その噂の着地点とは
学生の恋愛に、噂と冷やかしは付き物である。
「☆☆と¥¥が付き合ってるらしいぜ!」とか、「★★くんは%%さんのことが好きなんだって!」といった具合だ。
もちろん当人からしたら迷惑極まりない。勝手に胸の内に秘めた恋心を暴露され、「あいつに話さなければ良かった...」と後悔した経験のある方も多いのでは無いだろうか?
そんな経験を重ね、口の固さを学び、重要なことを話す対象を取捨選択していくのが学生恋愛の経験値だろうと私は考える...
◯◯:何読んでんの?
賀喜:うわっ!びっくりした!急に覗かないでよ!
◯◯と賀喜遥香はクラスメイトだ。今年初めて同じクラスになり、隣の席になってからは話が合うのでよく喋っているのが見られる。
◯◯:なになに、「学生の恋愛に、噂と冷やかしは付き物である」...ねぇ。現にこの学校がそんな奴だらけだもんな
賀喜:まぁそうだよね、事情知ってる側からしたら本人気の毒だけどね...
◯◯:逆に事情知らないと楽しいけどな♪
賀喜:◯◯って時々性格最悪になるよね
◯◯:遥香に言われたくは無いな
賀喜:ちょっと!サイテーなんですけどー!
田村:あっ、またイチャイチャしてる〜(笑)
賀喜:まゆたん、イチャイチャはしてないけどやっほー
田村:してるじゃん
◯◯:どこが?
そう、◯◯と賀喜は仲良くしておりしょっちゅう話すのだが、しょっちゅうどころかほぼ一日中喋っているのだ。だから周りからは付き合ってるだのイチャついてるだの噂されている。これで本人達は何の恋愛感情も無いのだから驚きである。
田村:えだって2人付き合ってるんでしょ?みんな言ってるけど?
◯◯:付き合ってませんが
賀喜:ほんとだよ!
田村:嘘でしょ!?でもでもお互いのこと好きとかではあるでしょ?
◯◯:う〜ん?賀喜を恋愛的な意味で好き...?無いと思う
賀喜:友達としては好きだけど...◯◯と付き合うとか考えたこともないなぁ
田村:えぇ...
こんなことは日常茶飯事である。時々「こいつら揃って照れ隠ししてやがる〜」みたいなことを言う輩もいるのだが、本人たちは本当にただの友達としか思っていないのでどうしようもない。
日にちは進み、◯◯と遥香は席が離れた後も休み時間はずーっと喋る日々が続いた。当然色んなところで冷やかしも続く。
◇◇:お前、賀喜さんのこと好きだろ?
◯◯:みんな言うねそれ。ほんとに全然そんなこと思ったことないんだけど...
◇◇:嘘つけ〜!ずっとしゃべってんじゃーん!
◯◯:そりゃ話合うし...
早川:かっきーって、◯◯くんのこと好きなんやろ?
賀喜:いや全然
田村:らしいんだよね、聖来もいい加減諦めたら?(笑)
早川:だってだって!かっきーがほんまのこと言ってくれへんねんもん!
賀喜:だからほんとなんだって...
早川:あっ!じゃあさ、◯◯くんのこと聖来がもらってもええん?
賀喜:どうぞ?
早川:えっ!そこは慌てて「だ、ダメ!」ってなるとこやろ〜!?
田村:少女漫画の読みすぎだよ(笑)
創作小説などであれば、ここで「他人から言われたことでお互いを意識し...」みたいな展開になるのだが、この2人は絶対にそうはならない。その背景には2人しか知らない秘密があった。
◯◯:遥香ってほんとに**のこと好きだよな
賀喜:そういう◯◯だって、あやめんのこと諦めてないじゃん!
◯◯:**大好き女!
賀喜:あやめんぞっこん男!!
そう、◯◯は隣のクラスの筒井あやめが、賀喜は2つ隣のクラスにいる**が好きなのである。ちなみに、◯◯は一度筒井に特攻して玉砕している。この秘密は、2人の他には誰も知らない。信頼関係の賜物なのだ。
この学校には、文化会という、文化祭とは別のイベントがある。簡単に言えば、文化祭のステージ発表だけを切り取ったイベントなのだが、有志団体の他に各クラスが1個ずつ何かやらなければならない。◯◯と賀喜のいるクラスはショーをやることになった。
委員:じゃあ、黒板の端に貼っておくからやりたい役割に名前書いといてね!役割の横にある数字は基本の定員だから、ちょっとなら大丈夫だけど人数多かったら抽選になるかもだからよろしくね!
◯◯:じゃ、ここは素晴らしい音響をやったりますか!
◯◯は音響の裏方仕事に真っ先に名前を書いた。
そして、役割発表当日。
◇◇:やっぱりお前と賀喜さん付き合ってるだろ!
◯◯:なんでそうなる
◇◇:だって見てみろよこれ!
差し出された名簿の音響の欄には、◯◯の他に賀喜と書いてあった。
◇◇:定員2人なのにこれは狙ってるだろ〜!?
◯◯:もうやめてくれよいいよそれ...
◯◯は心底うんざりしているのだが、まあ確かに、事情を知らない民からしたら楽しいことこの上ないのだろう。
日は進みある昼休み、◯◯、◇◇、賀喜、早川、田村の5人でお昼を食べていた時の話。
田村:あ、ねぇ知ってる?あやめん〒〒くんと付き合ったらしいよ!
◯◯(...!!)
早川:へぇ〜あの2人が!?お似合いやなぁ!
◇◇:そういや**も隣のクラスの遠藤さんと付き合ったって聞いたぞ
賀喜(......。)
田村:えっそうなんだ!意外かも!
◯◯:また動向気になるカップルが2組できたな!
賀喜:私は〒〒くんとさくがくっつくとばっかり思ってたから意外かも!
◯◯と賀喜は努めて通常通りに振る舞っていた。しかし、2人の心の中はこれ以上無いほど荒んでいた。みんながいなくなった後。
◯◯:......なぁ
賀喜:いい。この件に関してはこれ以上は何も言わないで
◯◯:終わったもの同士、仲良くやろうよ。ほら握手
賀喜:うん...!元気出た!
もう少し時が進んだある日。
賀喜:明日帰省しなきゃいけない用事ができたから学校来れないんだ〜
◯◯:ほー、いいなー学校サボれるの
賀喜:人聞き悪いよ?ちゃんとお土産買ってくるから許してよ(笑)
◯◯:なら許してやろう特別に
次の日。
◯◯:おはよ〜
◇◇:◯◯おはー、愛しの賀喜さんは今日いないらしいぞ
◯◯:全然愛しのではないけど昨日聞いたから知ってる
◇◇:やっぱり彼氏さんの方が情報早いっすか
◯◯:だから彼氏じゃねえっつーの...
賀喜はどちらかと言うと結構皆勤賞に近い方の人間なので、◯◯にとって賀喜のいない学校は久しぶりどころか初めてだった。◇◇など他の友人や早川、田村などと楽しく会話しており特段つまらないとかではないのだが、何か物足りない感じがした。
◯◯(癖で遥香探しちゃうけど今日はいないんだよな...なんか物足りねえ)
遥香も帰ってきて、いつも通り楽しく会話してた日。今年最後の席替えが告知された。
いつもはくじ引きオンリーなのだが今回は違い、男女が隣り合うように枠を決め、全員廊下に出る。そしてまず男子が与えられた枠の好きなところに座る。次に男子が廊下に戻り、女子が好きなところに座る。
最後全員でさっき選んだ席に戻り、座席発表!という楽しい形式だ。
◯◯は真ん中やや後ろの1席を選択。女子も済み、いざ座席発表。
戻ると、◯◯はクラス中から今年一の冷やかしを受けた。
なぜなら隣が...賀喜だったから。もちろん今回の形式は全くズルしていない。なぜなら本来◯◯が選ぼうとした席を、クラスメイトの頼みで譲ったから。
今までどれだけ冷やかされても、うんざりして動じもしなかった◯◯だったのに、今回は耳まで真っ赤になっている。
ふと横を見ると、賀喜も耳まで真っ赤だ。
◯◯(なんで嬉しがってるんだろう自分...?)
賀喜(なんでこんな恥ずかしくて嬉しいんだろう...)
久しぶりの隣の席。2人は休み時間はおろか授業中まで話していた。と言っても授業中は適当な紙に書き合う筆談形式なのだが。幸い2人とも多少授業を聞いていなくてもテストの点数はいいので先生からもお咎めなしだ。
◯◯「席替え、遥香の隣で嬉しかった」
賀喜「今回で3回目なのに?笑」
◯◯「そうだけど、なんか今回は特別だった」
賀喜「どゆこと?」
◯◯「実はさ、最初別のとこ座ろうと思ってて、頼まれて変えたんだよね」
賀喜「そうなんだ」
◯◯「それで遥香と隣だったから運命に近いのかなって。変なことごめん」
賀喜「私も嬉しかったよ」
◯◯「遥香が休んだ日、すごい物足りなかったんだ、もしかしたら遥香が結構自分の中で大きい存在なのかなって」
賀喜「好きなのかどうか、はっきりしてほしーなー」
そこで授業は終わった。
放課後だけど、2人は全く動かない。
やっと全員いなくなったところで、◯◯が話し始める。
◯◯:遥香......好き
賀喜:私もだよ
◯◯:なんか、やっぱり遥香と喋ってるのが一番心地良いって気付いた...
賀喜:うん、私も、◯◯と喋ってる時が一番落ち着く
◯◯:やっぱり気が合うね
賀喜:そうだね、だから楽しいんだと思う
こうして、本人たちですら現実になることは天地がひっくり返っても無いだろうと思っていた2人の根も葉も無い噂は、時を経て現実になった。
このことを早川や田村に報告した時は、かつて「付き合ってない、恋愛感情もない」と言った時以上に驚かれたのだとか.....。
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