【禍話リライト】 孤独ゲンガー

 ドッペルゲンガーにまつわる短い話で、一人ぼっちゲンガーという話があるんです。孤独ゲンガーとでも言いましょうか。

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 Tくんの祖父の話になります。その人は若い頃からドッペルゲンガーをしょっちゅう目撃されていたそうです。

「きみ、昨日ぶらぶらと町を歩いていただろう。一人でサボタージュかね」

「まさか。その時は会社におりましたよ」

 こんなやり取りしょっちゅう。どうやら、お爺さんのドッペルゲンガーが町中をよくぶらついていたらしい。「ならば離魂病か」とドッペルゲンガーの古い言い回しで揶揄もされていたそうですね。

 大正に生まれて激動の昭和を駆け抜けて、Tくんのお爺さんは平成の中頃に亡くなられて。ところが、亡くなったにも関わらず、お爺さんの姿を町角で見たという人が後を絶たなかったそうなんですよ。

「あんたのとこの爺さん、たしかにこの前亡くなったよねえ?」

 田舎の、人付き合いが密にある地域ですから。当然、Tくんのお爺さんが故人であることを隣近所の人たちは承知しているわけです。

「ええ、はい……もしかして、見ました?」

「見た見た……」

 目撃した人によると、町中をまるで陽炎か蜃気楼のようにお爺さんがゆらゆら歩いていたんですって。いつか見たような格好をして。なんでもない顔をして。思わず手を上げ呼びかけたりしても無反応。近づこうとすると角を曲がったり物陰や死角に入って、すうっと見失う。

 町を闊歩しているお爺さんのカタチをしたものを見た人は一様に、見間違いじゃないあれは絶対あの人だった、と断言するそうです。

「祖父が……本体が亡くなって、それでドッペルゲンガーだけが孤独に歩き回っているんじゃないかなって。相方を失って一人ぼっちになったドッペルゲンガーが、行くあてもなく町中をふらふら彷徨って……」




この記事は禍話で語られた怪談を元に作成されました。
文章化に際して元の怪談に脚色をしております。何卒ご容赦ください。

出典: 燈魂百物語第五夜
URL: https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/348328666
収録: 2017/02/17
時間: 01:28:20 - 01:29:30

記事タイトルは 禍話 簡易まとめWiki ( https://wikiwiki.jp/magabanasi/ ) より拝借しました。