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【雑文】文芸賞と小説を選ぶことの自己分析

本屋大賞の候補作リストを眺めていて「全然読んでいないな」と思った。
このときに「自分はどうやって小説を選んでいるのか。選択に賞は関係があるのか」疑問に思った。
以下、この疑問の解決のために棚卸した結果だ。思ったより長文になっちまった。たまには簡単なことを難しく考えても良いんじゃないの。

自分と向き合う結果となって、私としてはおもしろかったが、他の人からするとつまらん肩透かしになるかもしれぬ。

■本屋大賞の場合

過去に遡って10年間の最終候補作から読んだ小説をリストアップしてみたところ、14作品だった。2018年から今年2021年にいたっては一冊もない。読んだうち、大賞受賞作品は3作品、2012年『舟を編む』(三浦しをん)、2014年『村上海賊の娘』(和田竜)、2017年『蜜蜂と遠雷』(恩田陸)だった。

いずれも候補になったことも大賞を受賞したことも知らなかった。手持ちの本の帯を見る限り本屋大賞の文言はないので、おそらく、イベントの始まる前に読んでいる。『村上海賊の娘』は作者の和田竜のファンで発売日すぐに手に入れている。これは確実にイベント前とわかっているのだが、『舟を編む』『蜜蜂と遠雷』は微妙かもしれない。

賞レースに興味はなくても、書店の目立つ所に置かれていると嫌でも目に着くし、興味をそそられないこともない。つまり、受賞したことが直接の動機にならなくても、書店及び書店員たちの陰謀によって気付かぬうちに行動を誘導された可能性はあるのだ。くやしいことに。

大賞3作品を除いた11作品を見ていく。

①元々ファンであったから読んでいた4作品
(森見登美彦(2)、冲方丁(1)、伊藤計劃・円城塔(1))
②突発的マイブームが起こって固め読みをした4作品
(万城目学(2)、米澤穂信(1)、住野よる(1))
③芥川賞受賞作2作品
(又吉直樹、村田沙耶香)
④その他よくわからない1作品
(いとうせいこう)

となる。
① 元々ファンであったから読んでいた4作品は、賞へのエントリーに関係なく読むので、本屋大賞の影響はない。

②の突発的マイブームは時間差が大きく、2年以上あとじゃないか。住野よるや米澤穂信なんかはごく最近のことだから、あまり賞とは関係がないような気がする。

③芥川賞だからという理由なので本屋大賞とは関係ない。

④文庫になってから読んだ本で時間差があるためあまり関係ない。

そうすると、本屋大賞の影響で読んだと言える小説は、上記大賞2作品以外はほぼないことになる。

以上により、本屋大賞は私の小説選択にあまり影響を与えないと証明できた。Quod Erat Demonstrandum。

※インタラプション(1)

さて、本屋大賞は私にあまり影響は与えないことは証明できたが、他の賞はどうなのか?

■芥川賞の場合

同じように過去10年遡ってみる。

2011年上半期から2020年下半期、全25作品のうち読んだのは、

2011年下半期
  円城塔『道化師の蝶』
2015年上半期
  羽田圭介『スクラップ・アンド・ビルド』
  又吉直樹『火花』
2015年 下半期
  本谷有希子『異類婚姻譚』(買ったけど読んでいない)
2016年 上半期
  村田沙耶香『コンビニ人間』
2020年上半期
  高山羽根子『首里の馬』


芥川賞の場合はほぼ受賞がわかってから読んでいる。それでも4分の1だから受賞そのものが理由というよりも、受賞で作品を知って興味を引いたのをチョイスしている。

ここで、どんな「興味」を引いたのかが問題になる。
確実なところで、2015年上期の又吉は、芸人の受賞というあまりにもあまりな話題性と興味本位で、羽田は同時受賞作の比較のためという、これもまた又吉を選択した理由よりも可哀想な理由だった。要は〈ついで〉だった。
円城塔は前述のとおり元々ファンだから。高山羽根子は『オブジェクタム』を前に読んでいて知っていた。
本谷はよくわからない。タイトルかな。

芥川賞の場合は文芸誌掲載が前提で書籍になっていないことも多い。文芸誌を読んでアンテナを張っていないとわからない。文芸誌を読むことはあまりなく、賞を取ったことが読んだ理由と考えていいだろう。
ただ、円城塔と高山羽根子に関しては受賞していなくても読んでいた可能性が高い。

芥川賞は私に少し影響を与えている。

■直木賞の場合

直木賞だと、22作品中2作品のみ。

2011年下半期
  葉室麟『蜩の記』
2016年下半期
  恩田陸『蜂蜜と遠雷』

『蜩の記』は映画化に伴って文庫が大量に並べられていたから手に取ったのを覚えている。そもそも直木賞受賞作であることを知らなかったのだ。『蜜蜂と遠雷』は先に述べたとおりだ。

直木賞の影響はほぼない。

■芥川賞と直木賞を比べる

サンプル数は少ないが、直木賞より芥川賞を好む傾向にある。
その理由は割と明確で、芥川賞の方が突飛な設定の小説を若干許容しているからだと考えている。私は突飛な設定の小説が好きなのだ。
言い方を変えるとSF的小説を好んでいる。つまり、SF的小説は芥川賞の方が多い。これは錯覚ではなく、受賞作を並べてみればわかる。

■大衆文学の賞である直木賞より芥川賞の方がSF的作品が多い? そんなバカな。

全然バカな話ではない。
〈大衆文学〉を舐めてはいけない。大衆文学は大衆にあまねく受け入れられねばならないのだ。SFなどという一部の好事家を対象にした作品が入る余地はない。むしろ、最先端を行く、実験的でSF的な作品の方が芥川賞の対象になる可能性が高い。しかも難解であるほど。1951年の安部公房『壁―S・カルマ氏の犯罪』の受賞を見よ。

※インタラプション(2)

SF小説と言い切らず、SF的小説・作品などと気持ち悪い書き方をしているのは、〈SF〉と聞いたときに頭に浮かぶイメージが結構人によってブレがあるのを承知しているからだ。

※インタラプション(3)

このまま、三島賞や山本賞や他の賞についても同じことをしてもいいのだが、あまり意味のある、おもしろい結果はなさそうなので、ここまでにしておく。何よりも飽きてきた。
そして、わかりきった衝撃的なことに気づいた。

■ちゃぶ台をひっくり返す

賞レースが私に与える影響をつらつら書いてきたのだが、最初に書いた

「全然読んでいないな」と思った

この時点で気づくべきだった。全然読んでいないこと自体が、賞レースからの影響が少ない証拠じゃないかと。
では、徒労だったかというとそうではない。
文芸賞との関係を考える中で、
「自分はどうやって小説を選んでいるのか」という疑問への解答が浮き彫りになってきた。

■ 自分はどうやって小説を選んでいるのか

あらためて、読む小説を選んだ理由を今まで記述から整理する。

①作者のファン
②好みのジャンル
③突発的マイブーム

さて、こう整理して、アホな結論になる予感しかないのだが、とにかく最後まで突っ走ろうか。
①、②は言うまでもなかろう。これを深掘りすると、自分の読書体験やらこれまでの人生まで語らねばならなくなりそうなので、「こんなもんだ」でとどめておく。

③マイブーム。マイブームにはブームになったきっかけがある。その作者を知ったきっかけである。
上にあげたものだと、万城目学、米澤穂信、住野よるの3人。

処理しやすい住野よるから。
住野よるについては、自分の記事で〈ジャケ買い〉と書いてある。

つまり、本のデザイン(装丁)での選択
これだけではない。『麦本三歩』はそうなのだがこれ以上彼の作品を読むつもりはなかった。それなのに『キミスイ』を読んだのは、
『麦本三歩』の話をしたところ『キミスイ』を勧められたからだった。
つまり、他人のお勧め
これは、自分に課しているルールでもある。
他人(リアルの知人)のお勧めはひとまず読む というルールは、案外強力だ。
強力だが、あまり機会はない。

万城目学の場合、最初に触れたのは映画版の『プリンセス・トヨトミ』だった。その前に書名が気になっていたのだが、テレビでの放映を観て俄然興味を持った。読みはじめると自分好みだった。
他のメディアからの展開パターン。

米澤穂信はいささか複雑で、皆さん記憶にあるだろう、2019年の京都アニメーション放火殺人事件がきっかけとなった。アニメを知っている人ならこのあとの推移の想像がつくと思う。
事件をきっかけに京アニ制作の『氷菓』を観て、そのまま米澤穂信の作品になだれ込むこととなった。
世間を騒がせた事件と他メディアからの展開の合わせ技で自分としては珍しいパターンとなる。

他の作品、作者についても書きたいところだが、行き着く先は自分の好みとかスタイルになりそうなのでここまでにしておく。

■最後に

最後に大きな問題が残った。
自分の小説を選ぶパターンの行き着く先は、「自分の好みとかスタイルになりそうなの」だが、それで止まって良いのか、たかが趣味の読書にそれ以上のことを考える意味があるのか、という問題だ。
この問題は必然的に〈読書する理由〉に行き着くはずだが、これ以上は思考停止して保留するのが現実的なんだろう。

たとえ保留にしたとしても、作者ひとりひとり、作品ひとつひとつとの出会いを思い起こしてみることで、自分の趣味嗜好が明確になり、場合によってはそのときの自分を振り返ることになりそうだ。
また、自分の読書の幅を広げる方法の足掛かりもわかってくる。

今まで賞レースと自分の読書は関係ないと思っていたが、幅を広げるのであれば積極的に受賞した作品を読むことも良いだろうと思えたのは収穫だった。そのためには自分の壁を壊す必要があるのだけれど、大したストレスではないだろうし、たまになら良いのかもね。

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