”数の概念”の獲得と拡張
中学生になって最初の数学の授業の時でした。数学の最初の授業のテーマは、自然数や整数、分数などの数の名称の授業でした。数学の先生がいきなり生徒全員に質問をしました。「このなかで、1から順番に1000まで数えたことがある人はいますか?」。100までなら多くの人が数えたことがあるでしょうが、1000迄となると少ないでしょう。案の定、1000まで数えた経験のある人はクラスでたった一人だけでした。私も数えたことのない一人でしたので、悔しくてその日の夜、さっそく1000まで数えました。これ自体は意味のないことですが、それなりの達成感はありました(笑)。
数学では、10進数が基本になって”数の世界”が構成されています。しかし、数はすべての文化に存在するわけではなく、アマゾン川の奥深くで生活している狩猟採集民は、数の概念が希薄です。ここで暮らす人々は、1や5などの正確な数を示す言葉を使う代わりに、”少しの”とか”いくらかの”に当たる言葉を使っています。
この事実を、文明的ではなく原始的だと思ったあなたは、認識が間違っています。歴史的に見れば、現在のように数に拘る人々はそう多くはなく、人類誕生以来約20万年経ちますが、ほとんどの間、人類は正確に数量を表す手段をもっていませんでした。日本でも、数量の概念が発達したのは、中国から漢字(の数字)やそれを使った算法が伝わった後からです。日本語の序数で1つ、2つ、3つ・・・というのがありますが、3つ(みっつ)は、満つ、即ち沢山あるという概念の名残です。つまり、古代日本では、3つ以上は”多い”で一括りにされていました。
世界の多くの言語は5進法、10進法、12進法、20進法、60進法の記数法を用いています。ある記事にこんなことが書いてありました。『fourteen (14) =four(4) + teen(10)、thirty one (31)= three(3)x10 + one(1)のような例からも明らかなように英語は十進法の言語だ』。これは全くの事実誤認です。英語には11や12を表わす固有名詞、eleven や twelve があります。また20を表わす twenty があるように、英語では12進法と20進法を併用した記数法が一般的でした。その証拠に、1970年代初めまでは、英国のお金の計算は12ペンス=1シリング、20シリング=1ポンドでした。しかし安心して下さい。現在は10進法で統一されています。
人類は必要に迫られて、自然数、整数、有理数(分数)、実数と数の概念を拡張してきました。また、実生活では使用しませんが、さらに数の概念を拡げて虚数も考え出しました。虚数は実部と虚部の2つの成分を持つ2元数ですが、4つの成分を持つ4元数というのもあります。4元数は結構実用的で、CG画像の3次元回転や、ドローンや飛行機の姿勢制御などに使われています。
少し前に、京都大学教授の数学者・望月新一先生によってABC予想が証明されたと話題になりました。その証明に使われている理論は、宇宙際タイヒ・ミューラー理論と言うそうです。人類は数学のために、宇宙まで拡張してしまいました。内容は全く理解できませんが、凄いの一言です。