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ワンコに似て非なるものを見た/新井由木子
散歩をしているワンコを見るのが好きです。
ご主人の歩みに合わせて小走りしている小型犬は、その必死さがとても可愛らしく、思わずニッコリと微笑みかけたくなってしまいますし、中・大型犬になると、顔つきもキリッと凛々しくかっこよく、ほれぼれとしてしまいます。
不思議なのは、ご主人とワンコがとてもよく似ている場合の、実に多いことです。
ふわふわした毛並みのワンコのご主人がパーマヘアなのは、ご主人のふわふわ好みが、ワンコを選ぶ時にも自身のヘアスタイルにも反映されているからでしょうか。また、丸顔の人は丸顔のワンコを、面長な人は面長なワンコに親近感を覚え、選んでしまう傾向があるようにも思います。
更に同じ屋根の下で暮らしている夫婦がどこか似てくるように、ご主人とワンコもお互いに見た目を歩み寄らせているのでしょうか。
しかしそれにしても、そのおじいさんとワンコはよく似ていました。
ワンコはマルチーズでした。そして小顔のおじいさんは額から顎までの距離が短めで黒目がち。マルチーズを彷彿とさせる顔立ちをしていました。しかもマルチーズは白い毛を、おじいさんは白髪を顎のラインでおかっぱに切りそろえ、同じ髪型をしていたのです。
公園のベンチで一休みしていたわたしの少し手前で、おじいさんは立ち止まりました。すると、ワンコがその場にあった自転車通行止めの杭に、チョロッとおしっこをしました。
おじいさんはワンコのほうをちらりとも見ず、前を向いたまま再び歩き始め、今度はわたしの前を少し通過したところで再び立ち止まりました。そして、再びチョロッとおしっこをするワンコと、ワンコのほうをちらりとも見ないおじいさん。
それはとても不思議な光景でした。
ワンコが用をたすのをご主人が見守り、終わるのを待って再び一緒に歩き出す、というのがスタンダードではないでしょうか。しかも、ワンコの用が済むのと、前を見たままのおじいさんが歩き始めるのは同時で、もう息が合っているという域を超えています。
いや、息が合っているのではなくて、ひょっとしたらおじいさんはワンコの思い通りに動いているのではないか?
もしかしたら、これはワンコに見えるけれど、高い知能とテレパシーを持った地球外生命体で、おじいさんを支配しているのではないか?
冗談ではなく、そんなことを思ったわたしですが、驚いたのはその後です。
なんと、再び立ち止まっていたおじいさんがくるりとこちらを振り向き、ワンコと一緒に、わたしをじっと見たのです。わたしはあわてて目を逸らすと、思考を別の方向へと無理やり変えました。
ワンコの正体を見破ったことが伝わってしまったら、わたしもその場で散歩の仲間に加えられ、ヘアスタイルもおかっぱにされてしまったことでしょう。
そして更に翌日、店先の掃除をしていたわたしの目の前に、おじいさんとマルチーズが再び現れて、わたしをじっと見たのです。この時もわたしは、なんとか素知らぬ顔をして、宙(そら)に浮かぶ宇宙船本部に、わたしのことを報告する必要は無いと思わせることに成功しました。
こちらがカフェ・コンバーションに頼むと作ってくれるワンコ用ケーキ。その時の旬のフルーツを使い、形もいろいろです。
(了)
草加の、とあるおしゃれカフェの中の小さな書店「ペレカスブック」店主であり、イラストレーターでもある新井由木子さんが、関わるヒトや出来事と奮闘する日々を綴る連載です。毎週木曜日にお届けしています。
文・イラスト・写真:新井由木子(あらい ゆきこ)/東京都生まれ。イラストレーター・挿絵描き。埼玉県草加市にある書店「ペレカスブック」店主。挿絵や絵本の制作のかたわら書店を営む。著書に『誰かの見たもの 口伝怪奇譚』『おめでとうおばけ』(大日本図書)、『まんじゅうじいさん』(絵本塾出版)ほか。
「東京に近い埼玉県の、とあるカフェの中にあるペレカスブックで、挿絵や絵本を作りながら本屋を営んでいます。生まれ故郷の式根島と、草加せんべいの町あたりを行き来しながら、思いつきで巻き起こるさまざまなことを書いてゆきます」
http://www.pelekasbook.com
Twitter:@pelekasbook