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朝の通勤時に、”毒”と書いたプレートが付いたタンクローリーが、私の車の前を走っていました。”毒”のプレートは、毒劇法に基づく表示義務のようです。この毒というのは、染料や香料、医薬品などの原料となるニトロベンゼンや塩酸といった化学物質です。私が今日見た毒タンクローリーには、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)と書いてありました。

毒の他にも”危”と書かれたプレートもあって、こちらは石油類などの危険物を運ぶタンクローリーで、”危”の表示は消防法によって義務付けられています。”毒”の表示には一瞬驚きましたが、それより面白かったのはタンクローリーの後ろ姿でした。毒タンクローリーの後部は、タイトル画のようにピカピカに磨かれた鏡面(凸面鏡)になっていたので、自分の車の姿がきれいに映っていました。

走りながら前を見ると、自分の車の”前面からの映像”が映って、何とも不思議な光景でした。いつもは対向車を見ることはあっても、自分の車を正面からリアルタイムで見ることはありません。まるで映画を見ているような、貴重な体験でした。

毒で思い出すのは、小学生の時に見た狂言・附子ぶすです。あらすじは、主人が貴重品の砂糖を食べられたくないために、これは猛毒の附子であると噓をついたのですが、太郎冠者たろうかじゃ次郎冠者じろうかじゃは食べてしまいます。次郎冠者は、主人が帰ってきたら謝ろうというのですが、太郎冠者には秘策がありました。

2人は主人が大切にしている床の間の掛け軸を破り、さらには家宝の天目台(茶碗を乗せる台)を割るのです。そして、太郎冠者は「主人が帰ってきたら盛大に泣こう」と、次郎冠者に言い含めます。用事から帰ってきた主人は、大泣きしている2人と無残な品々を見て、どうしたのかと事情を聴きます。すると2人はこう答えました。「留守番中に寝ないよう相撲をとっていたら、間違って掛け軸と天目台を壊してしまいました。死んでお詫びしようと附子を食べたのですが死ねませんでした」。2人は怒った主人に追い掛け回されて終わりとなります。

私がよく覚えているのは「ぶすじゃ、ぶすじゃ~」という軽妙な言い回しです。附子は、植物のトリカブトの毒のことで、もちろん猛毒です。この附子から、毒の代名詞として”ぶす”が使われ出したようです。難読の苗字に毒島さんというのがありましが、”どくじま”ではなく”ぶすじま”です。

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