第一話 恋庭

 6月某日、『魔法のパスタ』という店から出た。私のすぐ後ろに女性がついてくる。
「これは一体誰なんだろう」
梅雨の間の晴れ間。蒸し暑い。早く帰ろう。




「さあそろそろ婚活再開するか」

と思い、恋庭というアプリを始めたのが5月である。
自分が出不精なことに加えて、できるだけ楽をして結婚をしたい。そんな気持ちで探したアプリが恋庭である。

恋庭では自分の写真は使わない。いわゆるアバターで進めていく。野菜や果物を栽培しながら、島を発展させ、そしてアバターに着せる服をガチャで出す。ここまでは普通の放置系箱庭ゲームなのだが、それにマッチング機能がついた、次世代スーパーゲームが恋庭だ。ゲームしながらマッチング。そして顔出しはしなくていい。マッチングアプリとして10段階中の2ぐらいの期待値のアプリだ気づくのは、まだまだ先のことである。

とりあえずアバターを最大限にイケメンに作る。ガチャをするにはダイヤが足りないので、白Tシャツに青い短パンという夏休みの小学生みたいな服装。毎日10個ずつ支給されるハートを使って、片っ端からいいねを送り続ける。1週間ほどすると、2つ年下の女性とマッチングした。

マッチングをすると、恋庭という共有の箱庭が作られる。『デキオがほうれん草を50個取ろう』みたいなミッションをクリアし、発展させていく。発展するに伴って、相手のプロフィールが少しずつ公開されていく。マッチングアプリどうこうは置いといて、単純にこの仕組みに楽しさを感じていた。

さて、マッチングした女性はどうやら車で30分ほどのところに住む。良い感じの距離感。メッセージのやりとりをする限り、誠実で頭が良さそう。どうやら有名女優に似ているらしい。彼女がおそらく自分に似せているであろうアバターも確かにその女優に似ている。

婚活において、見た目は気にしないつもりだったが、こんなに性格も外見もいいのだったら、何とかして仲良くなりたい。上手くいけば交際、結婚になるのかなぁと白昼夢を見ることもしばしば。数週間、2人で協力して庭を発展させながら、他愛もないやりとりを続けていると、

「そろそろ会いませんか?」

キタァー!これはもしかしてもしかするのでは?と思いながら日程と場所を設定した。結婚した時に、私たちはマッチングアプリで出会いました、なんて言うの恥ずかしいなぁと思いつつ、顔も見たことがない女性との結婚式を想像しながら、1週間後の土曜日を待つのであった。


続く

 

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