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ウロボロスの遺伝子(54) エピローグ(始まりと終わりの日・再び)①

 事件解決から三日後、内閣府危機管理局もやっと通常業務に戻り、赤城がこれまでに貯まった業務書類の山を整理していた時、鬼塚局長から局長室に来るように電話があった。ノートパソコンに書きかけの報告書をセーブして、電源を落としてから、赤城は局長室に向かった。局長室には、すでに黒田も呼ばれていた。

「今回の件では二人ともご苦労だった。二人のおかげで、ウイルス盗難事件が公になる前になんとか解決できた。毛利首相も、この件が大きくならずに胸を撫で下ろしているところだ。それから、二人の労をねぎらって欲しいと、おっしゃってたぞ」と鬼塚が言った。
「ありがとうございます。ですが、MADサイエンス研究所の協力が無ければ、今回の事件は解決できませんでした」と赤城が補足した。
「もちろんだ。毛利首相も、何らかの形で彼らの協力に報いたいそうだ」
「――これから話すことは極秘事項だ。君たちの胸の中だけにしまっておいてくれ」と鬼塚が神妙に切り出した。

 それから、鬼塚は昨日の閣議室での顛末(てんまつ)を二人に説明した。鬼塚の説明を聞き終わった赤城が、語気を強めて発言した。
「福山の辞職だけなんて、処分が軽すぎませんか?」
「私も主任と同じ意見です」と黒田が同調した。
「まぁ、そう怒るな。こちらとしても、ウイルス盗難の事実を隠す必要があるので、毛利首相としても苦渋の決断なんだ」
「しかし福山にとっては、辞職だけでも我々の想像以上に大きな痛手だと思うぞ。自己顕示欲の塊で権力志向が強い福山のことだから、権力が行使できない今の無職の状態は、社会的には抹殺されたも同然ではないかな?」と鬼塚が答えた。

「それから、義父の綾部については『高齢者ドライバー事故の真実』と題した週刊誌記事も発表されるようだし、東関東テレビのワイドショーでも『事件の真相:高齢者の運転事故』として特集されるらしい」と鬼塚が続けた。
「参考のためにお聞きしたいのですが、これらの情報は危機管理局から意図的に漏洩させたものでしょうか?」と赤城が聞いた。
「二人も知っているように危機管理局は、情報漏洩についても厳しく危機管理している。我々から、そのような情報がマスコミに流れることはない。今回の件は、林田姉弟によるもののようだ。林田秋菜が以前世話になった東関東テレビのディレクター宛に、匿名で綾部関連の情報を送ったらしい。残念だが、個人が持っている情報までは危機管理局で管理はできん」とやや嬉しそうに鬼塚が答えた。


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