ひょっとこのマヌケ面
ひょっとこってーのは
口をすぼめてマヌケな面してら
なんだってそんな面してんだ
ひょっとこさんよ
昔むかし
いやそんな昔でもねーな
家にはな、
土を練ってつくった
竃(かまど)ってものがあったのさ
そこで火をくべ
ご飯を炊いたり汁を煮たり
ゆらゆら煙と湯気が立ち上り
ぐつぐつと踊るように湧き上がる
そりゃ〜うまかったろ
太陽いっぱい浴びた
畑で採れた野菜に
皆で刈った米を炊くんだもの
そりゃわ〜うまいわな
その竃にな
火をつけんだけども
はじめは枯れた杉の葉を入れんだ
そして小枝から枝へと
火が大きくなることを
想像しながら
優しく添えるように
並べてくんだな
慌ててがさがさやっても
うまくいかねー
風がうまく通らず火がすねる
そして火をつけるんだけれども
これまた火打石だと苦労するんだ
かっちかっち
やれどもやれども
すぐつきゃしねー
それがダメなら
棒を立てて
手のひらで挟んで
ぐるぐるぐるぐるまわしてみな
煙がでてくるからよ
だが止まっちゃいけねー
摩擦で熱くなったとこが
すぐ冷めちまう
まだかーまだかーと
これでもかーと必死にやって
煙がよーーくでてきて
ようやくネタになるわけさな
ほぐした麻に
産まれたての
赤ん坊のような
火の子を
さっき用意した
杉の葉の布団に優しく寝かす
そいつを
ふ〜〜〜〜 と細〜くなが〜く吹いてやる
ゆっくりゆっくり
ここは落ち着いてな
すこ〜しずつ
杉の葉に火の子が移り
そして
ぼっと火がつくんだ
パチパチ音をたてて
泣き始める
さらに竹筒でくすぐるように
吹いてやると
勢いにのって火が喜ぶんだ
こうしてわいの家族は
うまい飯を食えるわけさな
しかし
毎朝こんなこと
してらんねーのもある
だから
火は絶やさずに
ずーーーーっと
残しておかなくちゃいけねー
ここからは
わいと火との
知恵くらべさ
夜の眠る前に
真っ赤になった炭に
灰をかぶせておく
ここがコツや
朝になって
火の子がいたら
有り難い
いないときはまたな
ぐるぐるからさ
そうやって
毎日毎日
竹筒でふーふーやってんだ
煙で目がいてーのさ
だけどそんなことも言ってらんねー
竃でも
囲炉裏でも
風呂でも
ずっと毎日
煙にまかれて
ふーふーとな
こうして
火は家と暮らしを
まもってくれてんだな
わいは火がなくちゃ
生きていけねーんだ
だから
火を怒らせちゃ
絶対いけねーんだ
毎日手を合わせてな
「ありがとう」
って思ってりゃそれでええんや
マッチでも、ライターでも
ガスでも電気でも
みんな同じ
「ありがとう」や
そしてな
うまく炊き上がった
ごはんの蓋をあける瞬間はな
顔をうんと近づけて
熱々の湯気を
まずはいただくんや
たまらんでーー
ほな頂きます。
ところで
ひょっとこの面は
なんでマヌケなんだっけ?