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#8, 孤独な世界に住む息子

その後、不登校支援施設からのコンサルタント訪問をひたすら拒否する日々が続いていた息子は、大好きなポケモンの縫いぐるみを彼女からプレゼントされてから、ようやく少しずつ少しずつ心を許し始めた。

それまでは訪問がある日は、ソファに布団を持って来て頭までかぶり絶対にそこから出て来ない。懲りずに週に2回来てくれていた訪問コンサルタントが初めて彼の顔を見れたのは訪問開始から3か月が経過した頃だった。

前に自閉症の住む世界という記事を書いたが、ここでもとても不思議な彼の行動があった。

彼が布団から少しずつ顔を出せるようになった最初の頃は、サングラスをかけてマスクをして帽子を目深に被ってコンサルタントと対面するようになったのだ。

私たちの側からみると、小学低学年の男の子が家の中で、マスクとサングラス、それに帽子を被っている姿はなんとも滑稽で少し微笑ましくて笑ってしまうのだが、本人は至って本気だ。

小さな子供が、かくれんぼをする時、自分から相手が見えなければ相手からも見つからないと信じているかのように、息子は自分から相手が見えないようにサングラスをかけ、そして顔をマスクで覆い、帽子を深く被ることで、まるで相手からは自分のことが見えないとでも思っているかのようだった。

彼のその作戦?は、その後新しい学校関係の大人と初めて会う時も、最初の2、3回はその姿でなら対面することが出来、その行動は11歳の年齢になるまで続いていた。

もうひとつの彼の特性による困り行動。息子は、来て欲しくないコンサルタントが訪問してくる時に、ドアベルがなると、ドアにテーブルや椅子などの家具を運びこみ、家に入れないようにバリケードをしてしまうことがある。

そのバリケード事件は、精神科の病院を訪れた時にも勃発して、今でも私の大きなトラウマの一つとなっている。

診察室で下を向きながら、ドクターから薬の副作用に関する質問を受けていた息子は、突然部屋から何も言わずに走って逃げ出し、彼が立てこもったのはなんと違うドクターの書斎。

中から鍵を閉めて、その部屋にあった家具を動かし、誰も外からドアを開けれないようにしてしまったのだ。そして、なんとその部屋にあったマジックでガラス越しの壁に「dø, dø, dø, væk, væk, væk!!!(死ね!あっち行け!)」と書きまくった。

結局院内に居た、大変ベテランの体格のいい男性看護師が来て、彼との交渉にあたってくれた。カカオミルクの飲み物でなんとか話しが出来るようになり、ようやく1時間後にドアを開けることが出来た。

今思い出しても、あれはドラマの中のような大変な出来事で、病院にも迷惑をかけ、息子本人にとってもその場所はトラウマとなり、その後の診察通院を困難なものにしてしまった。

でも、それがその時の彼に出来た、精一杯の大人達への抵抗。

その頃9歳になっていたまだ小さな少年の彼は、それほどまでに、心がすり減ってしまい、誰も信じられない孤独な世界に住んでいたのだった。

私が出来ることは、ただただ見守るだけ。

親としての無力さをヒシヒシと感じていた時期でもあった。

彼らのこういう行動は自分を守るための防御行為といわれている。そんなにまでして防御しないと、心の安全を保てない彼らの闇を思う時、少しでもその闇の中に光を射し込んであげられるような母親になりたいと思う。

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