一日限りの「ゼルダの伝説 スカイウォードソード」演奏会 空オケに訊く #2 指揮者 篇
10月2日(日)に「ゼルダの伝説 スカイウォードソード」(通称:スカウォ)のゲーム音楽の演奏会を開く、非公式の企画型オーケストラ・空オケについて訊く企画「空オケに訊く」
『空オケに訊く #1 運営と編曲者 篇 』はこちら。
第2回では空オケのほか、多くの楽団の指揮者を務める田中亮先生をお招きしました。多くのゲーム音楽のアマチュア団体で名前を目にする田中亮先生とは、いったい何者なのか。空オケやスカウォへの想いから、演奏会の聞き所、そして本番への意気込みまで、貴重なお話を伺います。
ゲーム音楽アマチュア団体の指揮者といえばこの人!田中亮先生とは?
——まずは、田中亮先生の現在の活動について教えていただけますか?
田中亮先生:普段は楽団の指揮者やコーチとして活動しています。
現在指揮を担当しているのは、空オケを含めて4団体です。MOTHERの楽曲を演奏する吹奏楽団体Mother's day Wind Orchestra(@bosui1001)、ジャズから劇伴まで、幅広いジャンルを演奏する吹奏楽団体Winds Meeting 029(@windsmeeting029)、ゲーム音楽中心に演奏をするオーケストラ団体Cosmosky Orchestra(@Cosmosky_Tw)といった感じで、ジャンルは多岐に渡ります。
ほかにも首都圏内の学校の吹奏楽部の外部コーチを担当したり、八王子の日本工学院ミュージックカレッジという学校で非常勤講師として勤めたりしています。
※空オケのチケットは現在車椅子席を除いて完売しております。
スカウォはリンクの物語であると同時に、リンクを取り巻く人たちの物語でもある。
——空オケの前身である「スカウォの曲をオケで演奏する一日オフ会」の時点で運営側から田中亮先生にオファーをしていた、と伺っています。オファーを受けたときの心境を教えていただけますか?
田中亮先生:嬉しかったです。実は、これまでスカウォの曲を演奏したことがなかったんですよ。
ゼルダの伝説の曲自体は、これまでも色々取り上げてきたんですけどね。メインテーマ、「時のオカリナ」「ブレス オブ ザ ワイルド」の曲などは、演奏したことがあります。
どれも名作ですけど、スカウォっていうゼルダの伝説の「はじまりの物語」、それこそ原点になるような特別な作品の曲を、もうタイトルの発売から10年以上経つのに演奏する機会がなかったのは、どこか気になっていました。
だからオファーをいただいたときは、やっと演奏する機会が巡ってきた!と感じましたね。数多くあるシリーズの中で、ひとつのゲームタイトルだけに焦点を当てた演奏会ってそうそうないですよ。そういうこともあって、オフ会の時点から楽しみにしていたんです。
——田中亮先生にとって、スカウォはゼルダの伝説シリーズの中でも上位にある作品なのでしょうか?
田中亮先生:はい、ゼルダの伝説の中でも好きな作品です。
スカウォはゼルダもリンクも何者でもないところからスタートします。
それ以降のシリーズでは、ゼルダはゼルダという存在、リンクはリンクという存在としてキャラクターの設定をされていることが多い。一方でスカウォでは何者でもないリンクだからこそ、プレイヤーと同じ目線で冒険を始めることができる。そこに新鮮さと魅力を感じました。
あと好きな側面として、スカウォがリンクを取り巻く人たちの物語でもあるということ。特に印象的なのが、ガキ大将のバドというキャラクターです。
最初はどこの世界にでもいるような、いかにも虚勢を張ってる嫌な奴って感じのキャラクターじゃないですか。
そんなバドがリンクの行動を見て成長したり、人としての深みが増していったりするのが大好きなんです。ゲームを進めていくにつれ、バドが自分の友達になっていくような感覚もある。バド以外にもリンクの周りにいる人の息遣いや人生を色濃く感じて、世界が生きているように思えましたね。
空オケの演奏会だけで、スカウォをひとつの物語として展開し、完結できるような構成になっている。
——オフ会での念願叶ってオケとして始動した空オケですが、楽譜を渡されたときの心境を教えていただけますか?
田中亮先生:第一印象は「オペラ公演の指揮を引き受けちゃったのかな?」でした(笑)
昔、モーツァルトのオペラ『魔笛』の公演を指揮したことがあるんですが、それと同じぐらい分厚いスコア(※全パートの楽譜が記載された指揮者用の楽譜)です。ちょっと大変なオファーを受けちゃったかな、と思いました。
でも、実際に楽譜の中身を見ると「オーケストラとして計算されている」という印象を受けました。
やはりゲーム音楽というのは普通のクラシックとは少し異なるので、どこの楽団でも奏者、指揮者ともに頭を悩ませることが多い。でも、空オケの編曲にはそういったことがあまりない。
これって数少ない合奏のなかでオーケストラを完成させるためには、ものすごくありがたいことなんです。
——多くの曲数を演奏する予定だと思うのですが、特に注目して聞いてほしい曲はありますか?
田中亮先生:僕はロマンチストなので、笑っちゃうくらい大袈裟に悲劇的なアレンジをされた、あるキャラクターの音楽が大好きですね。
それまでどこかコミカルに扱われていたそのキャラクターのメインテーマが、一転して綺麗なアレンジに変わるんです。彼がそのときに抱えたどうすることもできない悲しさや悔しさと、それを隠そうとして気丈に振る舞う様がよく表現されている。そういうドラマ的な展開が僕は大好きなので、演奏にも反映させたいと思っています。
あと詳しくは言えないですけど、二楽章の冒頭の曲が楽しいですね!これもひとりのキャラクターに焦点を当てた曲です。ストーリーにはあまり絡んでこないものの、ある意味で一番生きているなあ、と感じるキャラクターのひとりです。
編曲そのものもいいですけど、注目してほしいのは曲の順番。一楽章の最後が二楽章の冒頭のあの曲に繋がっていくんだな、といった感じで明確に意図を持たせた順番になっています。その部分だけで、ひとつの場面が展開される仕組みになっているんです。
——それぞれどのキャラクターのテーマなのか、ぜひ会場で確かめていただきたいですね。ほかにも聞き所になるような曲はありますか?
田中亮先生:こちらも詳しくは言えないのですが、二楽章の最後に予定されている、物語としての節目を象徴するような「あの曲」が好きですね。
スカウォって物語の中にいくつも節目があるんですけど、その中でもこれからのゼルダの伝説に受け継がれていくことになる大切な一場面を象徴した曲が、二楽章の締めとして用意されています。この曲で二楽章を終えることで、ゲームをプレイしたときと同じように、この曲で一旦区切り、また次の冒険が始まるんだ、という気持ちになれると思います。
演奏会全体を通してゲームの追体験ができる、そんな構成になっているんですよ。この演奏会だけでスカウォがひとつの物語として展開されて、ちゃんと完結できている。ぜひ自分がプレイした当時の思い出を重ねて、聴いていただきたいですね。
せっかく生で演奏するのだから、お客様をその世界の住人と同じ気持ちにして楽しませたい。
——編曲については、原曲の雰囲気を損なわないように気をつけた、という話を伺っています。演奏に関してもそうなのでしょうか?
田中亮先生:雰囲気を損ないたくないのは同じですが、原曲と全く同じ演奏をするか、とまで言われるとそれは少し違いますね。
これは空オケに限らずどのゲーム音楽団体でも同じですが、せっかく生で演奏するならば、サウンドトラックの音源の再現にはしたくないと思っています。
それを実現するために、僕個人としてまずは「この音楽がその世界の住人にとってどういう意味をもつか」といったことを考えるんです。
例えばその音楽が、その世界の人たちにとって「めちゃくちゃ重大で、命の危機があって、もう八方塞がりになってる」という音楽であれば、サントラよりもテンポを遅くして、重くのしかかる絶望を表現する。逆に気持ちがはやるものであれば、焦りを加えるためにテンポを少し加速させてみたりする。
サウンドトラックの音源自体はもちろん尊重しているんですけど、どうせ生で演奏するなら音楽に実感を持たせて、お客様をその世界の住人と同じ気持ちにして楽しませたいんです。
空オケは「スカウォ、そしてゼルダの伝説への愛が半端ない」人たちの集まり。
——こういった一発企画型のオケは常設の団体と比べて、まとめるのが難しいのでしょうか?
田中亮先生:一概には言えないですが、違う難しさがあるとは思っています。
もちろんそれぞれ皆様経歴も異なりますから、蓋を開けてみないとわからない難しさ、というのが一発企画オケにはありますね。だからこそ初回の合奏の時点で、できる限り楽団の特徴を僕が見極めて、工夫していく必要があります。
そういった難しさを乗り越えて、それぞれのリンク、ひいてはプレイヤーが冒険中に感じた気持ちを演奏に載せるのが理想です。
でもゲーム音楽、特にゼルダの伝説となると奏者の方々にももちろんそれぞれ強い思い入れがあるので、お互いに「言わなくてもわかるよね?」でまとまることも多くあります。そこはゲーム音楽を好きなもの同士で作り上げる楽しさですね。
——多くのゲーム音楽アマチュア団体を経験されてきた田中亮先生ですが、その中でも空オケには特にどういった印象を抱いていますか?
田中亮先生:とにかく「誰も彼もスカウォ、そしてゼルダの伝説に対する愛が半端ない」ですね。明確な愛と意志を持って参加されている方が多い印象です。
参加当初は未プレイでも、その後に実際に買ってプレイされた方も多いと聞いています。なかにはRPGアクションが苦手で、50回以上死んだけど頑張ってなんとか進めている、という方もいました。
運営の方が奏者を選ぶ際には、スカウォへの想いや、ゼルダの伝説の音楽を演奏することへの意気込みなども考慮されたんだと思います。
「ゼルダの伝説が好き」ただそれだけの想いを、ステージと客席で共有できる場を作り上げたい。
——最後に、演奏会へ来てくださるお客様に何かひと言いただけますか?
田中亮先生:ステージって客席と比べると一段上に上がってしまうので、特にオーケストラだと敷居が高く感じたり、身構えたりする方もいらっしゃるかもしれません。
でも、僕らオーケストラのメンバーもお客様と同じで「スカウォやゼルダの伝説が大好きなだけなんだよ」と伝えたいんです。たまたま僕らが編曲したり、演奏したりする特技を持っているだけで、ゼルダの伝説に対する熱量には決して差はありません。
僕は、そういう想いを共有できる時間を作り上げたいんです。
ちなみに実際にステージと客席の距離がゼロになるような、その場に居合わせた全員で作り上げる演出もあります。そういったことも含めて、楽しみにお越しください!
——お忙しいなか、ありがとうございました!空オケだけでなく、ゲーム音楽そのものに対する想いなど貴重なお話を聞くことができました。
田中亮先生が指揮される楽団では、ゲーム音楽を演奏することも多いとのこと。田中亮先生のTwitterをフォローすると、素敵な公演の情報をいち早くゲットできるかもしれません。
田中亮先生のTwitterはこちら。
空オケの演奏会まで、ちょうど1週間!
みなさまも体調にお気をつけて、愛が溢れる空オケの演奏会へお越しくださいね。
スカイロフトオーケストラ演奏会 - Episode of Master -
2022年10月2日(日)
開場: 13:45 / 開演: 14:30 / 終演: 18:30
相模女子大学グリーンホール 大ホール
全席指定・入場無料
公式ハッシュタグ:#空オケ
チケット情報:teket.jp/1730/8666
※現在チケットは車椅子席を除いて完売しております。
空オケの最新情報はこちら!チケットのキャンセル情報もTwitterで告知される予定です。
ライター:宮本デン