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【連載開始!】dely IPOの舞台裏:①delyが挑んだ上場審査の概観とスイングバイIPOに関する論点


1. はじめに

はじめまして。dely株式会社でコーポレートサイド(経営管理本部:法務/労務/総務/情シス管掌)の執行役員をしている石原遥平と申します。
2024年12月19日、deyは東京証券取引所グロース市場に上場しました。

上場セレモニー終了後の写真。この日を迎える前日まで本当に色々ありました。

IPO準備は約10名の経営企画・経理/財務・労務・法務・内部監査・広報からなるメンバーが中心となりプロジェクトを推進していました。この中心的なメンバーに加えて、IPO準備とは全く別軸で着実にプロダクトの開発や業績を達成してくれたdelyのビジネス&開発メンバー、そしてサポートしていただいた各主幹事証券会社・監査法人・その他の皆様に改めて感謝と御礼をお伝えしたいと思います。本当にありがとうございました!

Project code nameは”Sun”。当社のVISIONでもある”BE THE SUN”から取ったこのコードネームと共に、約1年半走りぬいた、その軌跡をまとめていきたいと思います。

私自身は2021年10月に社外監査役としてdelyに関与し始め、紆余曲折があった2024年の3月に辞任して4月から”中の人”として上場審査にガッツリ入り込んで最後は東証との窓口も対応させていただきました。
delyにとってのIPOプロジェクトは、単なる上場するためのプロセスではなく、企業としての成長戦略を進化させるプロセスだったと思います。
本記事では、第1回目として、delyが経験したIPO審査の流れの大枠を振り返るとともに、今後続く連載の概要の説明と、親子上場(最近のトレンドに乗って以下「スイングバイIPO」といいます。)に関する審査の論点について解説します。
スイングバイIPOに関しては、国内の資本市場における市場環境や投資家の関心が高まる中で、東証としても審査の際に適切な時間をかけるべき領域として認識されていました。そのため、我々も万全の準備をして臨むことが求められました。

こちらの朝倉さんの記事にもあるとおり、今後日本のスタートアップ界において、ソラコムさんと併せてモデルケースになって行くと思いますので、記憶が新鮮なうちに書き残したいと思います(これ以外にも公開できない内容が沢山ありますが、その辺は察して(ご容赦)ください)。

東証も直近リリースを出しており、今後5~10年くらいはトレンドになる気もしておりますので、将来的にIPOを目指すスタートアップの中で既に働いていらっしゃるみなさんも、スタートアップに興味のあるビジネスパーソンのみなさんも、ぜひご一読いただき、よかったらスキ&シェアしてもらえると泣いて喜びます!




2. 3回にわたるdelyのIPOチャレンジの歩み

ちょうどタイミングよくこの記事が出たので引用させていただきますが、実はIPOを2回延期していて、今回が3回目のチャレンジでした。市況が悪くなってしまったり色々な理由が重なって延期してきた中で、満を持して、三度目の正直で上場を果たしたことになります。

delyのIPO準備は、長期にわたる挑戦の積み重ねでした。おそらく、無理すれば2022年でも、2023年でも上場できたのでしょうが、そのタイミングで上場していたとしたら、現在のdelyの姿(複数の成長事業と経営陣の視座の高さ)はなかったのではないかと思います。
具体的には、ガバナンスの強化、内部統制の整備、事業戦略の精度(KPI管理や財務予測の精度)向上、企業カルチャーの浸透(Vision Dayの開催、Principle(企業理念・行動指針)の策定)などです。
企業としての成長と成熟が大きく進んだ期間だったといえ、強い組織を作るために必要な過程だったと確信しています。

2018年:IPO準備開始

  • 事業の急成長とともに、上場という選択肢を模索し始めるものの、コーポレートサイドの体制整備が追い付かず断念。

2021年(1度目のIPOトライ)

  • 2021年より本格的な上場準備を進める

    • 主幹事証券の選定・審査準備を改めて開始。

    • 事業ポートフォリオの拡大、新規事業の立ち上げが進む。

  • グロース市場銘柄の調整局面により審査プロセスを停止

    • 市場環境の悪化を受け、株式市場の状況を見極めることを優先。

    • 本格的な主幹事証券による審査プロセスは一旦ストップし、事業成長にフォーカス。

2023年(2度目のIPOトライ)

  • さらなる事業成長の実績の積み上げ

    • クラシルリワードの成長期待LIVEwithのオペレーション改善が順調に進行。

  • 再度、市場環境を見極めて審査プロセスを停止

    • 当時の広告市況の悪化、金融市場の不安定さを考慮。

    • 現在柱としている「認知・購買・その他(M&A)」の事業の柱が確立したタイミングで上場すべきと判断。

    • 再び、本格的な主幹事証券による審査をストップ。

2024年(3度目の挑戦で上場達成)

  • 2023年後半より、本格的に主幹事証券による審査を開始。具体的なタイムラインは以下のとおりです(資料提出も含めた事前質問に対して各ヒアリングの2~3週間前期限で回答を提出したうえで審査部から具体的なヒアリング事項を受領)。

    • 証券審査

      • 第1回証券審査:4月22日

      • 第2回証券審査:6月14日

      • 第3回証券審査:7月25日

      • 第4回証券審査:10月25日

  • 2023年夏から東証審査を開始。具体的なタイムラインは以下のとおりです(証券審査よりも遥かにタイトな(質問受領から4営業日以内の回答など)スケジュールで対応することになります)。

    • 東証審査

      • 第1回審査:9月19日

      • 第2回審査:10月3日

      • 第3回審査:10月17日

      • 第4回審査:10月30日

      • 独立役員・監査役・親会社面談:11月12日

      • 社長説明会:11月19日

  • 東証審査後にも、実はこんなにも対応すべきドキュメント類がありました(定例MTGで使っていたNotionのスクショを載せておきます)。

ステークホルダーも多いので、定例での進捗確認は必須です
  • 2024年末、ついに上場承認を取得し、delyは新たなステージへ。

上場承認日当日の写真。奇跡的に空には虹🌈が(逆光で恐縮です・・・)!!
※東証申請から承認までだけでも、TodoリストのNo.は1~141!!


3. コーポレート組織構成

IPOは全社を巻き込むプロジェクトですが、特にコーポレート部門が中心となって推進しました。
delyでは、以下のような体制でIPO準備を進めました。

CFO
IPO全体の統括、資本市場戦略、投資家対応(CEOと共に)
経営企画
開示文書作成、証券会社との折衝、ロードショー対応(マテリアル作成含む)
法務
スイングバイIPOの整理、規程整備、開示文書作成
経理
上場企業基準の決算対応(SBグループであるが故の驚異の4営業日締め!)
内部監査
J-SOX対応、業務監査、内部統制強化
広報
IRサイトの制作・IPO前後のメディア対応
労務
IPO前の労務リスク整理、監査対応



4. IPO審査の全体像

delyのIPO審査は、以下の3つのフェーズに分かれました。

🔹 準備フェーズ(2023年6月〜2024年3月)

  • 内部管理体制の整備、規程類の策定

  • 事業計画のブラッシュアップ

  • 証券会社とのディスカッション再開

🔹 証券審査フェーズ(2024年3月〜8月)

  • 証券会社による引受審査(合計4回の質問への回答とヒアリング)

  • 事業成長性・ガバナンスの適正性の確認

  • 上場申請書類(Ⅰの部・各種説明資料・その他大量の資料)のドラフト作成

🔹 東証審査フェーズ(2024年8月〜上場日)

  • 東証内での合計4回の質問回答とヒアリング

  • 社長・役員面談

  • 上場申請書類(Ⅰの部・各種説明資料・目論見書)の最終調整

  • 上場承認




5. スイングバイIPOにおける審査の論点

スイングバイIPOに関しては、東証も継続的に検討している論点が多岐にわたっており、一般的なIPOスケジュールよりも長めの審査期間を要求されました。
詳細な内容はこちらに記載できないことが多いのですが、一般的には、投資家が適正に判断できる環境を整えるため、以下のような点について詳細な確認がなされると言って差し支えないと思います。

① 取締役会の独立性

  • スイングバイIPOを実現するためには、取締役会が適切に機能しているかが重要視されます。

  • そのため、delyのケースでも、親会社からの派遣取締役の人数や役割、独立社外取締役の構成やガバナンス体制の整備状況が確認されました

  • 我々としても、取締役会の運営プロセスを適切に説明できるよう、審査前の準備を進めました。

② 事業運営の独立性

  • スイングバイIPOにおいては、子会社が独自の成長戦略を描けるかどうかが重要なポイントです。

  • 東証の審査では、当社の事業戦略が独自に策定されていることを説明し、投資家が適切に評価できる体制が整っていることを示しました

  • 具体的には、当社単独での市場拡大や収益モデルの構築をどのように考えているかを丁寧に説明しました。

③ 投資家に対する説明責任

  • スイングバイIPOの場合、投資家が適正に情報を得られることが重要です。

  • そのため、delyとしても、投資家向けの情報開示を強化し、スイングバイIPOに関する理解を深めてもらう取り組みを行いました

  • 特に、競争環境や今後の成長戦略を明確に示すことで、投資家が納得感を持てる形を整えました

具体的な確認事項の一例を挙げると、以下のようなものになります。

  • 出資・連結経緯

  • 親会社グループにおける位置づけ・役割

    • 事業上の棲み分けができているか

    • 関係会社に競合となる会社が存在しないか

  • 今後の出資方針

    • 上場後においても連結子会社とする方針を維持するのか

  • 将来的に仮に連結が解消された際に、両者の事業運営に重大な影響を与えうる関係性の変化や業績面での受ける影響について、認識されている事項

    • 取引継続の合理性

    • 親子会社間で締結されている契約がある場合、実質的に連結維持が契約継続の前提になっていないのか等

  • 上場時に持分を維持するための親引け実施意向の有無

    • 公正配分の規則に照らして問題ないか

  • 事業運営に関する関与の有無

    • 日常業務上の意思決定及び戦略的意思決定への関与状況

  • 派遣取締役・出向者について

    • 派遣方針

    • 変更可能性の有無

    • 相互の出向者受け入れ予定の有無

以上の論点に適切かつ的確に回答するため、以下のような工夫をして対応した結果、特段厳しい指摘もなく、審査を乗り切ることができました。

🔹 事前相談の活用と証券審査での綿密な準備

  • 過去の上場事例を参考にし、スイングバイIPOの審査ポイントを整理

  • 想定される質問への回答を事前に作成し、社内での準備を徹底しつつ、親会社とも認識のすり合わせのための機会を設定

🔹 東証審査でのガバナンス対応

  • ガバナンスの透明性を確保し、納得感のある説明を行う

    • 例えば、東証審査や役員面談で以下のような質問が東証からなされるのですが、下記のようなドラフトを回答案として準備して、上場企業として十分な体制であることを前提に今後も継続して向上を図るというスタンスで面談等に臨みました。

      • (問)コーポレートガバナンス・コードへの準拠に対する経営者としての考え方や取り組み方について

        • (答)当社は上場親会社を有する上場子会社となる予定であり、少数株主保護の観点からもコーポレートガバナンス・コードに準拠していくことは重要と考えています。上場準備過程においては内部監査の強化など、様々な取組を実践してきており、ガバナンスについては十分な体制が整備できていると考えており、特に一般のグロース企業対比では申し分ない水準であると認識しています。無論、ガバナンスは継続的な意識付けとレベルの向上が必要であり、今後も継続して体制整備に取り組む所存です。

      • (問)関連当事者取引や経営者が主導する取引に対する適切な牽制が効くための体制の整備状況

        • (答)親会社との取引は一定程度存在するものの、いずれも事業上の取引であり、取引の必要性(合理性)や取引条件の妥当性については常に確認の上、必要以上に取引を拡大しないように注視しています。それ以外について、例えば役員による関連当事者取引等は発生しておらず、また、代表取締役が独断で推進し決裁を主導するような取引もなく、社内で定めた職務権限等のルールに基づいて厳格に運用する所存です。なお、派遣取締役1名のみで他に出向者はおらず独立性は担保されていますし、親会社のCG報告書でも子会社の独立性保持が報告されていることに加えて、事前承認事項等はなく、事業・経営は自由に行われており、事業調整が行われる状況にもないと理解しています。

      • (問)上場後も親会社との連結関係を維持する目的について

        • (答)一定の事業シナジーが見込まれることに加えて、経営陣の視座が上がることのメリットが非常に大きいと考えています。




6. まとめ:IPO審査を通じて学んだこと

delyのIPO審査を通じて、スイングバイIPOにおける審査のポイントを改めて整理すると、
一般的な審査よりも長めの審査期間が設定されるため、余裕を持ったスケジューリングと事前の準備(主幹事証券とのすり合わせと東証事前相談)が重要
投資家向けの説明資料を工夫し、納得感を高めることが求められる
事業の独立性やガバナンスの透明性をしっかり示すことが大切
といったところがいえるでしょうか。

delyとしては、この経験を活かし、上場後もガバナンスの透明性を高めながらさらなる成長を目指していきます。
なお、本連載の第2回以降で予定しているコンテンツは以下のとおりです(タイトルはあくまでも仮です)。いずれも最新のIPOトレンドを掴むことにも寄与する貴重な資料になると思いますので、乞うご期待!!!

【内部監査】業務監査あれこれ 内部監査・内部統制・J-SOXってそもそも何??
【労務】IPO審査前にやっておいたことが良いこと 手戻りが発生しないデータ基盤の構築に向けて
【経理】グループ会社の宿命? 超短納期の決算~4営業日でどう締める?~
【広報】ひとり広報でも結果を出せる! IPO前のメディアリレーションの作り方〜 当日の動きまで全公開
【経営企画】主幹事証券会社のリードの仕方と成長可能性資料の作り方
【CFO】IM/ロードショー関連 そのほかPJT全般について


7. We are hiring!!

いかがでしたでしょうか?
長すぎると読んでもらえないので、紙幅の関係で泣く泣くバッサリ切り捨てざるを得ないテーマがいくつかあったのですが、そこはまた追々記録として残すためにもコツコツ書いていくとして、ひとまずトップバッターとしての役目を果たしてほっとしております笑。
以上のとおり、delyは3度目のチャレンジでようやく上場を果たしたとはいえ、これはあくまで新たなスタートラインに立ったにすぎません。むしろ、ここからが本当の勝負です。
これまでの成長スピードを維持しながら、さらに大きな挑戦を続けていく必要があります。
全社的に採用に力を入れていますが、特にコーポレート部門では、上場企業としての新しい課題に取り組むメンバーを募集しています。
その中でも特に経理メンバーが急募です!
ちょうどうちの自慢の経理チームの記事が公開されましたので、ぜひこの記事を見て気になった方はご連絡いただけると嬉しいです。


そのほかにも、
スタートアップでのガバナンス構築に興味がある方
スイングバイIPOや資本市場の仕組みに関心がある方
経営視点で企業価値向上に貢献したい方
がいらっしゃいましたら、ぜひご一報いただけますと幸いです。

私たちと一緒に、新生delyを創り上げていきましょう!



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