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お薦めマイナー本#8 時の娘

 ルパン3世は有名ですが、リチャード3世は日本ではあまり知られていません。リチャード3世(Richard III)は、ヨーク朝最後のイングランド王で、薔薇戦争の最後を飾る王様です。薔薇戦争とは、赤薔薇が記章のランカスター家と、白薔薇が記章のヨーク家(リチャード3世)が争ったため、後世にそう呼ばれた内乱です。

赤薔薇と白薔薇

 リチャード3世はシェイクスピアによって、ヨーク朝を滅ぼした後継王朝であるテューダー朝の敵役として稀代の奸物(悪役)に描かれ、その人物像が後世に広く伝わったと言われています。シェークスピアの戯曲では、背骨が湾曲し、権力に飢えた如何にも残忍な人物として描かれました。しかし、これまでの研究で、この人物像はリチャード3世を倒して台頭したテューダー朝によって、本来の姿が歪曲されてたことが分かってきました。

 このような研究に先立ち、リチャード3世の名誉を回復しようとした人達がいました。このような歴史愛好家は、リチャード(Richard)の名前からリカーディアン (Ricardian)と呼ばれ、テューダー朝によって着せられたリチャード3世の汚名を雪ぎ、名誉回復を図ろうとしました。このような流れで書かれた最も有名な推理小説が、ジョセフィン・テイの『時の娘』(1951年)です。この小説では、リチャード3世は兄思いで、甥殺しなどしない正義感の強い人物として描かれています。

 『時の娘』は欧米ではベストセラーなので、マイナー本ではないのですが、日本ではリチャード3世自体があまり知られていないので、コアなミステリーファン以外はこの小説を知らないと思います。この小説は、歴史小説の側面を持つと同時に、推理小説でもある歴史ミステリィです。

 内容は実際に読んでから楽しんで頂きたいと思いますが、小説の設定はこんな感じです。ミステリィファンにはおなじみのスコットランドヤード(ロンドン警視庁)に勤務するグラント警部が、犯人を追跡中に足を骨折して入院します。彼は、ベッドから動けずに退屈を持て余していたので、友人で女優のマータからの提案もあり、歴史上のミステリーを探究することにします。そして選んだのが、”リチャード3世”だったのです。『時の娘』は、ベッド探偵ものの先駆けで、この分野の名作と考えられています。テイはこの本の出版後間もなく亡くなったので、本作が彼女の遺作となりました。

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 2012年、リチャード3世の遺骨が発掘されました。遺骨の検視の結果、リチャード3世は、ぬかるんだ地面にうつぶせにされ、兜を着用していない頭部への鋭利な武器の攻撃が脳を貫通したために死亡したということがわかりました。リチャード3世のご冥福をお祈りいたします。


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