【禍話リライト】 子供の成人式

 今現在、成人年齢は18歳ですが以前は20歳でした。変わるものですね。もっと前は「成人の日」といえば1月の第二月曜日ではなく1月15日に固定でしたから。まだ違和感を抱えてらっしゃる方も中にはいらっしゃったり。

 成人年齢を20歳から18歳に引き下げるだけでも喧々諤々の議論が積み重ねられてきたわけですが、古くは元服の儀式があったように、長い年月で見れば「成人」というのは多少なり幅があってしかるべきなんでしょうね。その時の社会の仕組みに左右されるというか。

 ただ、現代において小さな子どもに成人式は不要だろうという話が一つ。

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 Hくんが小学生の頃の話です。夏休みのある日、だらだらとしているといつも遊んでいる友達が家に来たんですって。Rくんとしておきましょうか。HくんとRくんともう二人。計四人で当時はよく遊んでいたそうなんです。ところが今日はRくん一人だけで来た。どうしたんだろう、と思ってHくんが玄関先に出るなり、Rくんはとても憤慨した言葉をぶつけてきたそうで。

「お前らさあ、最低だな」

「え?」

「ダメだよ。代理の人を寄越すとかさあ」

 Hくんからすると、Rくんが何に怒っているのかさっぱりわからない。ちょっと落ち着こうかと言って、家にあげて話を聞いてみたそうです。

・・・・・・・・・

 ちょっと前にさあ、遊ぶ約束をしただろ? ……は? してない? いや、しただろ。したって。間違いないよ。とにかく、いつもの場所で待ち合わせしてたんだ。いつって……昨日だよ。昨日。もう、いいから聞けよ。それで、お前らが来るのを待っていたらさ、全然知らんやつらが三人来たんだ。俺の方に来て、「待った?」みたいな感じで。話を聞いてみたらさ、お前らの代理で三人とも来たって、そう言ったんだ。遊びに代理ってなんやねん、って思ったけど、ケイドロのウルトラルールも完璧に把握しててさ。他のやつらには教えてないじゃん。それ。でもあいつら俺が教えなくてもちゃんと知ってたよ。そ、ストップウォッチも持ってきてた。

 それで俺、ああ、こいつら本当にお前らの代理なんだな、って思ってさ。結構長く遊んでたんだよ。気がついたらあっという間に夕方で。するとあいつらがさ、

「あ、もう夕方の4時か」

「じゃあそろそろ神社に行って成人式をしないとな」

 って、そう言い出したんだよ。俺が「なんで成人式?」って聞くと、

「成人式だよ。ほら、今日、成人式をやる日だろ?」

 って。意味わからないけどさ、今までさんざん一緒に遊んだのに、よくわからないから俺一人だけ先に抜けるわ、なんてできないじゃん。

 だから一緒にXX神社まで行ったんだけどさあ……

・・・・・・・・・

 その神社はHくんたちの生活圏からちょっと外れた地区の、山の中腹にある神社で、長い階段を上った先にあったんです。

 彼らは息を切らして石段を上りきると、誰もいない神社の境内へとたどり着いた。

「よーし、じゃあ成人式しようか」

 そう言うと、三人が手に手を繋いだんです。両端の二人がRくんに手を差し出したので彼も両手を繋ぎ、四人で一つの輪になった。Rくんが繋いだその二つの手は、さっきまで駆け回っていたとは思えないほどひんやりとしたものだったそうで。

 それはさておき、何をするんだろうと思って彼がじっとしていると、一人が突然歌いだしたんです。

からすが──」

 聞き慣れない歌詞と旋律に驚いているRくんに、大丈夫、後に続けばいいんだよ、と他の二人が教えましてね。それで輪唱のようなものが始まったんですって。

「烏が」
「烏が」

 歌詞の内容はというと、誰かが泣いているのを歌の登場人物たちがあやしている、そんな内容だったそうです。赤ちゃんが泣いているのだったら、お父さんやお母さんが出てきそうなものですが、歌に登場するのは烏やお月さま、それに電信柱と、脈絡のない、意味不明なものばかりだったそうで。

「いつになったら」
「いつになったら」

「泣き止むものやら」
「泣き止むものやら」

「わからない」
「わからない」

 そのように十分近く同じ歌を繰り返し続けて、「これいつまでやるんだろう」とRくんがいい加減辟易してきたところ、突然、彼らはふっと歌うのを止めたそうです。

 あっ、これで終わりかな。

 ところが、Rくん以外の三人は顔を伏せてうなだれてだんまりなんです。

 あれえ……まだ終わりじゃないのかな。

「ねえ……」

 声をかけても返事はない。なんだかやだなあ、と思っていると、山の陰で日暮れが早かったんでしょうね。あたりが急にどんどん暗くなってきたんですって。街灯の明かりもないものですから、手を繋いでいる左右の子達もどんどん暗闇に溶けていくような気がして。静かに吹く風だけがざわざわと木々の葉を揺らしている。

「なあ、って」

 Rくんが声をかけてもなお、彼らは俯いて表情は見せないまま。腕に力を込めて振りほどこうとすると、指先が白むくらい強く握ってくる。

「や、やめ……」

 怖くなって半泣き状態になっていると、夕方五時を知らせる童謡のサイレンが流れたそうです。Rくんの家は門限が夕方五時半だったらしく。まあ、そこまで厳格な家庭ではなく、その時間くらいまでには帰っておきなさい、程度のものだったらしいんですけど。でもいいタイミングだと思って。

「ごめん、もう五時だし俺帰らないといけないわ。うち、門限あるんだ」

 Rくんが勇気を振り絞ってそう言いましたら、今まで押し黙っていたのに、その三人、突然ばあっと顔を上げて彼の両手を放しましてね。

「そうだね! 今日はもうこれで成人式、お開きにしようか!」

 と、そう言い放ったそうです。彼ら三人は手を繋いだまま。

「うん、じゃあお疲れ様でした!」

「お疲れ様でした!」

「お疲れ!」

 呆然としているRくんをよそに三人はわっと言うと、その手を繋いだまま走り出して、たーっと神社の階段の方へ駆けて行ったっていうんです。

 彼もぎょっとしてすぐに後を追ったんですけど、全速力で石段を駆け下りたのか、もう彼らの背中は見えなくて。階段のてっぺんから見下ろしても、夕暮れの長くて誰もいない階段がずうっと下まで続いているばかり。

 階段を下りきって少し行った先に曲がり角があるから、そこを曲がって行ったのかな、程度にその時のRくんは考えましてね。あっという間に一人ぼっちになった寂しさを感じつつも、代理人だしちゃんとした友達でもないしそういうものかなあ……と思って家路についた、ということなんですね。


「──だからお前さあ、よくないよ。遊びで代理の人をよこすなんて。遊ぶのが無理なら無理、って言えばいいだけだろ。しかもお前さ、昨日、俺が家に帰ってから電話したのに、無視して出なかっただろ」

「電話? いや、昨日は普通に家にいたけど、鳴らなかったよ……?」

 当時は誰も携帯電話なんか持っていなくて、電話といえば家にある固定電話なんですね。その時間、Hくんの家に電話なんかかかってきていないんです。いくら相手がかけたといっても、ないものはない。

「はあ? そういうこと? 俺、仲間外れなわけ?」

 またぷりぷり怒り出しましてね。

「ま、待って。そんなことないから落ち着けって」

 それでちょっと彼を落ち着かせますと、Hくんが話を聞いている途中で思い浮かんだ疑問点を全部尋ねてみたんですね。すると、そもそも彼、一緒に遊んだ代理人たちの名前も知らなかったんです。

 色々指摘されると彼自身の違和感もどんどん湧き上がってきたのか、みるみるうちに青ざめていって。

「それにさあ、お前の言う神社を下りた先の曲がり角って、たしか昔からある古い墓地に繋がってるだけで、あとは行き止まりだったろ……?」

「えっ? あっ……!」

 二人共背筋がぞおっとしまして。すぐに、Hくんの家から他の二人にも電話をして確かめてみたんですって。でも他の二人ももちろん、遊ぶ約束をした覚えもないし昨日電話もかかってきていないと、そう言うんですね。

 彼らが大人になった今も、あの時の成人式が何だったのかさっぱりわからないそうですよ。




この記事は禍話で語られた怪談を元に作成されました。
文章化に際して元の怪談に脚色をしております。何卒ご容赦ください。

出典: 燈魂百物語 第三夜
URL: https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/342615224
収録: 2017/01/28
時間: 00:41:30 - 00:47:55

記事タイトルは 禍話 簡易まとめWiki ( https://wikiwiki.jp/magabanasi/ ) より拝借しました。