白石加代子「百物語」~遠い記憶/干魚と漏電
白石加代子の「百物語」を北千住駅前にあるシアター1010(せんじゅと読む)で観る。昨年「阿部定事件予審調書」を観ているので2年続けての「百物語」なのだ。北千住は千葉に近いにもかかわらずほとんど降り立ったことはない。再開発された駅前に限ってはザ・下町の面影はなく、ポカポカ陽気の三連休の中日、ワカモノの姿が目立つ。
「もーこんないい天気にわざわざ怖い話なんかにぎにぎしく来て頂いて」という白石さんの挨拶があって一幕目が始まった。演目は「遠い記憶」で、岩手在住の作家・高橋克彦の作品。幼い頃過ごした盛岡へ仕事で行くことになった主人公、立ち寄った料理屋で女主人が盛岡を案内するという。案内に従っていくうちに、たどり着いたのは・・・。遠い記憶の中から徐々に露わにされるおぞましい風景を、まるで漏斗に注がれるように身を預けて舞台に見入ってしまう。どうやら百物語の中で最も怖いと言われているらしい。過去にドラマ化もされているので知っている人は多いかも知れない。
幕間があって、二幕目の演目は阿刀田高作「干魚と漏電」。「遠い記憶」では和服だった白石加代子が今度はフリフリの部屋着で登場(下妻物語か!)して、のっけから吹いてしまう。引っ越し先に男が電気料金の徴収にやってくる。思い当たる節もないのに急に上がった電気料金に納得がいかないフリフリおばあさんは、ああだこうだと難癖をつけて支払いを拒否、最後は調査員がやって来て家中大々的な探索が行われる。そこで発見したコードを辿っていくと・・・。この話は一体どこへ飛んでいくのやらと、さんざん笑わせておいての急転直下で幕は閉じられる。干魚がいい味を出している。
趣を全く異にする2つの作品で白石加代子の世界を堪能。「百物語」はこれで一旦打ち止めにして、また新しい舞台に取り組むとのこと。一部で引退が囁かれたようで、これについては「やめませんよ」ときっぱり否定。まだまだ元気な82歳なのだ。