#推薦図書
「 #書いてつながろう 」
外出自粛でなかなか外に出られず、
たくさんの暗い情報で頭がいっぱいいっぱい。
こんな状況だけど、みんなで「書く」ことでつながったり、
楽しい習慣になったらいいな。
そんな企画に賛同したメンバーで、毎週テーマに沿って投稿しています。
参加したい方がいましたらコメント欄にてご連絡ください。
今週のテーマは「 #推薦図書 」です。
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僕は読んだ本を捨てないので、この記事を書いている後ろの棚にはぎっしりと本が詰まっている。「本棚を見ればその人がわかる」と言うけれど僕の本棚はまったく意味がわからない。
それでも何本か引っ張り出してみながら思い返してみると、どれも学生時代によく読んだ本だ。今は読んでいなくとも当時はものすごく助けられた本も多い。
そんな訳からここでは僕の学生時代の読書遍歴を、当時の僕がひたすら黒髪の女の子が好きだった思い出とともに振り返ってみようと思う。
一、黒髪教の勃興(17歳)
僕はこの年、初めての失恋を経験した。相手はクラスメイトの女の子で色白で黒髪ロングのバレエをやってるような女の子だったがサッカー部の男と付き合ってしまった。
清楚で品行方正なのに、どこか裏のある感じが好きだった。僕は当時、岩井俊二監督の映画「リリィ・シュシュのすべて」で、登場したと思ったら自殺してしまう、デビューしたての蒼井優が演じている役が好きだった。
フラれた後に僕は思った。なぜ僕は黒髪の乙女が好きなのか。さして心理学に興味がある訳でもないのにその答えを精神分析学の父であるらしいフロイトという人物が知っているような気がした。結果は難しくてよくわからなかった。
■この時期読んだ作家:フロイトやユングなどの学術書、当時流行りの本
二、黒髪教の繁栄(18歳)
大学の入学式の日、新入生代表として登壇した主席の女の子に衝撃を受けた。色白で裏があるような表情、そして黒髪。そう、黒髪の乙女だった。古風な名前の。あまりに日本的な美しさだった。僕の読む本は日本の明治〜昭和の作家になった。
僕は映画のサークルを立ち上げて、短編映画の制作の準備を始めていた。計画通りに彼女をサークルに勧誘し、仲良くなることに成功した。
武者小路実篤の「友情」は恋がまだ幻想であった10代の頃の美しく瑞々しく、時に恐ろしく手が付けられない青春の輝きを描いている。100年前の大正9年の本だが何ら現代と変わることはない。
僕の大学生活はこれから美しい青春映画の幕開け…となるはずだった。
■この時期読んだ作家:武者小路実篤、志賀直哉、夏目漱石など
三、神聖黒髪帝国の終焉(19歳)
僕が人生で初めて女の子の家に入ったのは、その子の家が初めてだった。授業で使うデザインのソフトの使い方を教えるためだったが緊張のあまりマウスが震えて使い物にならない。
あまり女の子の部屋の中を観察してはいけない、とずっと顔を下に向けていた。彼女はお洒落はハーブティーを僕に差し出した。僕は「ありがとう」と顔を上げたその時、見たこともない祭壇と怪しい本の山を見ることになる。そう、彼女は新興宗教の幹部の娘だったのだ。動揺のあまり最後までマウスは使い物にならなかった。
なぜ自分がこのような目にあったのか、なぜ自分の目が間違ってるのか知らなければならない。黒髪への信仰心を打ち砕かれた僕はこれまでと全く逆方向の本に手を出すことになる。ショックのあまり引きこもり3日に1本のペースで澁澤龍彦を読み、「真の美とは何か」の答えを探し始める。
ここで僕の黒髪教は幻想であったのだとようやく知ることになる。
■この時期読んだ作家:澁澤龍彦、マルキ=ド・サド、ジョルジュ・バタイユ、オスカー・ワイルド、寺山修司など
四、黒髪を捨てよ町へ出よう(20歳)
黒髪一神教から離脱した僕は生まれて初めてちゃんと女の子と付き合った。茶髪の子だった。ここで僕は初めて恋愛の豊かさを知ることになる。
「うたかたの日々」は主人公コランと恋人クロエの、美しく儚く、愛くるしいほどユーモラスでシュールな物語である。クロエは「肺に蓮の花が咲く」病気で救いのない悲劇的な結末となってしまうが、茶髪の子はスピリチュアルな能力を自称していて「あなたとの子供が生まれる時に私は死ぬ」というスターウォーズEp3でルーク・スカイウォーカーを産む前のパドメみたいな予言を言っていた。僕のうたかたの日々は半年であっという間に終わった。
関係ないが、昨年に地元で彼女が子どもを連れているのを見た。子どもは元気そうだったしフォースは使えなさそうだった。
■この時期読んだ作家:ボリス・ヴィアン、レーモン・クノー、ラディケなど
五、黒髪帝国の逆襲(21歳〜22歳)
この年、僕は部員不足により廃部寸前のサークルを存続させるため「可愛い女の子がいれば男子も釣れる」と思い立ち、新入生歓迎会で黒髪の可愛い女の子3人を熱心に勧誘し入部させた。思惑通り大量の男子部員が釣れたが3人ともサークルクラッシャーで文字通りクラッシュした。僕も先陣を切って1人に引っ掛かりクラッシュした。
後輩1名は大学を去ることになり、1年生からの親友とは絶縁。さらに部員同士は争いの果て離散した。みるみる内に僕は一人ぼっちになり歩く度に後ろ指を刺されることとなった。おかげで睡眠薬が手放せなくなった。
人間、失格。もはや、自分は、完全に、人間で無くなりました。
(太宰治「人間失格」より)
僕はパンドラの匣(はこ)を開けてしまったのだ。
しかし、その匣の隅に、けし粒ほどの小さい光る石が残っていて、その石に幽かに「希望」という字が書かれていた(太宰治「パンドラの匣」より)
■この時期読んだ作家:太宰治、坂口安吾、中島らもなど
最終章:黒髪共和制の樹立(22歳)
しかし希望は残されていた。3人黒髪の子のうち1人は極めて才能とやる気に満ち溢れていた。僕は彼女に映像制作を教えることが大学生活最後の使命だと感じた。
2人で何本も映画を作り上げた。アニメーションにも挑戦した。いつしか昼も夜も編集室に一緒に籠るようになった。喜びに抱き合った日もあれば大喧嘩で夜が明けたこともあった。コンペに落ちた時はヤケ酒した彼女に頭からゲロを吐かれた。そのうち恋人のようになっていた。
だが通りすがる皆が僕らを指差した。「まだあの女といるのか」「悪いことは言わないからやめておけ」と友人気取りで言ってくる者もいた。
それは世間が、ゆるさない。世間じゃない。
あなたが、ゆるさないのでしょう?(太宰治「人間失格」より)
人間は恋と革命のために生れて来たのだ。(太宰治「斜陽」より)
しかし僕は、もう気にしなかった。もう自由なのだ。
僕は自分の中で革命を起こしたのだ。
人は皆自由だ。人は刑罰では善良な人間にならない。愛と許しがなければ真の良き社会は生まれない。
かくして僕は徹底的に周囲からの声を笑顔で許した(無視した)。
そしてコンペで2作品が受賞し、卒業後に皆と和解したのだった。
…………
もはや黒髪の話が全く関係なくなってしまった。
読書とは自分探しでもある。当時の僕はひたすらに自分のことを知りたかったのだ。今ではうんざりするほど自分のことはわかっているので、こんな風な人生に寄り添った読書体験は稀になってしまったな、と振り返るのだった。
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来週のテーマは「 #男女の友情 」