『高校生です!』

大学時代アルバイトしていたインドカレー屋では、土曜日のオープン前に近くのスーパーにドリンク類を買いに行くという役割を任されていた。2リットルのジュースを5、6本自転車のカゴに入れ、片手に500ミリリットルのコーラを4本を入れた袋を掲げて、常にハンドルを取られた状態で自転車を漕ぎながら店に戻るというのが習慣になっていた。
ある日の買い出しではジュースと一緒にワインの購入も任された。20歳を超えても小柄で幼い顔つきだったおれは店のオーナーにお酒が購入できるか心配されたが、実際に20歳を超えていたため自信を持ってワインの買い出しも請け負った。
店に着き、一直線でドリンクコーナーへ。陳列棚の場所は完全に把握しているから無駄はない。そして今回はお酒コーナーにも向かい目当てのワインをカゴに入れる。10キロ以上あるカゴを両手で持ってレジへ。主婦くらいの歳の店員が素早くバーコードを通していく。一瞬、その手が止まる。ワインの容器を見て、おれの顔を見る。ジロジロと舐めるように。
「身分証ってあります?」
(そんなものはない、おれの持ち物は店のレジからもらってきた一万円札1枚。文句あるなら言ってみろ。受けて立つよ。おれは正真正銘20歳なんだから。この強い眼差しを見ろ。20歳以上にしか出せない目の輝きだろ?この目が嘘をついてるも?おら!さっさとそのワイン、レジ通せ!)
「すみません、今持ってないです」
「あーそうですか…これお酒なんでね、一応年齢確認お願いしてるんですよ」
「ぼく大学2年の20歳です。8月生まれなんで」
その日は9月、20歳になったばかりとはいえ20歳は20歳だ。
「そうですね、何か証明できるものないですかね」
「今、お金しかないですね」
「うーん、ちょっと確認してきますんで、お待ちください」
なんで身分証持ってないだけで、未成年ワイン購入少年扱いされないかんのだ。店ではまだオープンの準備が終わっていないからすぐに買い出しを済ませたい。それに万が一、ワインが買えなかったら、オーナーが後でワインだけ買いに行くことになり二度手間だ。そんな怒りと焦りからこう言い放った。
「いや、マジで大学生で20歳超えてますって!なんなら、あそこのインドカレー屋のアルバイトですよ。そもそも自分飲むために買ってないですよ。」
未成年ワイン購入少年の強く、怒りを露わにした発言に主婦レジ店員はワインの購入を渋々認めた。
「今回は特別に………次回からは必ず身分証を持参してください。」
成人した男がお酒を買おうとしただけなのに、まるで問題客扱いされる。モヤモヤ。
ジュースの時の素早い動きではなく、渋々といった様子でワインをレジに通す店員。モヤモヤモヤモヤ。
無駄な時間取られた怒り。お釣りをもらい、ポケットにしまいながら
「ほんとにぼく20歳超えてますからね」
と吐き捨てたおれに
『絶対、高校生です!』
コップに溜まっていた水が一気に溢れ出るかのような勢いで、いい歳こいた女がそこそこの声量で。

それから何度か買い出しでお酒を頼まれたが、身分証を提示することなく、スムーズに購入できた。その度に、やっぱりあの主婦レジ店員だけがおかしかったんだな、そんな風に思った。お釣りももらい、ポケットに小銭を流し込んだ。あの日以来ポケットにこっそり忍ばせていた免許証が登場することなかった。

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