『エンドウ豆とお姫さま』 アンデルセン作 (新訳2020年11月)
お姫さまをお妃に迎えたいと望んでいた王子さまがいました。しかしそのお姫さまは、正真正銘のプリンセスでなければいけません。王子さまは世界の隅々に足を運んで、お妃の候補を探しましたが、必ずどこかで問題にぶつかりました。もちろんお姫さまはたくさんいたのですが、「正真正銘の」となると、なかなか見つかりませんでした。決まってお姫さまのどこかが、正真正銘のプリンセス、とは違っていたのです。お姫さまをどうしてもお妃に迎えたいと望んでいた王子さまは、すっかり項垂れてお城に帰ってきました。
お天気が悪いある晩のことです。うんざりするくらいに土砂降りの雨が降り、雷が大きな音を立てて光るなか、お城の門を叩く者がいます。こんな晩に一体誰だろう、と思いながら老いた王さまはお城の門を開きました。
するとそこにはお姫さまが立っていました。しかし最悪な天気と雨に打たれたお姫さまの姿といったら! 髪やドレスからは雨の雫が滴り落ち、靴は爪先から踵までびっしょりと濡れていました。それで彼女は、自分が正真正銘のプリンセスだと言うのです。
老いた女王さまは、「はいはい、今にすぐわかることです」と、口には出しませんが、そう思いながら来客用の寝室に向かいました。そこで女王さまは、掛け布団やシーツをひきはがしたあと、ベッドの上にエンドウ豆を一つ置きました。そしてその豆の上に20枚の敷布団を敷き重ね、さらにその上に20枚の羽毛の掛け布団を重ねました。
お姫さまは今晩そのベッドの上で眠るのです。
翌朝になってお城の者がお姫さまに、「ぐっすりお休みになられましたか?」と訊ねました。
「それが、一睡もできずに最悪だったわ」とお姫さまは言いました。「一晩中、目を閉じることさえもできなかったのよ! 一体なにが敷いてあったのかしら? なんだか硬い物が体の下にあって、そのおかげで体中に青痣ができてしまったの。最悪な夜だったとしか言いようがないわ!」
お城の者はそれで彼女が、正真正銘のプリンセスだとわかりました。20枚の敷布団と、20枚の掛け布団の下に置いてあったエンドウ豆を体に感じたくらいですから、そんなに敏感な体質を持つ者といったら、正真正銘のプリンセス以外にはいません。
彼女の真実性が証明された今、王子さまはそのお姫さまをお妃に迎えました。そしてベッドの上にあったエンドウ豆は、美術の展示品として飾ってあります。もしもまだ誰にも盗まれていないとしたらですが。
これは正真正銘のお話なんですよ!
おわり
翻訳者・原田周作
毎日の空いている時間を見つけてコツコツと翻訳しています♪これからもデンマーク文学を日本に広めるために頑張ります〜。