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四国瀬戸内サイクリング旅 2023年春 (丸亀市猪熊弦一郎現代美術館編)

 四国瀬戸内サイクリングの初日の終着地丸亀市で訪れたのは、猪熊弦一郎現代美術館。駅前にあった。まずその建物の姿が素敵だった。到着が午後5時ごろになってしまったのだが、6時まで開館していたため、入館者がほとんどいない展示室をほぼ1時間ゆっくり見学できたのはとても嬉しい誤算だった。

 猪熊弦一郎のことは名前を聞いたことがあるくらいで、その作品、作風についてほとんど事前の知識はなかった。作品を鑑賞し終えて、熱狂的な猪熊弦一郎ファンになってしまった。旧制丸亀中学から東京藝大に進み、帝展を舞台に活躍し、一等賞を何度か受賞している。パリに遊学してマチスに学び、マチスの影響を強く受ける。「マチスの見方」という著書があることを知った。50代で今度はアメリカニューヨークへ。この経験で、具象的な画風から抽象絵画へと画風が一変する。しかし、その両方の作品には、通底するものがあると評価されているという。抽象絵画は日頃それほど接する機会がないのだが、それが故にか、ここで目にした猪熊弦一郎の後期の抽象絵画には、心が浮き立つように楽しくなる気分にさせられた。要するに”素敵だなあ”という感じ。

展示室俯瞰
こころが浮遊する👍
ずっとみていたい👍

 彼は、95歳で亡くなる直前、約二千点の全作品を丸亀市に寄贈。丸亀市と協議して、自然採光の広々とした明るい空間が広がる美術館が出来上がった。とりわけ子どもたちに対する思いが強く、「子どもたちに美術は大切」と、美術館と一体となった建物の中に、子どもたちのワークスペースを取り入れた。また「美術館はこころの病院」という想いも、建物の作りに反映されているように感じた。晩年の作品からは、自分自身が、「子どもの純真さ」を生きた印象を受ける。これは、 深く敬愛した師マチスの生き方と重なる。

作品は近づいてまじまじと見ることができる

 この時期、丁度、東京都美術館(上野)で、日本では約20年ぶりという大規模な回顧展が開催されている最中だった(4月27日から8月20日)。この旅から帰ってきてから、展覧会に足を運んだ。フォービズムの創始者の一人でありかつその中心的存在でもあったということも初めて知った。84歳まで生きて多くの作品を残していたが、とりわけ晩年の切り絵や田舎の教会の礼拝堂に描いた壁画に、無垢な子ども心を感じて、強く心惹かれるものがあった。なお、ほぼ同じ頃(4月15日ー6月25日)、水戸の茨城県近代美術館にて、猪熊弦一郎展『いのくまさん』が開かれていた。こちらは、残念ながら見学することができなかった。
 この展覧会では、珍しく、展示作品の写真を自由に撮影することが許されていた。次の作品は、感性で選んだ”イチオシ”の一枚。

アンリ・マチス「大きな赤い室内」(The Large Interior in Red)1948年

 その後、「マチスのみかた」(猪熊弦一郎)を図書館で借りて読んでみた。美術展が開催されていたこともあり、予約が多く入っていて、だいぶ待たされた。この本から、猪熊弦一郎の目を通した「芸術家マチスの姿」、猪熊弦一郎の「マチスへの想い」を紹介したい。

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「マチスは、20歳のときから81歳まで、絵を自分の心の糧として、本当に毎日毎日描き続けてきた、世界で一番素晴らしい油絵を描く芸術家です。」(猪熊)

「これ(この絵)は、私がどれくらい、この顔を頭に入れているかを試すために目を瞑って描いてみたのだ」(マチス)

「色彩の極限を使いこなすということは、並大抵のことではない。特に意識をもって、画面に置きうる画家は本当に選ばれたる作家であると思う」(猪熊)

「『私はこの数個のリンゴを描くために、こんなに素直によくリンゴを眺めて描いている』(マチス)。・・・正確無比なアカデミックなデッサンであった。」(猪熊)

「『お前のデッサンはうますぎる』(マチス)とも言われた。この一語は実につらかった。・・・もっと物を見る目の敬虔さが足りなかったし、物に対しての深い親しみと謙遜な心が足りなかったことを心から恥じた。・・・素直な気持ち、これが私には忘れられていたのだ。」(猪熊)

「セザンヌ以後、近代の絵画が獲得した大きな三つの要素、明るく、単純化された、積極性のある、このどれも、完全に成熟させたものはマチスだと思う。」(猪熊)

「額縁に入って、よく見えるような絵はダメなのだ。絵は額縁なしでよく見えなければならないのだ。・・・額縁をつけることは、画商やコレクターがやることなのだ。」(マチス)

「マチスの絵はジニアスではない、つまり天才ではないのです。ピカソはジニアス、天才です。絵描きには神様から与えられた二つのタイプがあります。生まれつき絵が上手に描ける人と、段々にはしご段を上るような体験をしながら、高いところに到達する画家と二つあります。・・・」(猪熊)

「ある一枚の絵を見たとき、美しいということを超えて、その絵から勇気を与えられるような気がすることがあります。絵を見るとストレスがとれたり、発想が蘇ってくるときがあります。だから、人間の心の病院の役目をするのが、美術館なのです。美術館に行って、絵を見なくても、お茶を飲んで、普通と違う感覚でストレスが取れれば、それは立派なプラスなのです。」(猪熊)

マチス展の一枚


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 美術館の建物内に設けられた、子どもたちのためのワークショップスペースでは、子どもたちがグループで作った切り絵作品が、四方の壁に展示されていた。他に誰もいないその空間に佇むと、子どもたちの生き生きとした歓声や笑顔に囲まれたような気分になった。

子どもたちの切り絵作品(一部)

 なお、このとき、美術館の3階では、山城知佳子展「ベラウの花」が開催されていた。山城知佳子は、沖縄を拠点に活躍する若い女性アーティストだという。サウンドと映像を用いた作品が3階の特別展の入り口から覗き見られたが、時間がなくて入場することができなかった。ミュージアムショップの特設コーナーには、この展示に関連して、沖縄関係の新刊本が多数並べられていて、どれも興味を惹かれる本であった。

沖縄関連の本の展示


           *** おわり ***

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