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【バーチャルの窓から:第2回】「日本は可能性の塊だった」──ドイツでの10年を経て見えてきた、テイラさんが目指すクリエイターたちの光る未来
「僕はドイツに来てすごいって言われることがあるんですけど、僕なんて全然すごくないですよ、ただ、逃げ出しただけなので。」
VRChatにcluster、Resoniteにバーチャルキャストetc。メタバースと呼ばれる様々なプラットフォームがあり、それぞれに魅力的な多くの住人が過ごしています。そんな住人にフィーチャーしてインタビューをしていく企画「バーチャルの窓から」。
かなり間が空いてしまったのですが、第2回はテイラさんです。ドイツへの移住を経て、メタバースプラットフォーム「cluster」で新たな可能性を見出したテイラさん。「やりたいことをやれる場所を作りたい」という想いを胸に、日本のクリエイターたちの活動を支援する活動を行おうとしています。
そこで今回は、なぜ日本のクリエイターたちの活動を支援しようとしているのか。そして、どのような未来を描いているのか。10年に渡るドイツでの経験と、日本への想いについて、じっくりとお話を聞かせていただきました。
音楽への挫折から始まった、ドイツでの10年
── 本日はよろしくお願いします。まずは簡単にテイラさんの自己紹介をお願いします。
テイラさん:10代の頃からずっと音楽をやってきて、音楽でプロとして成功して、副次的な目標として海外に行きたいと考えていました。ただ、音楽でプロになることは挫折してしまったので、どうやったらほかの夢を叶えられるかを考えてドイツに移住しました。
ドイツに移住して10年が経ったのですが、その後メタバースに来ました。そこで、色んな日本人、色んなクリエイターの人を見てきて、当時僕が経験した挫折に似た気持ちでモノ作りをしてる人がいっぱいいるというのを感じたんです。
そこで僕が思ったのは日本は可能性の塊だということです。だからこそ、今度は僕がドイツにいた経験を活かして、日本で可能性を芽吹かせる事ができるんじゃないか? そう思って来年か再来年あたり、日本に戻ってきて活動をしようと考えています。
── clusterに来られたきっかけはどこにあったのでしょうか?
テイラさん:すでにclusterに入っている友達から「自分の作っているワールドに曲を作ってくれないか」と頼まれました。それをきっかけにアカウントを作って始めました。
クリエイターとの出会いが気付かせてくれた、見えていなかった日本の姿
── その時にはすでにclusterで活動するクリエイターと行動しようというのを考えていたのでしょうか。
テイラさん:とりあえず体験してみようというぐらいの感覚ですね。最初は1、2回入ってみて、アカウントの存在を忘れるくらいでした。
その後、12月に当時の職場を辞めて、次の職場が4月からで、3ヶ月くらい間が空いていたんですね。ただ、僕はドイツのミュンヘンという場所に住んでいるのですが、12月は寒く雪が降って身体も動かなくて危険なので、趣味のロードバイクのトレーニングも減ってしまうんです。その結果、時間ができたのでclusterに入ってみたという感じですね。
── clusterでクリエイターさんに出会った時にどんなことを感じられましたか?
テイラさん:やりたいことができていないように感じたんです。本当はもっとこういうことをやりたい。ワールドクリエイターだったらワールドを作りたいでしょうし、アバタークリエイターだったらアバターを作りたい。何でも良いのですが、仕事や日本の風潮が理由で自由に創作活動ができていないと感じたんです。
例えば、僕が音楽を諦めた理由も、「音楽でプロを目指すというのは、20代そこそこで諦めないといけない夢」という偏った風潮がありました。そこに似た抑圧のようなものを感じたんです。
それでも、クリエイターはその風潮に抗ってやりたいことを実現しようとしている。自分はそういう気持ちから逃げているなと思ったんです。
── この10年間、どのようにしてドイツでの生活や経験が、価値観や日本に対する見方を変えていったのでしょうか?
テイラさん:ドイツに来た1つの理由として、日本人のビジョンや風潮としての日本が嫌いだったんです。
日本人が規律正しいというのも「抑圧された規律じゃない?」って思いますし、スタジアムとかで日本人が去った後はキレイになっているというのも、極端な解釈かもしれないのですが、「どうせ周りの目を見てやったんでしょ」みたいに思っていました。
そういったステレオタイプ的な日本人像というのが心の底から嫌いで、政治も含めた日本の社会も嫌い、日本人の自分も嫌いという感じで日本を去ったところがあるんです。だからドイツに来てアイデンティティーが崩壊したんです。
音楽で叶えられなかった想いを、今度は違う形で
── そんな状態でclusterでクリエイターさんと出会ったと。
テイラさん:その通りです。メタバースでクリエイターの人たちと出会って、10年間無視し続けた気持ちをまざまざと見せられたんです。そして気づかなかった面に目を向けるとすごく美しいなと感じたんです。そうしたときに「自分は何をしていたんだろう」って思いました。
「こんなに大変な日本社会ですごく頑張っている」、「僕が嫌いだった日本社会でこんなに戦っている」。みんな戦って抗ってるんです。それは尊敬の気持ちですね。
「ドイツに来てすごい」って言われることがあるんですけど、僕なんて全然すごくないですよ、ただ、逃げ出しただけなので。
── クリエイターの刺激を受けて、自身も音楽クリエイターとして活動しようと思わなかったのでしょうか。
テイラさん:もちろん音楽が好きなのでその気持ちはゼロではないです。ただ、僕が音楽でやりたかったことは鬱屈した魂というか、鬱屈した気持ちを持っている人に対して歌いたかったんです。
だから、正直僕の曲って全部暗いとか言われていました。ライブハウスの人にも、「もっと明るい曲歌えば売れたんじゃない?」みたいな事も言われたのですが、僕はそれはできなかったし、したくなかったんですよね。
なぜかというと、例えば「頑張れ」って励まされて頑張れる人もいるけど、頑張れって言われて逆に頑張れない人がいっぱいいます。「無理をしなくても良い。自らの今の現状を嘆いたって別に良いんだよ」、「嘆いたからこそ生まれるエネルギーがあるんだよ」という歌い方の方が僕はできたと思っているんです。
そういう気持ちを持っていたから、僕がやりたかったことを実現するときに、音楽じゃない方法もできるんじゃないかと思いました。もちろん、歌も歌うし、作曲もし続けるのですが、そうではない方向にフォーカスしていきたいと思いました。
── 音楽でやりたかったことと、今クリエイターさんに伝えたいと思っていることは実は一緒だったということでしょうか。
テイラさん:そうですね、こうやって言語化することで、「やっていることって実は一緒なんだな」と腑に落ちた部分はあります。
個人的な話なのですが、ドイツに発つと決めた頃、ちょうど日本を出る1,2ヶ月前ですね。今も仲が良い親友が結婚式をやるとなった数日前に友達が自死したんです。
「自分は音楽をやっているのに、友達1人を救うこともできなかった。」
そんな気持ちがありました。その気持ちに蓋をしてドイツで10年生きてきたのですが、「僕が何かをすることで誰かを踏みとどまらせる事ができるなら、それでいいんじゃないか」と考えました。今は、それは音楽じゃなくて良いという気持ちがあります。
クリエイターって病んでいる方もいて、自らの首を絞めるような行動をしてしまう方もいると思います。実際、僕にも昔そういう部分がありました。
そこで、その友達のことを思い出して、別に偽善でも良いし、すごく気持ち悪いって思われても良い。自分の周りの好きな人や、自分の周りの大切な人たちだけでも良いから、何かできればいいなと思ったんです。
クリエイターが自由に表現できる未来のために
── clusterに来てからの期間でそれを考えられたのはすごいスピード感だと思いました。
テイラさん:「そんな数ヶ月で何を言っているんだ、お前」って言われるかもしれません。でも、生まれたこの気持ちは抑えられません。このスピード感は、蓋をした10年間が解放されたからこそ生まれたのかなと思いますね。
── 来年、再来年を目処に日本に戻られるというのは、やりたいことの可能性を感じたからでしょうか。
テイラさん:日本にはやりたいことをやれない人がいると思うんです。
例えば、東京にいる人の中でも環境が肌に合わず、本当は田舎で働きたい。でも、仕事がないから東京で働かざるを得ない。それは能力を十分に発揮できていないと思っています。
ドイツでも、化学の博士号を持っている人が営業の仕事をしていて、能力が充分が発揮できないという例がありました。それって勿体ないですよね。
ただ、日本に一時帰国して、「いいかねパレット」というところを訪れた時に、「やりたい事をやって、生活できてるなら良いじゃん」というのを感じたんですね。
── クリエイターがのびのびとやりたいことをやれる環境を作りたいというイメージでしょうか。
テイラさん:そこが最大の目標ですね。メタバースだけでなく、デジタルコンテンツを作ってるプログラマーとか、そういった人達が、自分がやりたいことを実現できるような場所を作りたいと思っています。そのために、環境を作りたいと思っています。
法律などは簡単に変えられないし、僕も政治家になるつもりは全然ないです。まあ、 政治家になったところでできないと思いますけどね。まずは風潮を変えるところからだと思っています。
ただ、風潮を変えるというのは1、2年やれることではありません。文化を根付かせるという意味では5年や10年でも難しいかもしれません。
最初は狭いコミュニティーしか変えられないかもしれませんが、それを広げていけば、もっと生きやすい日本になると信じています。
自身も創作活動の難しさを知るからこそ、テイラさんはクリエイターたちの抱える想いに共感し、その可能性を広げようとしているのでしょう。
それは単なる支援ではなく、かつて音楽で表現しようとした「鬱屈した魂への寄り添い」という想いの延長線上にあるように感じられました。
確かに、テイラさんが描く未来は、一朝一夕には実現できないかもしれません。しかし、日本のクリエイターたちの可能性を信じ、その環境づくりに尽力する姿勢に希望を感じました。
ライター:咲文でんこ
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