
弱ってるとこに付け込むのって卑怯かな...?
女:ごめん。他に好きな人ができた。別れよう
◯◯:えっ...
女:ごめんね。じゃあね
◯◯:おい、ちょっと...!
◯◯:はぁ...なんでだよ...
頭の中で何回もあのシーンが再生される。
その度に感じる、虚無感、脱力感、絶望、後悔、悲しみ、怒り、未練、その他いろいろ言葉にできない感情。
まとめるなら「なんでこうなっちゃったんだろう」の一言。
弓木:どうしたの...?
◯◯:誰...
弓木:奈於だよ。◯◯泣いてたから...
◯◯:えっ、泣いてたか...
弓木:はいハンカチ。奈於のでよければだけど
◯◯:ありがとう...
弓木:なんかあった?話聞くよ?
◯◯:実は...
大学の同期である奈於の一言を聞いて、彼女に振られたことから自分の消化できない感情まで全てを吐き出した。
弓木:そっかそっか...辛かったね
◯◯:なんで...あんなに尽くしてきたのに...あぁ...
サスサス
弓木:◯◯は悪くないよ。そんな子のことなんて忘れちゃおうよ...とは簡単に言えないか...
◯◯:うぅ...
弓木:とりあえず今日は帰れる?
◯◯:なんとか...
弓木:じゃあまた明日から頑張ろう?奈於は◯◯の味方だよ
◯◯:うん...ありがとう奈於...奈於がいなかったら今頃どうなってたか...
弓木:力になれたならよかった。それじゃあまた明日だね?
その日はそれで解散した。
この時間は奈於と被る講義。
弓木:やほ。昨日は大丈夫だった?
◯◯:うん。ありがとう、奈於のおかげでいくらか救われたよ
弓木:そっか。それじゃあ講義頑張ろっ
「以上で講義を終わりますねぇ〜」
弓木:◯◯って今日これで終わりだっけ?
◯◯:うん、今日はもう終わり
弓木:奈於もこの後無いから、一緒にご飯行こ!
◯◯:いいかも、何食べる?
弓木:ん〜とね〜...
◯◯:あっ
見てしまった。キャンパス内のベンチで、元カノとその今の彼氏らしき男がキスしているシーン。
もう今は他人とはいえ、別れた次の日に見せられるのはショックだ。
◯◯:......
弓木:今日は、帰ろっか
◯◯:......
弓木:奈於がちゃんと送ってくから。今の◯◯を1人で帰すのは怖いし...
◯◯:......うん
弓木:大丈夫...じゃないよね
なんとか支えてもらいながら歩いて、家の前へ。
弓木:ついたよ
◯◯:う、あぁ...
弓木:......
ギュッ
一瞬、何が起こったか理解できなかった。
意識が戻った時にようやく、奈於が僕を抱きしめていることを理解した。
◯◯:奈於...?
弓木:つらいよ...こんなしんどそうにしてる◯◯を見てるのはつらい...
◯◯:奈於...
弓木:◯◯はこんなにしんどそうにしてるのに、奈於は何もしてあげられないのも、悔しい...
◯◯:......そんなことない
弓木:え?
◯◯:奈於がいなかったら、正直僕はもうこの世にいなかったかもしれない...
弓木:そんなこと言わないで...
◯◯:でも、それを生きようと思わせてくれるのは間違いなく奈於のおかげ
弓木:そっか...。ならもっと、◯◯を元気にさせられるように奈於頑張るから!
そう言う奈於の笑顔はとても輝いていた。
あれから2週間くらい経ったが、あの時の奈於の優しさ、ハグの感触。何よりあの笑顔が、頭から離れない。
そのせいか、奈於と何気なく会話する時にまで意識してしまう。
講義が被っていない時も、無意識のうちにあの笑顔について考えている自分がいる。
◯◯:どうしちゃったんだろうな...
心の底では薄々気付いているものの、「奈於にそんな感情を持つわけがない」「ショックで気の迷いが生じてるだけ」だとごまかして蓋をしていた。
そんなある日。
弓木:ねぇ、今日奈於ん家で鍋パしない?
◯◯:鍋か。寒いしいいかもな
弓木:じゃあ食材買って帰ろ!
スーパーで食材を買って奈於の家へ。
弓木:上がって上がって〜!
◯◯:お邪魔します...
初めて入った奈於の家は綺麗に掃除されていた。
そのまま2人で鍋をつつく。
食べ終わった後、奈於としばらく酒をあおりながら話していく。その時ふと考えてしまった。
鍋を食べただけだが、奈於の料理はきっとおいしいんだろうと思う。あれが毎日食べられたら...なんて。
◯◯:......
弓木:◯◯?聞いてる?
◯◯:ん?あぁごめん...
弓木:またあの子のこと考えてたの?
◯◯:いや......奈於のこと考えてた
弓木:えっ?
◯◯:鍋しか食べてないんだけど、奈於の料理はきっと美味しいんだろうなって。奈於の料理を毎日一緒に食べられたら楽しいだろうなって。はは、何言ってんだろうね...柄にもない...
弓木:.....
少し間を置いてから、奈於が話し出す。
弓木:◯◯、ごめんね
◯◯:えっ?
弓木:奈於は、卑怯だね。◯◯が傷心だからって、そこに付け込んでる。◯◯とこの機会にあわよくば...なんて、ずっと考えてた
◯◯:......
弓木:奈於、◯◯が好きだよ
◯◯:えっ......
弓木:あの時より前から、ずーっと。別れた時に、ラッキー、チャンスだって思っちゃったんだ。もちろん、好きな人が辛そうにしてるのを見たくない気持ちはほんとだよ。でも、それ以上に、今度は奈於が◯◯の隣にいれたらなって、考えちゃった。奈於、最低だ
◯◯:......奈於
弓木:何?
◯◯:僕、奈於のこと、好き
弓木:......ダメだよ。気が迷ってるだけなんだよ。奈於が卑怯だから、◯◯の気持ちがおかしくなっちゃったんだよ...
そう俯きながら話す奈於を見て、僕の中で、想いの蓋が弾け飛ぶ音がした。
その途端、涙が溢れ出す。
感情がグシャグシャになって、ひたすら涙を流しながら叫んだ。
◯◯:奈於!奈於っ!奈於奈於奈於奈於...!好きなんだよ!奈於!奈於っ!もう無理だよ!奈於!好きなんだ!奈於!奈於っ!!
弓木:◯◯...
◯◯:僕だって最初はそう思ったよ、一時の気の迷い、好きになるわけないって!でも違うんだよ...。あの笑顔が忘れられないんだよ...奈於が...もう嘘つけねぇよ...奈於が好きなんだよ...奈於...奈於っ...
弓木:......
◯◯:ほんとなんだよ...気の迷いとかそんなのじゃないんだ...奈於がほんとに好きなんだよ...
ギュッ
弓木:◯◯...
◯◯:奈於...大好き...
弓木:この気持ち受け取ってくれる...?
◯◯:当たり前だよ...奈於...
弓木:いっぱい愛してね...
◯◯:もちろん...
そのまま、一晩愛を確かめ合った。
◯◯:んん...朝か...
弓木:すぅ...すぅ...zzz...
◯◯:ふふっ...
弓木:ふぁ...あっ、◯◯...おはよう...
◯◯:幸せだな
弓木:ん?
◯◯:隣に大好きな人が寝てるのは幸せだなって...///
弓木:奈於も幸せだよ...///
◯◯:奈於...愛してるよ...
弓木:へへ...奈於も!
今度こそ、何にも邪魔させない。一生かけて愛していく。
なぜならこの気持ちは...本物だから。