お友達になってください/新井由木子
SNSには『友達申請』という残酷なシステムがあり、一日中悩んだ末に勇気を出して「友達になってください」とボタンを押しても、無視されたりすることがよくあるものです。
自身の書店ペレカスブックを3年前に立ち上げた際、商売のためにと嫌々始めたSNSは、どんなにわたしに友達がいないか、人望がないかを公開する処刑台のように思えたものでした。
友達がいないこと自体は平気なのです。もともとわたしはあまり人と一緒に行動するのが好きではなく、映画も買い物も一人で行きたいタイプ。
信じられないと思われるかもしれませんが、宴会もあまり好きではありません。特に日程を決めての飲み会があると、その日に人と楽しまねばならないというプレッシャーが日々高まり続け、逃げ出したい気分になってくるのです(だけど突発的な飲み会は大好き)。
現実の世界で人と離れてポツンとひとりぼっちでいるのが平気なのは、通り過ぎる人々の目にわたしが映っていないことを知っているからです。ひとりぼっちでいたいという自由が許される現実世界。
ところがSNSというのは交流が目的であり、見られることが前提の世界です。友達がいなければいけない世界で、首から『友達がいません』という札を下げて舞台の上に立っているようなものなのです。
SNSを始めて1週間でいたたまれなくなったわたしは、一緒に仕事をしたことのある編集者さんなどを探し出し、お友達になってくださいボタンを押しまくりました。その数20名以上。
しかし友達になってくれたのはわずかに3名の編集者さんでした。この時は、失恋より辛い気分になりました。
ところが、SNS上で友達が少なかったのは最初のうちだけでした。カフェコンバーションという人気のおしゃれカフェの中にお店を構えたため、コンバーションの知り合いが一気にわたしの知り合いになってくれて、信じられないことに今ではSNS上で400人以上の友達ができたのです。
そうなってくると今度は、全然知らない人からお友達になってくださいと言われるようになってきました。『友達申請』のボタンを押すには勇気がいることを知っているわたしには、いくら知らない人だとはいえ簡単に無視することはできないので、一応どんな人なのかプロフィールを見てみるのです。
一番多いのは海外に住む退役軍人の皆さんからのお友達申請です。
退役軍人の皆さんは軒並みイケメンで、お仕事柄鍛え上げられた体つきをしており、不思議なことに皆さん配偶者と死別しています。そんな皆さんが、日本の片隅の草加に住む、51歳のぽっちゃりしたわたしを探し出して、わざわざお友達になりたいと言ってきてくださるのです。
サンフランシスコに住む青い目のデイヴィッド、バグダッドに住むエキゾチックな顔立ちのクリストファー、草原でモフモフした犬とたわむれているヒゲがダンディーなミハエルなど、よりどりみどりです。
特徴的なのは、皆さんSNSページにトップ画像しかなく、プライベートやお仕事の投稿が一切ないことです。……胡散臭いですよね!
流石のわたしもお友達申請を承諾する気には、どうしてもなれません。聞いたところによると、こういった方々とお友達になると胸のトキメク展開になり、最終的にお金を騙し取られるそうです。
そういえば、わたしが3年前にお友達申請を断られ続けていた時って、自分の投稿をほとんどしていませんでした。自分の写真も載せていなかったし、今考えると胡散臭かったかもしれません。
しかし、それが原因で友達になってくれなかったというのは、あくまで可能性であり、ほんとうにわたしと友達になりたくなかったのが正解かもしれません。
友達がいないのは平気だけど、友達になりたくないと思われているのをはっきりと知るのは辛いので、現在では3年分の投稿が溜まっていますが、もう一度お友達申請する勇気はありません。
(了)
※世界文化社delicious web連載【まだたべ】を改題しました。
文・イラスト:新井由木子(あらい ゆきこ)/東京都生まれ。イラストレーター・挿絵描き。埼玉県草加市にある書店「ペレカスブック」店主。挿絵や絵本の制作のかたわら書店を営む。著書に『誰かの見たもの 口伝怪奇譚』『おめでとうおばけ』(大日本図書)、『まんじゅうじいさん』(絵本塾出版)ほか。「この世はまだ たべたことのないものだらけ。東京に近い埼玉県の、とあるカフェの中にあるペレカスブックで、挿絵や絵本を作りながら本屋を営んでいます。生まれ故郷の式根島と、草加せんべいの町あたりを行き来しながら、食べること周りのことを書いてゆきます」
http://www.pelekasbook.com
Twitter:@pelekasbook