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風わたる。軽井沢千住博美術館という空間

もう3年前のこと。晩夏の軽井沢。その日は朝から雨だというので美術館をまわることにした。ワイエス展以来のセゾン美術館から、まだ訪れたことがなかった千住博美術館へ。8月も終りだというのに星野リゾートのあたりは人が多い。ほんの10分ほどの移動の間に雨はやんだ。
樹々を配したゆるやかな傾斜のある空間に、連作のウォーターフォールがまず目に入る。長椅子に座ると、ついさっき外で感じた雨上がりの清しさをそのまま持ち込んだ心地よい風が渡っていくようだ。その風の匂いを感じながら空間ごと作品に眼を向ける。ここでは芸術作品を鑑賞するという緊張を強いない。空間に身を委ねていると、自ずから作品のそばへ吸い寄せられていき、館内(園内と言った方がふさわしいか)を彷徨うことになる。建築にあたって西沢立衛氏は「公園でもあり、同時にプライベートなリビングでもあるような、開かれた空間を目指し」たとの事。

公式ガイドにある模型など建築のためのスタディ

千住博氏は若い頃「こんなの日本画じゃないよ」とさんざん叩かれたらしい。それが西沢立衛氏という若い建築家との邂逅(設計時は40代前半)につながった。日本画というものにほとんど親しんでこなかった(千住博という名前は知っていたものの)門外漢が足を運ぼうと思ったのも、この建築あってこそ。季節が変われば、いや天気が変われば作品の表情もきっと変わるに違いない。それは粛々と順路に従って進む額縁アートにはない素敵な体験だ。


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