【禍話リライト】 テントの姉妹

 子供の頃は誰もが遊びの達人でした。何でもないものに遊戯性を見出し、ちょっとしたことを遊びに発展させるのなんて朝飯前。遊び場はグラウンドや公園だけではありません。学校や家の階段も廊下も通学路も全部、少しのきっかけで遊び場へと変貌させることができて。

 子供のおばけにとっても、それは変わらない性質のようです。

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 とあるキャンプ場に子ども会だかなんだかで夏休み中の小・中学生くらいの子どもたちを集めてキャンプをした時起こった出来事だそうです。

 それなりの人数が集まって、テントも10近くあったのかな。大勢でひとしきり遊んで夕飯を終えて。夜になって興奮も冷めやらぬ中、引率した大人たちが各テントを覗いては「もう寝なさいねー」なんて見て回って。それでもしばらくの間はワイワイガヤガヤ。すぐに寝れるわけありませんよね。

 さて、騒がしかった子供たちがようやく静かになったのは日付が替わる頃。日中の疲れが効いて、一度寝てしまえば後はシンとしたもので。そして大人たちが「じゃあわたしたちもそろそろ……あとは交代交代で見回りを」などと言っている中。

 しっかりと起きている男の子が一人だけいたそうです。というのもその子は同じテントの子たちと、深夜まで起きていようぜ、と示し合わせていたそうなんですよ。それなのに。

「いや、寝るんかい!」

 みんな、彼を置いてぐっすり寝てしまって。隣でいびきをグーグーかいている子なんか、「俺さ実は花火持ってきたんだ。後でこっそりやろうぜ」と得意げに言っていたのに。

「寝てるやないか!」

 しかしかといって、せっかく気持ちよさそうに寝ているのを起こすわけにもいかない。その子も「あーあ、もういいや。自分も寝よう」と目を閉じ眠ろうとしていたそうです。

 外は真っ暗闇。時々、見回りの大人が静かに歩いている気配はするけれどそれ以外は人の気配なんかしない。耳をすませば穏やかに鳴く夜鳥や虫の声が聞こえてくる、そんな夜。もう少しで眠れそうだな、と彼がぼんやり思っていたその時。

「6人」

「6人。正解。わーすごい」

 突然、二人分の幼い女の子の声が遠くから聞こえてきたんですって。一緒に来た子どものうちの誰かの寝言かな、と最初は思ったそうなんですけど、すぐに思い直して。寝言にしては二人同時に、というのが変だし、その声の調子が棒読みというか、演技のできない子が一生懸命覚えた台詞をただ読み上げている感じで。どうにも不自然。

「5人」

「6人。おしい」

「ああー、もう」

 どうやら二人は次々とテントの中を覗いては、その中にいる子どもたちの人数を当てるゲームをしているらしいんですね。

「じゃあ次。ここはね……うーん、待って……4……じゃない、5人」

「5人。すごい、正解」

 人数当てゲームをしているとして、その様子がおかしい。テントの入口は閉め切っていますから、中の人数を確認するのであればそこを開閉する物音がしてもいいはずなのに、そういう音は一切しない。人数を言ってすぐに正解かどうか答えている。

 おかしいなあ。どうして正確な人数がすぐにわかるんだろう。それに大人は「寝なさい」とか注意しないのかな……

 一人だけ起きてぼんやりまどろんでいた子もすっかり目が冴えて。何なんだこれ、と彼が考え込んでいる間も、テントの外では淀みなく人数当てゲームが続いている。あっという間に、その子のテントの番になってしまって。誰がやっているんだろうと、テントの入口をじっと見据えていたそうです。

「じゃあ次はここ」

「ここは……んー……5人」

 ところが、彼女たちの声は入口のある方ではなく、テントの側面から聞こえてきたんですね。「あれっ?」と思ってそちらの方を見てみたら。

「5人」

 テントの側面をすり抜けて、女の子の顔だけが中を覗いていたそうです。全く知らない女の子。息が止まって声も出せない彼を見下ろして、その子は先程までとは打って変わって声を明るく弾ませると、テントの外にいるもう一人の子に報告したんですって。

「正解! でも一人起きてた」

「うわあああっ!!」

 闇夜を引き裂く大絶叫にたちまち同じテントの子たちが跳ね起きて。もちろん大人も子供もみんな駆けつけてきましてね。その子はその子なりに一生懸命、事の次第を集まってきたみんなに説明しようとしたのですけれど、パニックになっていたせいもあって上手く言葉にできなかったそうで。

「テントを……! 女の子の……! 顔が……! 数を……!」

「何寝ぼけているの」

「ああもう、変な時間に目が覚めちゃった」

 大人も子どもも誰も、テントを覗き回っていた二人の女の子の姿なんて見ていない。「慣れない環境で変な夢でも見たのだろう」と決めつけられてしまって。彼の大絶叫だけが、みんなのキャンプの思い出として脳裏に焼き付いてしまったんですね。そしてその子が成長した今でも、時折思い出しては「あの時のキャンプのお前の絶叫、すごかったよな」と仲間内でからかわれているそうですよ。




この記事は禍話で語られた怪談を元に作成されました。
文章化に際して元の怪談に脚色をしております。何卒ご容赦ください。

出典: 燈魂百物語 最終夜(閲覧少々注意)
URL: https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/350334141
収録: 2017/02/24
時間: 00:10:15 - 00:14:20

記事タイトルは 禍話 簡易まとめWiki ( https://wikiwiki.jp/magabanasi/ ) より拝借しました。