機能的アセスメント
機能的アセスメント(Functional Behavior Assessment: FBA)とは,
アセスメントという言葉は,「評価」や「査定」という意味で用いられています。何かの対策を行うには,事前に評価や査定をすることで,より効果的な介入につながります。
また,機能的という言葉は,すべての行動には,理由と目的(機能)があるということから,使用されています。
支援者が人の行動を増やしたり,減らしたりためには,機能的アセスメントを十分に行うことが大切ですので,わかりやすく説明していこうと思います。
行動の法則について
機能的アセスメントの方法を説明する前に,問題となる行動(問題行動)の法則(機能)について理解する必要があります。
問題行動の法則は大きく4つに分けることができます。
①問題行動をした後に「人を介してよい結果が生じる」
②問題行動をした後に「人を介して嫌なことがなくなる」
③問題行動をした後に「自分自身でよい結果を生み出す」
④問題行動をした後に「自分自身で嫌なことをなくす」
①問題行動をした後に「人を介してよい結果が生じる」
「男の子が大声で暴れだす」という問題行動の法則について
1)注目してほしいために行っている場合
→大声で暴れ出した後に,「お母さんが『大丈夫?よしよし』と言って注目してくれる(かまってくれる)。」ことで,お母さんからの注目が得られ,そのことが「大声で暴れだす」といった問題行動を増やすきっかけにつながります。
2)みんなとの活動に参加したい場合
→大声で暴れ出した後に,「先生が声をかけて生徒が活動しているゲームへの参加を促してくれる。」ことで,参加したいけどどうしていいかわからない時に,先生が声をかけてみんなの輪に入れてくれる手助けをするため,「大声で暴れだす」といった問題行動が増えるきっかけになります。
3)好きなものが得られる場合
→大声で暴れ出した後に,「となりで遊んでいたお友達がおもちゃを返してくれる。」ことで,ほしいものが手に入り,「大声で暴れだす」といった問題行動が増えることにつながります。
②問題行動をした後に「人を介して嫌なことがなくなる」
「男の子が大声で暴れだす」という問題行動の法則について
1)嫌な関わりや課題から避けようとする場合
→大声で暴れ出した後に,「先生が『この問題は解かなくていいよ。』声をかける。」と,難しくて解けないと思っていた課題から避けることができると学習し,「大声で暴れだす」といった問題行動が増えるきっかけにつながります。
2)嫌な活動から避けようとする場合
→大声で暴れ出した後に,「園の先生がみんなで取り組んでいたお遊戯会の練習から男の子を外して,遠くから見ておくように促した。」ことで,嫌いな活動から避けることができ,お遊戯会の練習がはじまる度に大声で暴れだすといった行動が増えるきっかけになります。
③問題行動をした後に「自分自身でよい結果を生み出す」
1)感覚的な刺激を得ようとする場合
→自分の席で椅子をガタガタと揺らして大きな音を出している間,「感覚的に気持ちがいい。」と感じました。その後,感覚的な刺激を得ようとするために,「椅子をガタガタと揺らす」といった問題行動を起こすことが増えるきっかけになります。
2)ほしいものを得ようとする場合
→帰宅後に冷蔵庫を開けると,「大好きなジュースを見つけ,それを飲むことができた。」ことで,帰宅後は冷蔵庫を開ける行動が増えることにつながります。
④問題行動をした後に「自分自身で嫌なことをなくす」
1)嫌な感覚的な刺激をなくそうとする場合
→部屋がクーラーで寒い時に,「クーラの電源を消す」ことで,寒いという嫌な感覚的な刺激がなくなると,クーラーの電源を消すという行動が増えるきっかけになります。
2)嫌な感情をなくそうとする場合
→友達とけんかをしてしまいイライラしている時に,「机を蹴る」とイライラという嫌な感情がなくなったことで,イライラしたら机を蹴るという行動が増えることにつながります。
機能的アセスメントの方法
機能的アセスメントでは,行動が起こる「きっかけ」と「行動」,行動の後の「結果」を分析して,問題行動に対する介入の設計を行います。
機能的アセスメントの方法は3つあります。
①間接的アセスメント(informant assessment methods)
②直接観察(direct observation)
③機能的分析(functional analysis)
間接的アセスメント(informant assessment methods)
間接的アセスメントは,問題行動を起こしている本人またはその人をよく知っている家族や先生,施設の職員から情報を収集し,間接的にアセスメントを行うといった方法です。
メリット:
インタビューや質問紙を用いて情報を収集するため,短時間でアセスメントをすることが可能であることが特徴です。
デメリット:
情報を提供する人の記憶違いや,大切なことを忘れてしまっていることがあるため,客観的で確実な情報を収集することは難しいことです。
「男の子が大声で暴れだす」という問題行動を例に考えてみます。
インタビューを通して,母親から大声で暴れだす前の出来事について尋ねてみました。母親は,「男の子が部屋に一人でいる時によく大声で暴れます。」と言いました。その行動の後に母親はどんなことをするのか,男の子はどんな反応をするのかを聞くと,母親は「そうですね。どうしたの?大丈夫?寂しかったわね。と近づいて声をかけます。そうすると,すぐに大人しくします。」と話しました。
このインタビューから,①問題行動をした後に「人を介してよい結果が生じる」といった【注目してほしいために行っている場合】が考えられるとアセスメントしました。
このようにして,間接的アセスメントを行っていきます。
直接観察(direct observation)
直接観察による機能的アセスメントでは,問題行動を直接的に観察し,記録するといったアセスメント方法です。
メリット:
行動が起こる「きっかけ」と,行動の後の「結果」を客観的に知ることができます。
デメリット:
インタビューや質問紙の方法と比べて時間と負担がかかってしまうことです。
先ほどと同じように「男の子が大声で暴れだす」という問題行動を例に考えてみます。
支援者は園に週に2回訪問し,男の子が「大声で暴れだす」といった問題行動を観察し,問題行動が起こった時には記録をするようにしました。すると,お遊戯会の練習がはじまる前に「大声で暴れだす」ことが多いことがわかりました。問題行動が起こると,園の先生は男の子をすぐにみんなから引き離して,離れたところへ移動させて「どうしたの?おやすみしますか?」と声をかけていました。男の子は「うん」とうなずき,遠くからみんなの練習の様子をみていました。
この直接観察から,②問題行動をした後に「人を介して嫌なことがなくなる」といった【嫌な活動から避けようとする場合】が考えられるとアセスメントしました。
このようにして,直接観察を行っていきます。
機能的分析(functional analysis)
機能的分析では,行動が起こる「きっかけ」と,行動の後の「結果」を実験的に操作して,「問題行動」にどのような影響を与えるのかを調べるといった方法です。
「あるとき」と「ないとき」を設定して,問題行動の頻度を観察する。
機能的分析において問題行動を調べるためには,問題行動の4つの法則を利用し「あるとき」と「ないとき」を設定します。
この「あるとき」と「ないとき」とは,問題行動の4つ法則のいずれかが生じているか,生じていないかということになります。
「あるとき」では,母親からの注目があったり,好きな感覚的な刺激があったりすることを意味します。
「ないとき」は,「あるとき」とは反対の意味になります。
この「あるとき」と「ないとき」を操作することで,問題行動が増えたり,減ったりするかを直接的に観察して,アセスメント行うことができます。
介入の方法
問題行動への介入の方法として重要なことは,先ほどの間接的アセスメントと直接観察,機能的分析から得られた情報を元にして実施することで,より効果的な介入になります。
「男の子が大声で暴れだす」という問題行動を間接的アセスメントにて考えた介入例①と,直接観察にて考えた介入例②を用いて説明していきます。
間接的アセスメントにて考えた介入例①
「男の子が大声で暴れだす」といった問題行動は,母親からの注目ではないかと考えました。
支援者は,母親に「料理や家事で男の子を一人にしてしまう場合には,ときどき男の子に声をかけてみてください。また,大声で暴れていない時には,一人で待っていることをほめてあげたり,家事を一緒にしたりと,男の子が注目してもらえるきっかけ作りをしてみてください。」と提案してみました。
母親は支援者に提案されたことをすぐに実践してみました。母親は料理や家事をする間,ときどき男の子に「ひとりでテレビを見て待っていてえらいね。」と声をかけたりや,「〇〇くん,洗濯物をたたむお手伝いしてくれる?」と声をかけてみました。母親が実践している間は,男の子は大声で暴れだすといった行動をしなくなりました。
直接観察にて考えた介入例①
「男の子が大声で暴れだす」といった問題行動は,お遊戯会の練習といった嫌な活動から避けようとするからではないかと考えました。嫌な活動から避けないようにするためには,代替行動分化強化を利用する方法があります。
支援者は,園の先生に「先生,〇〇くんがお遊戯会でできそうな活動はありますか?」と尋ねたところ,太鼓を叩くことが大好きで,とても上手であることがわかりました。そこで支援者は,お遊戯会に男の子ができる太鼓を取り入れてみることを提案しました。先生は,そのことを承諾し,お遊戯会の練習で太鼓をしてもらうことを男の子に伝えました。男の子は「太鼓したい!」と元気な声で言いました。
お遊戯会の練習が始まると,男の子は太鼓を楽しそうに叩き,みんなと一緒に練習ができるようになりました。
機能的アセスメントは問題行動を減らすために活用され,より効果的な介入をするためにとても重要な方法でした。
問題行動を減らすために,一人ひとりの行動の機能を十分にアセスメントして,情報に基づいた支援をしていくことがとても大切です。
次回は,「強化」と「弱化」について解説したいと思います。