歯が斜めになってますね

[前回のあらすじ]
恋庭で仲良くなった人と初対面するが、思っていた姿と違った。


写真と少し印象が違いますね〜、と喉まで出て来ていたが、グッと堪える。

「とりあえず行きますか」

ハ、ハゲてる。私のフサフサな髪の毛の目の前で、頭頂部が薄くなっている女性がいる。見た目は関係ない見た目は関係ない。ミタメハカンケイナイ。自分をひたすら言い聞かせる。

さてここから、ハリセンボンの春菜を巨大化させたような目の前のハゲた女性と話していかなければならない。残念ながら制限時間は決まっていないので、ゴールのないマラソンの始まりを感じた。

『普段休みの日は何してるんですか?』

とりあえず月並みな質問をしてみる。
注文していた『石焼生パスタ』が届く。

『食べに行くのが好きで、毎週インスタで見つけたお店に行っています』

それにしてもこの石焼生パスタ、熱い。悪いことをした人には石焼生パスタを食べさせたら、口の中がベロンベロンになって反省するのではないだろうか。いやいやそんなことを考えていないで、目の前の春菜と向き合わなければ。なんの話だったっけ?

ああ、休みの日の話か。

『そうなんですね!良いですね!」 

笑顔で言う。付け合わせのパンを二人で食べる。もう相手の見た目が気になって仕方がない。前歯が右上がりになっている。電動ノコギリで切ったんか?ってぐらい真っ直ぐ斜めになっている。

『デキオさんは休みの日何してるんですか?』

休みの日なんて何もしていない。いやむしろ何もしないのが休みだろ。と思いながら

『いやー映画観たりのんびりしてますね』

『そうなんですね!私はあんまり映画観ないんですよ。アニメと韓ドラなら観るんですけど』

残念ながら私はアニメと韓ドラだけは観ない。婚活の最大の話題であろう趣味の話が、ものの数分で終わる。
ここから店を出るまでの約1時間、ほとんど記憶がない。楽しみにしていた生パスタが熱すぎて味も匂いも感じなかったとか、目の前の春菜の前歯が右上がりだなぁ〜とか思いながら、どうでも良い話をしていた気がする。

1時間ほど経つと、
「そろそろ行きましょうか」
キタァー!やっと帰れるぜー
まあ誘ったのは僕やし全部出すかー、と思っていると

「別々に支払いましょう」
春菜が言う。
もはや身も心も抜け殻状態の私では、いやいや僕が支払います、なんて言葉は出なかった。

支払いをして外に出る。
蒸し暑い。早く帰りたい。

「じゃあまた機会があれば!」

大嘘をついて車に乗る。
今日のこの時間は何だったんだろう。
やはり僕は面食いなのか。

相手探しには顔は関係ない、
そう思っていた自分。考え直さないと。

よし、婚活は一旦やめよう。


続く

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