【禍話リライト】 だるまさんが混ざった
だるまさんが転んだはよくないんじゃないかなあって話があるんですよ。いやいや子供の遊びじゃん、と舐めてはいけません。廃墟や心霊スポットでやるのはもちろんのこと、真夜中の公園でだるまさんが転んだをやるのもよくないかもしれない。
それも酔っ払い同士で。
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とある会社の人たちが集まって飲み会をやったんですって。翌日は休日。それはもう、飲んで、飲んで、飲みまくって、酔っ払って。お店から出ると帰り道はベロンベロンの千鳥足。
「部長のバカヤロー!」
「そうだ! そうだ!」
などと人通りのない道をぎゃあぎゃあ騒ぎながら四、五人で歩いていますとね。ちょうど、広い公園のそばを通ったそうなんです。隅にブランコだけあって、あとはグラウンド、みたいな。サッカーや野球の真似事ならできるかな、くらいの広さがある公園。
すると何故か、酔っ払いの一人が急に「だるまさんが転んだ」をしたくなったんですって。
「だるまさんが転んだやる人~~」
「イェー」
「 だるまさんが転んだ、やるぞーー!!」
「イェーーイ!!」
言い出しっぺの人が「俺、オニ~」と宣言しまして。ふらふらと公園の真ん中あたりにある街灯まで行きますと、そこにおでこを当てて早速始めたそうです。
「だーるーまーさーんーがー……転んだっ!」
他のみんなも酔っ払いですから。「やる」とは言ったものの、全然準備なんかしていない。当然の如く誰もスタートすら切っていないんです。ただ、公園の入口あたりでゆらゆらしているんですね。
一方でオニをやっている彼も酔っ払っているものですから。他のメンバーがぶらぶらしている姿が妙にツボにハマって、「ヘイヘーイ!」などと笑いながら、また街灯の柱の、ひんやり冷たい金属部分におでこを当てて。
「だるまさんが転んだ!」
今度は早口で言ってみたそうです。ところがやっぱり、誰も一歩も進んでいない。
誰も全然進まないものだから、数分近くやっても全然終わらないんです。周囲に人家はないし散歩をしている人もいないので、「やかましいぞ! この酔っ払いども!」と、怒鳴り込んでくる人もいない。ある意味、だるまさんが転んだをやるには適した環境。
「だるまさんが転んだ!」
ようやく何名か一歩か二歩だけ進んだかと思うと、「お~」なんて得意げにしている。
さて、そんなこんなで酔っ払いたちはだるまさんが転んだをダラダラと続けているわけですが、もうぐだぐだ。
中には進むべき方向さえ曖昧になって、正反対の、入口に向かう酔っ払いまで出る始末。
「おーい、お前! そっちは違うぞー!」
「うぇーい?」
みなさんお酒が入っていなければ極めて真面目な方々らしいんですけど、この日は違った。もう、久しぶりに童心に返ってやるだるまさんが転んだが楽しくて楽しくてしょうがない。
「っだーー!!」
オニの彼なんか「だるまさんが転んだ」を省略して適当に叫びだしてるんですけれど、他のみんなもゲラゲラ笑いながらそれに興じているわけです。
「それじゃ、動けないだろー!」
「どうせお前ら、ろくに動かないじゃねーか! ほらぁー、いいから早く俺のもとへ来い! 続けるぞ!……だるまさんが、転んだ!」
と、振り返ったところで、彼は「おや?」と首をちょっとかしげて。というのも、公園の入口に知らないヤツが立っていたそうなんですよ。自分たちと同じくらいの背格好をしたサラリーマン風の男が。
もしかして、通行人が見物してるのかな……と、オニの人はぐわんぐわん揺れる頭で思いまして。よおく見ておけ、と言わんばかりに、威勢よくまた「だるまさんが転んだ!」とやったそうです。
すると、さっきの男。入口から進んで、公園の中までやってきて静止しているんですよ。ゆらゆらしている同僚たちの最後尾にぴたりとつけている。
参加してくれた!
こいつはますます面白くなってきやがったと。正常に頭が働いていれば、深夜に酔っ払いたちが興じているだるまさんが転んだに飛び入りで参加するヤツなんてやばい、となるのに。
お酒というのは怖いものですね。
やっぱり、だるまさんが転んだは万国共通の合言葉だな、とかなんとか、わけのわからない理由をつけて自分で納得すると、飛び入り参加の男にも自身の嬉しさが伝わるように拳を掲げて景気よく声を上げたそうです。
「じゃあ、続き、やるぞー!」
「おお~っ!」
「だーるまさんがーー転ーんだっ!」
振り返ると、最後尾にいた男はかなり前に来てたんですって。しかも周囲の酔っ払いたちとは違ってきれいに静止している。ところが何故か、誰も急遽加わってきた人物に対してリアクションを取っていない。
あれっ? なんで誰も参戦してきた人に反応ないんだろう……別の課とか、誰かの知り合いなのかな……?
そんな程度に考えて、次はフェイントで「っだー!」と叫びつつ、素早く振り返って。
ごぼう抜き。男は酔っ払いたちの一番前にいるんですよ。しかも意味がわからないことに、布団のシーツのような布を両手で持って、ニコニコ微笑んでいて。
「だるまさんが転んだ!」
するともう、布を持つ男は酔っ払いたちを置き去りにして一人独走状態。あと二、三回もやればオニの彼にタッチできる。そんな距離。
すげえな、こいつ……
酩酊する頭で称賛していると、突然男は両手に持っていた布を頭上に掲げたんです。
「あーっ動いた!」と指摘しようとしたけれど、彼、固まっちゃって何も言えなくて。というのも男が掲げた布。完全に停止していたんですって。
風にはためくこともなびくこともなく、空中に固定でもされたかのように布はぴたりと一時停止している。それに他のメンバーは相変わらず、その男の存在に気が付かないでいるんですね。目の前にいるはずなのに。あたりは充分明るいのに。「おーい次はまだかぁ。早くしろぉ」なんて、オニの気も知らないで、やいのやいの言っている。
この状況は絶対おかしい。もう次でやめよう。
そう考えると、オニの人は素早く片付けるために、
「っだー!」
と短く叫んですぐに振り返ったんです。
するとね。すぐ真後ろに、頭から布を被った男が立っていたんですって。すっぽり被った布から生えてきたような腕がぬうっと動いて、彼の肩に手を置いてきたそうですよ。
「うわーっ! ちょいちょいちょい!!」
肩に置かれた手を振り払うと、揺れる視界の中懸命に走って公園から飛び出して一目散。そして公園から離れた道端でガタガタ震えていると、後から何も知らない仲間がゆらゆらと追いついてきましてね。
「なんで逃げたの」
と、興ざめした感じで彼を責めたそうです。
「いやそれがさあ……」
と事情を話しても、「幻覚じゃないの」とあしらわれる始末。
そうなのかなあ、夢だったのかなあ、と、その人もしばらくはそれで納得することにしていたそうなんですが。
それから一ヶ月くらい経ったある日の仕事上がり。例の公園のそばを通ってみたそうです。なんとなく公園の掲示板に目がいって。すると注意喚起を呼びかける一枚の貼り物が彼の目に飛び込んできた。
深夜にだるまさんが転んだをしてしまったせいで、公園に何かを呼び寄せてしまったのでしょうか。
彼は何も知らないフリをするとそそくさとその場を離れて。その公園には絶対に近づかないようにしている、ということです。
この記事は禍話で語られた怪談を元に作成されました。
文章化に際して元の怪談に脚色をしております。何卒ご容赦ください。
出典: 燈魂百物語第四夜②
URL: https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/346634722
収録: 2017/02/11
時間: 00:19:15 - 00:25:00
記事タイトルは 禍話 簡易まとめWiki ( https://wikiwiki.jp/magabanasi/ ) より拝借しました。