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アクシデント#2 井戸に落ちた話
あれは、とても寒い真冬の出来事でした。
今でも、その時のことはよく覚えています。小学校の1年生の時だったと思います。お正月に、祖母の家に家族で年始の挨拶に行きました。祖母の家には同居している伯父夫婦がいて、年の近い従弟がいました。私と弟とその従弟の三人で、家の周りで鬼ごっこをしていました。その時は、従弟が鬼の番で、私たち兄弟が逃げていました。
鬼に捕まらないように、ジグザグに逃げながら走っていたのですが、目の前に木のフタをした障害物が目に入りました。高さはそんなにありませんが、一度に飛び越えるには大きな障害物だったので、そのフタに乗って飛び越えようとしました。
その瞬間でした。足元がスコーンと抜けて、奈落の底にそのまま放り出されました。そのフタは思ったよりペラペラで、あとで見た時にはベニヤ板のようなもので、しかも一部が腐っていました。そこが井戸であることは薄々知っていましたが、まさかこんな薄い板だけでフタがされているとは夢にも思いませんでした。
我に返ると、そこは井戸の底でした。井戸には水が溜まっていましたが、晴天続きだったため水量は腰より下でした。たまたま、近くに井戸水をくみ上げるためのパイプがあったので、それにしがみ付きました。ヘマをした自分が言うのもおかしいですが、井戸の底でも割と冷静でした。弟が一緒に逃げていたので、”井戸への落下”は、弟が両親たちに知らせてくれました。
弟はまだ”井戸”という言葉を知らなかったので、親たちに「ニイちゃんがミゾに落ちた。ミゾに落ちた」と知らせたそうです。最初は、溝に落ちたぐらいで何を騒いでいるんだと思ったらしいのですが、弟が泣きじゃくりながら、あまりにも真剣に「ミゾに落ちた。ミゾに落ちた」と言うもんだから、やっと只ならぬ状況に気付いたそうです。
しばらくすると、父たちがやってきました。井戸の上から、こちらの顔を覗いていました。幸い、井戸は5m程度だったので、ロープを降ろして引っ張り上げてもらいました。真冬でしたが、井戸水なので井戸の中にいる時は全然寒くありませんでした。しかし、地上に戻ってくると、急に寒さを感じました。それからは、風呂を沸かしてもらったり、着替えを準備してもらったりと、周りの大人たちに大変迷惑をかけました。
井戸に落ちて、地上に戻るまでの時間は15分程度だったと思いますが、とても長く感じました。