四国瀬戸内サイクリング旅2023年春 (石鎚山登山編)
四国には、日本百名山が二座。愛媛県の石鎚山(1982m)と徳島県の剣山(1955m)。四国で一番高い山であり、かつ西日本の最高峰でもあるのが石鎚山である(剣山は西日本第二位)。昨年(2022年)6月に、山陰地方サイクリング旅の途上で、やはり百名山の一つであり、中国地方第一の高峰大山(だいせん)に登ることができた。
https://note.com/dendenboken/n/nee73bc0efa0f
学生時代から山登りをしてきている身にとって、西日本第一の名山である石鎚山は、長い間、登りたい山の筆頭でもあった。そこで、昨年試みてうまく行った自転車ツーリングと単独峰登山の組み合わせ旅を、今回も試みることにした。
西条駅前7時47分発のバスが10分遅れで到着。バスは四国山地に分け入るように川沿いを徐々に登っていく。
8時42分、石鎚山登山口のロープウェイ駅前着。小雨は止んだが、ひんやりとした空気。山はガスに包まれている。
9時ちょうどロープウェイ発。12人が乗車。往復で2200円。
9時10分山頂駅から歩き出す。4つの鎖場があるということは事前に情報として頭に入っていたが、鎖場の詳しい状況は調べていなかった。通常の”登山”であれば、入山から下山まで事前に調べてから出発するのが習慣になっているが、今回は、サイクリングが旅の主体であったこともあり、いつもと意識が異なっていた。
しばらく歩くと最初の鎖場「試しの鎖」が現れる。見上げると急峻で一直線に伸びる岩場だ。この鎖場を上る登山者はなぜか少ない。後ろから来た若い男性が、「ここ上るんですか?」と、ちょっと心配がられるが、「(当然)のぼりますよ」と答える。降った雨と霧に包まれた岩場はびっしょり濡れていてフリクションが効かず滑りやすい。上半身の力もかなり要求される。滑って落ちれば良くて瀕死の重症だ。垂直度も高く、とにかく長い。上るに連れて高度感が増し、かなりの精神的な緊張を強いられる。
のぼり終えて、やっとみんながこの鎖場を回避(迂回)している理由がわかった。登った後、同じくらい危ない下降が待っていた。下りは上りより危険というのは、登山の常識だ。足場を見つけるのに苦労する。先に降りた若い人たちのグループが、親切に、あるいは見ていられなくて(?)、適切な足場をガイドしてくれた。後で分かったのだが、この鎖場が4つの鎖場のうちで最も長く高度がある鎖場であった。天候が悪かったこともありその時は気づかなかったのだが、登り口に次のような注意文言が掲げられていたのだった;「岩山の反対側が下りの鎖場で大変厳しい岩場です。自信のない方は迂回路をお進みください」。
なるほど、天気が良くても、危険な岩場だったのだ。
一旦鞍部におり、迂回してきた道と合流。平坦になった登りを少し行くと「一の鎖」。これは33mで、傾斜もそれほどキツくなく、試しの鎖を通過してきた身には、比較的楽な鎖場だった。
二の鎖は、またキツくなる。そして、かなり長い。一つ一つの岩が大きいため、足をかける場所が少ない。そのため、鎖にトライアングルの足掛けがぶら下がっている。こんな鎖は初めてお目にかかった。足をかけるのにはいいのだが、足をかけると小さなブランコのように揺れ動いてしまうので、体が振られて安定しない。さらに、足を抜くときにうまく抜かないと足についてきてしまう難しさもある。できるだけ使いたくない気持ちになるのだが、足場が確保できなければ、崖は登れない。どう登るのが一番安全か、一歩一歩判断が求められる。この鎖場では渋滞が起きていた。女性も多い。中には、登れなくなって進退極まっている人も見かけられる。登れない状況では、降りるのも困難だ。それが、渋滞が生じている原因だろう。そういう人たちにも気を配りながらの登攀になるので、さらに神経を使う。なんとか登り切って、三の鎖へ。
三の鎖は、突つきからオーバーハング気味の垂直の壁になっていて少したじろいだ。一部の場所では腕力と上半身の力で体を岩の上に持ち上げないといけない。一番難易度が高い鎖場と感じた。実際、登っている人たちの多くは、必死の形相をしている。怖さでほとんど泣いている人もいる。大袈裟でなく命懸けだ。これだけの難易度が高い鎖場を、天候が悪いこんな日でもこれだけの人が登っていて、死傷者が出ないのだろうかと訝しくなる。そう思っていたら、やはり、鎖場での死者、負傷者は毎年のように出ていて、シニア登山が増えるにつれて、人数も増えてきているようだ。
三の鎖を抜けたところに社(石鎚神社頂上社)がありその前に平らな地面がある(写真)。およそ20人程度がここで休息していた。国土地理院の地図上では1972mと記されているが、社の前の看板は、ここが1982mの石鎚山山頂と示している。
かなり強い風が南の谷から噴き上げていて、周囲はすっぽりガスに覆われている。周囲は何も見えない。この先に天狗岳があり高度的にはそちらの方が若干高く、”本当の山頂(1982m)”はそちらのようだ(注)。天気予報通り強い風、おそらく10m/秒を越えている(予報では7度c、風速12mだった)。気温も10度以下に感じる。天狗岳の山頂までは距離的には近いが、ナイフリッジの馬の背があるらしく、強風を考えると危険なので断念した。西日本一番の高峰から全く景色が望めないのは残念だった。
(注)これで思い出したのが、前年に山陰地方縦断サイクリングの途中で登った中国地方唯一の百名山「鳥取大山」。かつては、縦走さえできたのに今は崩落が進んで本当の山頂にさえ行けなくなってしまっている。やはり山頂手前に山頂を示す真新しい石碑が建てられていた。
石鎚山で出逢った人たち:
1)試しの鎖を越えたところで、若いドイツ人男性旅行者と出逢い会話。日本語が少しできた。
2)一の鎖の後、中年の美男美女のフランス人夫婦。日本への旅は2回目。今回は5日間のバケーション。高松観光と石鎚山登山。フランス語をちょっと使ってみたが、間違っていたことに後で気がついた。
3)千葉県からの一人旅のシニアの男性。高松空港でレンタカーを借りてあちこち回っている。琴平、丸亀城、石鎚山。明日以降、剣山、祖谷渓などを巡るという。
*** おわり ***