第四夜 高灯台 前編
平安の夜にも、照明はあった。台座に柱を立て、その上の油皿に菜種油を満たし、浸した灯心に火を点けて、夜の明かりとするのである。柱が高く、広い範囲を照らすものを高灯台、柱を低くして、手元を照らすものを、切灯台と呼んだ。
現代の照明はもちろん、ロウソクよりもさらに暗い明かりであったから、互いの顔もよく見えなかったであろう。だが、恋人たちには、そのほの暗さが、かえって好ましかった。
私に叱られたからか、拾が私の乳をまさぐる手つきは、まさに、恐る恐るという感じだった。
夫は、いつも力任せに私の乳をわしづかみ、
「痛い」
と言ってもやめてくれなかった。だから、拾の柔らかい手つきは、新鮮な感動を私にもたらした。
乳房を触られるというのは、これほどに心地よいものであったのか。
拾の、私の乳に加える力は、私が望むそれよりも、かすかに弱い。だけど、そのもどかしさが、かえって快感につながっていく。
拾の指が、私の乳の、もっとも敏感なそこに触れた。
「あっ……」
思わず声が洩れた。
「吸って、吸って!」
私は、はしたない声を上げた。
拾が、その言葉を待っていたかのように、私の乳にむしゃぶりつく。
私は子を持ったことはないが、赤子もこのように、乳にむしゃぶりつくのであろうか。だとしたら、母親とは、なんと幸せな生き物なのだろう。
「舌で……そう、舌で転がすの」
拾も、幼い頃は母の乳房にむしゃぶりついていたのであろう。その時の記憶が、私の乳房に触れて、よみがえっているのかもしれない。
そう言えば、夫は、乳を吸うのも力任せだった。かつてはそれを
「男らしさ」
と思っていたが、拾の、やわらかい乳の扱いに比べれば、あれはただの暴力だった。
ふと目を開き、私は、二人のあられもない姿が、高灯台の炎に照らし出されていることに、言いようのない恥ずかしさを覚えた。
「ちょっと待って」
私は、拾からいったん体を離し、高灯台の火を、吹き消した。