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【連載:地域交通のカタチ】これからは「脳みそに汗をかく時代」になる 〜エムケイホールディングス 青木信明氏 & 電脳交通 近藤洋祐

電脳交通は地域交通の維持・存続を目指し創業から7年以上経過、今年の4月に通算3度めとなる資金調達を実施し、多くの企業と資本業務提携を締結しました。

わたしたちが向き合う地域交通を含めた地域経済全体やタクシー業界の課題と将来性などを株主の方々や提携企業の皆様はどう捉えているのか?弊社代表取締役社長・近藤洋祐との連載対談を通じて浮き彫りにする連載【地域交通のカタチ】

第5回はエムケイホールディングスの青木信明氏(あおき・のぶあき)をお迎えしました。京都で発祥し、特色のある経営で広く知られる同社は、電脳交通のシステムを3年以上前から導入しているユーザーでもあります。創業間もなかった電脳交通を選ばれた背景を伺うとともに、再び増加しているインバウンドの趨勢、注力しているハイヤー事業の展望などについてお聞きしました。


タクシーだけでなくあらゆるものが繋がる将来に向け、電脳交通を選んだ

電脳交通 近藤(以下、近藤):初めてお会いさせて頂いたのは2019年の3月くらいだったと思います。業界の大先輩なので当然存じ上げていたのですが、実際にお会いして想像の100倍ぐらいのエネルギーに圧倒されたことを今でも鮮明に覚えています。2020年には1回目の出資をして頂けることになりました。当時、創業間もない電脳交通とそこまで深く関わって頂けた背景には、どのような決め手があったのでしょうか。

エムケイホールディングス 青木氏(以下、青木氏):システムは大手ベンダーのものをずっと使ってきたのですが、電脳交通のコストパフォーマンスやフレキシブルな対応を評価しました。その頃から、将来的に発展していくのも予測できていたのでお付き合いさせてもらいました。我々は投資家ではないので、ユーザー目線での課題みたいな部分は当然ありましたが、そういう部分も克服しながら成長していくだろうとみていました。

もう一点、決め手はマッチングにありました。タクシーだけじゃなく、あらゆるものがマッチングされていく世の中になると常々思っていました。技術的な要件から考えても、やはり電脳交通が今後の主力になっていくだろうと考えた点が大きかったですね。

汗と油まみれでどうにかなった時代から、脳みそに汗をかく時代へ

近藤:御社では電脳交通のシステムを使用して頂いています。実際にどのような効果をお感じになっていますか。

青木氏:効率的な面では確実に効果が上がっていますね。これは偶然なのですが、コロナ禍が本格化する前の2020年初の時点で電脳交通さんにはリモート受注システムの開発を依頼していました。当時、オペレーターを採用するのに非常に苦労していました。特に主婦の方は、お子さんが熱を出すなどして急に来られないということがあるので、それならばその方々に家で仕事をしてもらおうと。我々が考えるクラウドの利点はそこにありました。それが優秀な人材の確保にも繋がりますしね。

無線配車導入初期の頃からの話を申し上げますと、配車伝票を手書きで書いていた時代があり、色んな会社のシステムを入れて配車効率化をやってきました。配車効率は劇的に高まって、あるシステムでは今まで1日の配車の上限が5000~6000回くらいだったのが、1万2000回ぐらいまで一気に増えました。

ところが、配車の注文依頼はその1.5倍で、24時間で京都のコールセンターに1万8000コールぐらいかかってくるわけです。そこは自動化できていなかったので、結果としてコストは上がってしまいました。コールセンターのオペレーターを増やさないと受注ができないという状況でしたから、どんどん人件費がかさんでしまって。

ドライバーなどいわゆる現業職の人件費を削減するわけにはいきません。サービスの質を高めるために、むしろ上げていく必要があると考えています。そうなると、間接コストをどう下げるかを考えていかなければいけません。そこをオートメーション化し、基本的に人が介さないという一番の利点を生かす必要があり、その際に電脳交通のシステムが役に立っています。

近藤:御社は公共交通として使われる一般タクシーと、収益サービスとしてのハイヤー事業を分けて展開されています。私自身も、より細かく顧客のニーズにチューニング対応するサービスを利用者とマッチングできればいいなと考えています。

公共交通とハイエンドサービスは二極化していますが、例えば「追加で1000円払うとワンボックスカーが来る」とか「オプションでユニバーサルデザインのタクシーを呼べる」など、もう少し細かく配車サービスを設計できると思っています。高付加価値のサービスをタクシー会社がラインナップ化していき、利用者とマッチングしてニーズを掘り起こしていく仕事に貢献していきたいですね。

青木氏:我々の父親の世代は汗と泥、油まみれになっていると、実は何とかなった世代なんです。挨拶や接客サービスなど当時ある種の業界の非常識みたいな部分を持ち込むのは、なかなか勇気が必要だったとは思いますが。時代背景に高度経済成長がありましたから、努力するだけ報われやすかったんです。これからは「脳みそに汗をかく時代」なんでシビアですよ。率先垂範で現場に出ていたら良いという時代じゃないので。ここから正念場になりますよ。

問われる真価、2030年頃が分水嶺になる

近藤:全国的にインバウンドが再び隆盛を迎えています。御社の地元・京都はトップクラスの観光名所でもあり、多くのインバウンドが訪れています。現状と今後の展望をどう見ていますか。

青木氏:すでに桁が違うインバウンドが来ています。さらに、これから2025年の関西万博に向けていろんな政策がどんどん導入されていきます。そうなると、いわゆる移動という概念、そのマーケット規模はこの2~3年、間違いなく拡大していくと思います。

当然そこには供給不足、ミスマッチもあるので、我々としても非常に苦しいですね。乗りたくてもタクシーがないとか、バスが満員通過とか、いろんなことが起きるでしょう。だからAIなどIT技術の重要性が非常に増しています。

インバウンドはジェットコースターみたいに行ったり来たりして、変化が激しすぎて対応しにくい状況だと認識しています。2019年頃はインバウンドが3000万人とか言われていて、それがコロナ禍で一気にゼロになりました。

今また大量のインバウンドが日本に来ていて、それでさっき話したような供給不足が懸念されていると。しかし、この需要が永久に続く保証はないわけですよね。新しいパンデミックなどの懸念は常にあるわけです。

そんな中で、さきほど近藤さんからお話があったように、いわゆるタクシーというカテゴリーと、もう一つのハイヤーというカテゴリーを完全に区分けしています。我々はもう後者で、徹底的に収益を構築していく考えです。実はこのコロナ禍を経て、その戦略が軌道に乗ってきているんですね。

我々のコアビジネスっていうのは、基本的には衰退が避けられないと考えています。手をこまぬいていれば当然なくなるので、いかに我々が生き残っていくか、まさに真価が問われるときでしょうね。おそらく2030年ぐらいが一つの分水嶺になると思います。タクシーが全部無くなることは多分ないとは思いますが、従来みたいな規模感ではなくなるでしょうね。

例えばタクシーの供給不足対策としてライドシェアが様々なところで議論されています。これが解禁されたとして、電脳交通はすでにマッチングの概念とサービスと提供しているわけですから、すぐに対応できると思います。先ほども述べましたが、これまでに出資を決めてきた背景には、中長期的にマッチング技術の重要性が高まると予想し、その技術を持つ電脳交通と組むという狙いがありました。

お客様と繋がるのは、車じゃなく「ドライバー」

近藤:御社は京都発祥ですが、地域交通を担う会社としてどう在りたいとお考えでしょうか。

青木氏:単純に「エムケイないと困る」が一番ありがたいです。地域で公共交通を担う事業者として最低限、それを供給する義務があります。コロナ禍で8割から9割の売り上げが減ったときに、政府の支援策があったのでむしろタクシーを出さない方が利益面では有利でした。ですが、そんな状況でもコールセンターに1日3000件とか4000件ぐらいの配車依頼があるんです。

ここをやっぱり守らないといけない義務があるわけです。それが我々に課せられた使命ですから。会社として当然、利益も上げていかないといけないので、ハイヤー事業で徹底的に利益を上げて、それをタクシー事業に還元をしていきます。これは利用者に対してもそうですし、タクシー部門で働く従業員の所得向上を実現するために、ハイヤーの収益を還元していくという仕組みを作っていきたいと思います。この両面を、上手くバランスをとってやっていかないとだめだと思います。

海外行ったときによく思うのは、海外でプレミアムのマッチングサービスを利用した際に、立派な車が来るんですよ。でもドライバーは短パンで、みたいな。プレミアムサービスということなら本当にトータルで考えないといけないと思います。車だけが良くても駄目ですね。一般的に「お客様と車」をマッチングするという概念がまだまだ強いですよね。

でも、違うんですよ。「お客様とドライバー」をマッチングするようになっていかないといけません。AIが普及して自動運転車が社会に実装されるような世の中になってきているからこそ、対面の評価が一番重要なんですよ、やっぱり。

近藤:重要な点は、タクシー以外のチャネルが増えてあらゆる顧客の流入が始まったときに、自社の経営資源をそれとどう接続していくかだと考えています。私達は現在、お客様のリクエストを車両に繋げていくシステムを開発・展開しています。青木社長のご指摘するような新しい時代が来るならば、それが従来通りのタクシーなのか、新しい交通システムなのかは別として、需給マッチングを最適化できるようなシステムを作り、運行事業者がより利益率の高い商品を提供できる下支えをしていきたいと考えています。

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最後までお読み頂きありがとうございました。
引き続き本連載では各界のキーパーソンとの対談を軸に、未来の地域交通のカタチについて取り上げてまいります。
次回の記事も楽しみにお待ち下さい。

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