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うつわ/中澤日菜子
料理と、それを盛り付けるうつわには大きな関係があると思う。
たとえばラーメン。うちは長らくちゃんとしたラーメンどんぶりがひとつしかなく、仕方がないのでそば・うどん用のどんぶりを代わりに使っていた。
だが和もののどんぶりに盛ったラーメンは、なんだかラーメンのような気がしない。食べればもちろんラーメンの味がするのだが、なんというか見ためが「そそらない」のである。やはりラーメンは、中華用のちょっと派手めなどんぶりで食してこそ本来の美味しさが発揮されるのであろう。
もともとわたしはうつわを集めるのが趣味で、陶器市に行ったり旅行したりするさいには、そこで出会ったうつわを買い求め、「これになにを盛ろうかな」と想像するのを楽しみのひとつとしていた。
けれども子どもが生まれてから、「うつわ集め」は断念せざるを得なくなった。まず子どもはどうしたってうつわを割りがちである。しかもあまりうつわの良さを理解してくれない。どんなに高価でしゃれたうつわで料理を出そうとも、「ふーん」のひと言で終わりである。結果、割れにくいプラスチックや、百均で買う割れても惜しくない皿や小鉢が増えていった。
れんげひとつにしてもそうだ。本来ならラーメンだってどんぶりだけでなく、掬(すく)うものにもこだわりたい。けれども陶器のれんげはことごとく割れてしまい――結果、味気ない金属製のスプーンでラーメンを食す羽目になっている。
スプーンで食べるラーメンは味気ない。なんとなく小学校の給食を思い出してしまう。思えばわたしの小学生時代は「先割れスプーン」全盛期で、食器もアルマイト、そのふたつで豚汁だろうが麻婆豆腐だろうがすべて済ませていた記憶がある。
そのてんお箸はいい。
多少高価なものを求めても、そうそう簡単に壊れないし、和食、中華、エスニック料理となんでも対応してくれる。
ただ一てん、スパゲティにお箸だけはいただけない。ごくまれに「お箸でスパゲティ」という羽目に陥ることがあるが、これはもうイタリアンではないですね。どんなに美味しいスパゲティも、定食の付け合わせにつくナポリタンみたいに感じてしまう。やはり料理にはその料理に合った食器を使いたいものである。
と、こう書いてきて、いま一番欲しいものに思い当たった。秋刀魚を乗せるお皿である。
秋の味覚、秋刀魚。今年は高騰しているとはいえ、十月に入ってからようやく庶民でも手を出せるくらいの価格まで下がってきた。秋刀魚の塩焼きは家族全員の大好物、しかも焼くだけで済むという超お手軽料理である。値段さえ許せば、週に一度は夕食を秋刀魚で済ませてしまいたいところ。
だが悲しいかな、うちには秋刀魚対応の細長いお皿がない。せいぜいぶりの照り焼きや、塩じゃけの切り身が乗る程度の長さのお皿だ。
よって、我が家で秋刀魚を食べるときは、頭と尻尾の三分の一ほどが、ぶらーんと端からはみ出るかたちになってしまう。
これは悲しい。しかも食べづらい。
今シーズンこそ、秋刀魚が一尾ちゃんと乗るお皿を買おう。毎年そう思うのだが、いつも買いそびれてしまう。なぜかというと、秋刀魚対応の細長いお皿は、秋刀魚以外使いようがないからである。
いや、でもそれはわたしが不勉強なだけかもしれない。
「秋刀魚だけでなく、こんな料理にも使えますよ」というアイデアがあったらぜひ教えてください。もし教えていただけたら、今年こそ秋刀魚皿を買うことができるに違いないと思う次第である。
【今日のんまんま】
島根県の地酒とお料理の専門店。お刺身はどれも身が締まり、味が濃い。さばのしゃぶしゃぶという名物料理も。んまっ。
妻、母、元編集者、劇作家の顔を持つ小説家の中澤日菜子さんが、「んまんま」な日常を綴ってきたこの連載は、今回でいったん終了いたします。ご愛読いただき、ありがとうございました!
第1回から読み返したいかたはこちらからぜひ! マガジンもあります。
コメントもお待ちしておりますので、ぜひ引き続きお寄せくださいね。
文・イラスト・写真:中澤日菜子(なかざわ ひなこ)/1969年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒。日本劇作家協会会員。1988年に不等辺さんかく劇団を旗揚げ。劇作家として活動する。2013年に『お父さんと伊藤さん』で「第八回小説現代長編新人賞」を受賞。小説家としても活動を始める。おもな著書に『お父さんと伊藤さん』『おまめごとの島』『星球』(講談社)、『PTAグランパ!』(角川書店)、『ニュータウンクロニクル』(光文社)、『Team383』(新潮社)、『アイランド・ホッパー 2泊3日旅ごはん島じかん』(集英社文庫)、『お願いおむらいす』(小学館)がある。最新刊は『働く女子に明日は来る!』(小学館)。『ニュータウンクロニクル』(光文社文庫)が、今月待望の文庫化。
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