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放課後の落ち着く空間。

体育館に入り、バスケットボールやバレーボール部が青春の汗を流しているその脇を、決してお邪魔はしないからとそろそろと通り抜ける。頭の上のバルコニーでは決まって数人の女生徒がそれぞれの「推し」を熱いまなざしで応援しているのだ。バスケットボールやバレーボールは、練習を間近に見られるのでファンがつきやすい。

ステージに向って左手、即ち下手の扉をギギーとあけ、用具置き場でもあるスペースに設置された階段を3階まで上がると完全防音の部屋がある。8~10畳分くらいだったろうか、さして広くもない空間に所狭しとアンプやキーボード、マイクスタンドなどが置かれている。放課後になると何やら怠惰な連中が三々五々集まってくるその場所がフォーク部の部室だ。おそらく発足時の名称がそのままになっているだけで、何もみんなで「遠い世界に」を合唱するわけではない。井上陽水な人もいればリッチー・ブラックモアそのものの風貌の人もいる。いくつかのグループがどうやってこの場所を割り当てていたのかはもう忘れた。アンプラグドな人たちはどこかの教室を使っていたのかも知れない。

小窓からはステージを見下ろすことができる。舞台上ではブラスバンド部がよく練習をしていた。排球、籠球、吹奏楽、どの部も指導の先生がついて統率のとれた部活が行われている。窓越しに眺めながら「うーん、青春だねえ」なんて言いながらタバコに火をつけている。フォーク部にももちろん顧問の先生はいるのだが、形ばかりでこの部屋に顔を出すことはまずない。教師の無関心をこれ幸いと体育館裏の武道館から剣道部や柔道部の部員がよからぬ息抜きをしに時折やって来た。よからぬといっても吉行淳之介の「暗室」のようなエロチックな事は決して起きない。

ひとしきりとりとめもない話をしたあとで「練習でもすっか」となるのだが、このデカダンでアンニュイ、インモラルな雰囲気がそれまでの中坊時代には経験することのできなかった似非オトナ感で好きだった。雑多に置かれた音響類と足下をはう幾本ものケーブルは、その気分を増幅させる格好のツール。清く正しくとは遠く離れたところで奏でられる音への誘惑。歩いて3分だったのをいいことに在学中、アンプ・スピーカーそれぞれ1台をわが家に無断で持ち出していたことを改めてお詫び申し上げます。


写真は八千代市を流れる新川畔の桜並木にて。今年は例年になく遅い開花で、久しぶりに千葉あたりの学校は入学式に桜吹雪という格好のロケーションになるかと思いきや、今日は朝から激しい雨が「そうはさせじ」と降っている。


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