗りするだけで綺麗に文字が浮き出るように設計されてるんです(多分)。デザイン性と量産適性の両立、熱い!
このように観光地マグネットは、限られたスペースのなかに工夫を凝らして、旅の思い出を空間ごと表現したすばらしいお土産なのだ。模型とか特撮が好きな人は、特にグッとくるはず。
本題、マグネットを自作したい
買ったマグネットの鑑賞記事だけで終わってもいいのだけど、いいものを見ると自分でも作りたくなってしまうものだ。
とくに台湾のごちゃごちゃした建物のディテール感に浸っていたことで、なにかミニチュアでごちゃごちゃしたものが作りたい!という欲求が高まってしまった。
台湾の思い出はもう購入してしまったので、なにか別の題材ないだろうか。
と思っていたら、近ごろ関西で物議を醸している大阪地下鉄改装問題というのが目に止まった。大阪のキタとミナミを結ぶ大動脈、地下鉄(最近民営化されて大阪メトロになった)御堂筋線の各駅の内装をリニューアルするということで、上がってるイメージ図がちょっとあれ、という感じでいろいろな意見が噴出している。
というのも、1933年に開通(梅田〜心斎橋間)した御堂筋線のいくつかの駅は開通当時のレトロな内装をのこしており、歴史的価値もさることながら地元の人々の愛着も強いのだ。かく言う僕も、通勤通学では縁がないものの、なんだかんだと使わせてもらっている駅の改装のゆくえは気になっていた。
これはマグネット案件やんけ、と思い立ち、さっそく現地取材へ。
心斎橋駅がカッコいい
御堂筋線の駅のレトロな内装を象徴する、蛍光灯をオシャレに組み合わせたシャンデリア風の照明。現在は淀屋橋駅、心斎橋駅、天王寺駅で見られる。とくに、
アーチ状の天井と逆さ富士のようなシャンデリアが絵になる心斎橋駅。道頓堀とかに近いエリアで、買い物(東急ハンズ)や遊ぶ場所(ゲームカフェ)にも困らない。マグネットにするだけの愛着はある駅だ。
キミに決めた!
やっと作ります
まずはスケッチを起こし、石粉粘土でベースを作る。全体はアーチ型にして、大胆にパースを効かせる。厚み1cmの中に、大阪を南北に貫く24.5kmの奥行きを表現したい。
電車、照明などパーツを作っていく。
色塗り。僕は何にでもとりあえず水性の茶色い木工ニスを塗りがち。
そして、、、
こうなった。
いいじゃん。
裏は100均の磁石を埋め込んでいる。
もちろんかなりデフォルメしている。
現在はホームドアが設置されているが、絵にならないので省略させてもらった。逆に、ここだけは外せないこだわりポイントというのもあったのでご紹介します。
ホームの真ん中に立ってる短い柱みたいのは、下の写真のような換気ダクト的やなつ。これがあると御堂筋線〜っという感じがする。
下の写真の時計とホーム表示に翼を広げた鶴の姿を幻視したので、マグネットでも再現した。
マグネットの中央下部の市松模様は、ダクトに施されているイチョウの意匠が素敵だったので引用。御堂筋はイチョウ並木が有名なのです。芸が細かいなあ。
台湾マグネットの土産バリューとかを褒めておきながら、いざ自作するとカッコよく仕上げたい自意識が勝ってしまった。イチョウ模様の代わりに「OSAKA」とか入れたら土産バリューが上がったのだけど、別にこれは土産ではないのでまあよいだろう。
量産を考える場合は、塗り工程の手間を考えて模様も立体的に彫り込むなど改善しないといけないけど、今のところその予定はない。
最後にもう一度、3Dでお楽しみください。
(下の写真を寄り目で見ると立体に見えます)
マグネタイズとは空間を愛でること
というわけで、ジオラマ風マグネットの魅力はじゅうぶんお分かりいただけだかと思う。
空間を自分なりの視点でおもしろがり、小さな半立体に落とし込む作業は、強引でいびつで楽しい。盆栽とかプラモとかのようなメジャー趣味とも渡り合っていけるポテンシャルがあると思う。
今回は公共性の高い駅をモチーフにしたが、もっと個人的な思い出とかもマグネタイズ(マグネットにすること)していくと、冷蔵庫がアルバムになっていっておもしろいかもしれない。 あと、ふつうに観光地で売ってるマグネットを集めていきたいので、僕へのお土産はマグネットでお願いします。なるべくパースが大胆なやつで。
お店の準備やら何やらであまりお金がありません。おもしろかったら、何卒ご支援くださると幸いです。