池田さんはバッドエンドを書かない。
僕は今、すごくハマっている作家がいる。
「Telepan」先生だ。実体験をもとにした創作小説を、ネットを主戦場として投稿するとたちまちヒット。手描きの挿絵(超上手い)も人気で、毎日投稿の小噺とたまに出る長編小説の双方で最近評価がうなぎのぼりの作家として話題になっている。
そんな正体不明のTelepan先生だが、1人心当たりがある。
同じクラスで、今隣の席にいる池田瑛紗さんだ。
なぜなら、作中に登場する主人公の座席の位置と隣席の登場人物のキャラ設定が池田さんの状況そのものだからだ。
あと、池田さんがペンケースに「Tele」と刻印された万年筆を入れているのをこの前見た。
だから、ちょっとカマをかけてみることにした。違ったらその時はその時だ。
◯◯:池田さん!おはよ!
池田:あっ!◯◯くんおはよ〜
◯◯:そういえば池田さんってペンケースに万年筆入れてるよね?
池田:うん!お気に入りなんだ!
◯◯:今時万年筆使ってる人って小説家とか漫画家しかいないイメージがあるんだよね、池田さんも小説とか漫画書いてたりするの?
池田:い、いや!?と特にそんなことはしてないけど!普通に書き心地が好きだから!!
◯◯:そうなんだ、書き心地気になるな、僕も万年筆買ってみようかな...?
池田:い、いいと思う!おすすめ!!
......この日出た小噺のタイトルは「万年筆の紡ぐ愛」だった。
◯◯:いや、わかりやすすぎて逆にダメだろこれは
僕は確信した。Telepan先生は...池田さんだ。
学校への通学中。今日はどうやってカマをかけようか悩む。敢えて何も反応しないのもありか...?
◯◯:池田さんおはよ〜
池田:◯◯くんおはよっ!
池田さんが妙に期待顔でこっちを見てくる。
......正直、めっちゃかわいい。
でもここで反応したら、計画が水の泡だ。グッと堪える。
◯◯:もう10月も終わりそうなのに、まだ25℃いきそうな日があるかもしれないっておかしくない?四季じゃなくて二季だよねこれは
池田:う、うんそうだねっ!気温設定がおかしいよね最近!
池田さん、わかりやすくシュンとした。かわいい。
この日のタイトルは、「気付け、季節外れのアイス」。
気付いてますよ〜と言いたいのを堪えて、明日の反応を考える。
そして今日、1つ気付いたことがある。
◯◯:今までの話、全部ハッピーエンドで終わってる...?
次の日、今日は本格的にカマをかけていく。
◯◯:池田さんお〜っはよ!
池田:◯◯くんおはよ!
◯◯:池田さんはさ、バッドエンドいけるタイプ?
池田:......え?
◯◯:ほら、ドラマとか小説でよくバッドエンドで終わる話があるじゃん。自分的には1個の結末だって割り切れる時と歯切れが悪い時があるんだよね。だから池田さんはどうなのかなって
池田:う〜ん、私はバッドエンド苦手かも...
◯◯:そうなんだ、最近読んでる話がハッピーエンド多めだったから気になっちゃってさ
池田:そ、そうなんだ
この日の小噺は、「私がバッドエンドを書かない理由」だった。
いつものストーリー的な感じではなく、自らの気持ちを率直に語っていた。
" 私がバッドエンドを書かない理由。そもそも、小説というのは創作だ。もちろん、話の展開や種類的には、バッドエンドがあってもいいのだろうと思う。けど、この世は上手くいかないことだらけだ。どれだけハッピーエンドコースに行っていても、1つのきっかけで最悪な形で終わってしまうことだってある。だからせめて小説、創作の世界上だけでも、現実とは違って全てが上手くいくような、楽しい終わり方をさせてあげたい。それが願いなのだ。しかしそうすると、話の終わり方は単調なものになりがちだ。それをいかにしてバリエーションを増やすか考え、それがハッピーエンドと決まっていても読者を飽きさせないように様々な手法を用いて書いていくことが、作家に求められる能力だと、Telepanは思っている。"
この小噺はたくさんの人の共感を呼び、Telepan先生は一躍時の人となった。
そして時の人は今日も、隣の席にいるのだ。
◯◯:池田さんおはよ〜っ
池田:おはよ!ふわぁ...
◯◯:池田さん寝れてないの?
池田:うん...昨日忙しくて寝るの遅くなっちゃってさ...ってかもう仲良くなったんだから池田さんじゃない呼び方してよ!
◯◯:う〜ん...じゃあ、今のクマができてる眠そうな目がパンダみたいだから、「てれぱん」とかどう!?
池田:!?!?!?!?///
◯◯:あ...嫌だった?
池田:う、ううん!コミカルで嬉しいかも...!!
◯◯:そっか、よかった。じゃあこれからはてれぱんって呼ぶから、よろしくね?
池田:う、うん!///
この日は小噺(「気付いてるんでしょ?」)と別に、少し形式が違う文章「私の気持ちだってついでに気付いてくれてもいいのに」が公開された。
" 隣に座ってはや数ヶ月。
のこのこと週3回くらいは遅れてくる人。
席に座っても何かと騒ぎを起こす。
ノートもまともに取らないし、なんなら授業中は寝ている。
あきれた人だ。私で無ければ投げ出しててもおかしくない。
なのに、私の目線は無意識にあなたの方へ向かう。
たまたま目線を向けた方にいただけってごまかしも限界だ。
ガキみたいなヤンチャも見飽きたけど。
好きな人いるの?とか聞いてくるくらいデリカシー無いけど。
きづけよ、そろそろ。普段は察し良いのにさ。
だめだね。そういうところは全く。それがいいとこだけどね。"
◯◯:今時これは...(笑)
あることないこと書かれてたので、一発仕返ししてやる。
◯◯:池田さんおはよぉ
池田:◯◯くんおはよ!
◯◯:あのさ、僕週3で遅刻とかしてないし、騒ぎも起こさないし、授業もちゃんと受けてるし、好きな人聞いたこともないし、やんちゃもしてないよ...
池田:あっ、えっ...///
◯◯:それがいいとこだけどね。瑛紗、好きだよ。
池田:......っ!?///
◯◯:これで、現実でもハッピーエンドだね?
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