【連載小説】「北風のリュート」第15話
第15話:糸口(2)
「赤い浮遊物の正体が知りたい。こいつが鍵を握ってると思うんだ」
それでさ、と迅に膝でにじり寄る。
「空自で採取できないかな」
迅は飲んでいたほうじ茶でむせる。
「カブトムシを捕るみたいな気楽さで、何言いだすんですか」
飛び散ったほうじ茶を慌てておしぼりで拭く。
「採取の必要性をどう説明するんですか」
さすがに語尾に怒気がまじっている。
「空中で捕獲するとなると、イーグルではなくヘリを飛ばすことになります。『人命救助の最後の砦』といわれる救援隊を動かすんですよ。危険物と断定されてもいない物体の採取に出動許可がおりるとは……考えられません。消防ヘリではダメなんですか」
「消防ヘリじゃ、タッチーが出動できないでしょ。赤い物体は、君とレインボーしか目撃してない。空自への要請は……そうだな、鏡原周辺の異常気象の解析を理由に、うちの所長から気象庁経由で、基地の気象隊に打診してというのが順当かな」
どう? と迅の目に問う。
「どうやって採取するんですか」迅の声は調子が狂ったままだ。
「それなんだよねぇ」
流斗は丼の隅に残った飯粒を箸でつつく。
「網じゃすり抜けちゃうだろうし。プランクトンネットはどう?」
「虫捕りじゃないんですよ。第一、レーザーに引っかからないのに」
見つけるだけでも至難の業です、と迅は目を三角にする。
「ダメかなあ。特注で口径の広いプランクトンネットを作って」
「上空の気流に翻弄されクルクル回って、制御不能です」
「そうだよなあ」
だけど、あれを分析しないことにはと、流斗が唸っていると、
「あの……掃除機みたいに吸い取るっていうのは?」向かい側からレイが遠慮がちに提案してきた。すみません、素人意見なんで聞き流して、と即座に取り消そうとする。
「その手があった! 集塵機だ」
レインボーお手柄だと興奮すると、「ただの思い付きです、そんなに褒めないで」とレイに睨みつけられる。褒めたのに睨まれる訳がわからないが、まあ、いい、採取の方向性が見えた。
「その話は改めて詰めましょう」と、迅が腕時計を確認する。
「レイさん、こっから家まで、どのくらい?」
「歩いて十分くらい」
「じゃ、そろそろ出ないと」迅が腰をあげる。
ピロン、とレイのスマホが着信を知らせる。
「あ、お父さんも会うそうです」
流斗は迅と顔を見合わせる。
「今日のこと、お母さんに何て言ってるの?」
「会わせたい人がいるから、時間空けといて」
空の魚のことを説明しに来るとは言えなくて、とレイが肩をすぼめる。
「タッチーとぼくの二人って、言った?」
レイが首をふる。
「天馬さんとの電話が終わって、すぐに伝えたから」
それでかあ、と流斗は頭を抱える。
ご両親ぜぇったい誤解してるな、迅に耳打ちし曇り空を仰いだ。