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百のあやかし絵物語。
先日ウルトラマンの小冊子を持ってきて「読め」といった友人が何やらあやしげな本をそっとしのばせていた。年季の入った新潮文庫版、杉浦日向子著『百物語』。怪獣とあやかしの侵略で、ゴールデンウィークの我が家を魑魅魍魎の館にする気らしい。
杉浦日向子さんが亡くなってもう18年になる。恥ずかしながら昔々NHKで放送していた「コメディーお江戸でござる」の江戸風俗の解説でお目にかけた物腰の柔らかい品のある方という印象が先に立ってしまう。もちろん有名な漫画家であることは存じ上げていたが、作品に触れることはなく著作も「江戸アルキ帖」の1冊しか持っていない。ということで、恐る恐る頁を繰ってみる。カバーのそではすでに切れて栞のようになっている。かなり読み込まれているようだ。
古より百物語と言う事の侍る
不思議なる物語の百話集う処
必ずばけもの現れ出ずると
其ノ一、縁側で庭師がご隠居にする「魂を吞む話」からはじまる百の物語。ひょうひょうとしたタッチは、怖いというより読み進むうちに心がやわらかく、穏やかになっていく。ふと虚弱体質だった子供の頃、布団の中から見上げている天井の「節」がさまざまな形に見えて目を凝らしていたことを思い出した。
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「畏怖の念」というのは必要なものなのだなと、読みながら思う。それは当たり前の事ではあるけれど、恐れ遠ざけることとは全く違う。むしろ対象をよく知り共にあることを確かめるための心の動きなのだと思う。錦の御旗のように振りかざす「再開発」とやらも、さてそのココロはどうなのか。