抜管時の確認事項(プロフェッショナル編)
抜管の際にどこの施設でもSBT設定にしてガスをとって問題なければ抜管というルーチンを実施していると思いますが、この際に何を重視していますか?
CO2が溜まっていなくてP/Fが保たれているならO.K.なのでしょうか?
個人的に重要なのは
①ABCDは安定しているか(もしくは挿管の原因が解除されたか)
②SBT設定後の呼吸状態に変化は無いか
③必要分時換気量が保たれているか
この3つを看護師やレジデントには指導するようにしています。
具体的には①に関して
ABCDが破綻していれば挿管するのでこれが改善していることは必須条件ですね。
Aに関しては脳外科患者などでは完全に意識状態がクリアで抜管するわけではないので舌根沈下が起きないかと喀痰のクリアランスや嚥下機能が保たれるかに懸念が残ることが多いですね。高齢者も同様です。ただし、いくつかの項目をチェックすることでかなりリスクを減らせます。例えば、開口や挺舌運動ができれば舌根沈下のリスクはほとんどないでしょう。逆に、挿管中に舌が口から飛び出している症例ではリスクが高いです。喀痰排出は呼気フローで判断します。咳嗽時に60L /分以下では十分な喀痰排出は難しいかもしれません。この時同時に吸気フローも見て最大吸気流量を上回る流量設定でHFNCは設定します(high flowの定義は最大吸気流量を上回ることだから当然)。
あとは、唾液の口腔内の貯留や口腔外への垂れ流れる所見は嚥下機能障害を示唆します。このような患者は抜管後に誤嚥の可能性が非常に高いと思った方がよいです。看護師はよく、この患者は唾液が多いと表現しますが、それは違います。人間1日に唾液が数リットル産生されていますが嚥下できるから溢れてこないだけです。嚥下できなければ誰でも大量に口から唾液が溢れます。これは利尿薬やスコポラミンで僅かであれば減少させることはできますが根本解決にはなりません。痰の量も大事です。数時間おきに吸引が必要な状態であったりすれば、懸念が強まります。喫煙者では喀痰が多いのでなおさら咳嗽でしっかり出せるか確認しておきましょう。最後に抜管後の気道浮腫です。これは抜いてみないとわかりません。リークテストはありますが完全除外は難しく、かつこれが起きると致命的ですので最も恐るべき病態です。よって浮腫のリスクが高い場合(48時間以上の長期挿管や高齢女性、太めのチューブ、浮腫が強かったり水が引けていない状態)は再挿管や気管切開が必ずできる状態で抜管すべきです(DAMカートの準備や前酸素化を怠らない)。
上記の所見を合わせてSBT自体をクリアしても抜管を断念することもあります。
Bに関しては②と被りますので同時に説明します。
レジデントや研修医、そして看護師に呼吸どう?と聞くとうまく答えられる人は少ないですね。そしてカルテだけ見て呼吸が良いかどうか評価しようとします。経過表に書かれた呼吸数や血液ガスデータのみで大丈夫かどうかなどわかるはずがないのにです。ポイントを抑える上で重要なのは4つに細分化すること。なんでも難しい問題は細分化するとうまくいきます。
具体的には、以下の4つに分けて評価します。
1、大きさ
2、早さ
3、努力呼吸の有無
4、呼吸様式やパターン
大きな呼吸の中でも麻薬が蓄積したり過剰鎮静による過大呼吸であれば徐呼吸になります。逆にアシドーシスの代償なら頻呼吸ですね。
急性期に一回換気量が大きいと肺損傷リスクがあるので鎮静を深めることがありますが、肺の状態が改善した後にも過鎮静で上記のような一回換気量の増大が見られることがあります。これはむしろ鎮静を深めるよりも浅めるべき状況です。適切な覚醒により吸気時の二段呼吸や異常な吸気フローも改善することが多いです。
呼吸の早さはとても重要です。頻呼吸は敗血症などで酸素消費量が増大した時に最も早期に出現するサインですし、また肺コンプライアンスが低下した際に仕事量を軽減するための代償機構であることが多いからです。(肺が硬くなれば、一回換気量が稼げないので回数で稼ぐようになるイメージ)このような場合にはrefilingで水が戻ってくるサインかもしれません。抜管して陽圧換気を離脱すれば静脈環流量が増えるので肺水腫のリスクが高くなるでしょう。前もって利尿薬を開始するなど先手を打つ必要が出てきます。
次に努力呼吸とはなんでしょうか?これは最近になって定義ができました。「呼吸補助筋を使って換気量を稼ごうとする行為です。吸気時であれば、僧帽筋や胸鎖乳突筋などを使うでしょうし、呼気時なら腹筋ですね。これは通常の横隔膜だけの呼吸では換気が不十分であることを示しています。横隔膜には持久力がありますが、瞬発力がありません。よって肺コンプライアンスが低下すれば横隔膜だけでは肺を広げることができないので補助筋の力を借りるようになるのです。このような状況では一見血液ガスは保たれますが、持久力のない呼吸補助筋はすぐに疲労しますので長期的には必ず破綻します。このような状況で呼吸サポートを減らす抜管は危険です。
最後に呼吸様式やパターンですが、これは病態の把握に役立ちます。チェーンストークス呼吸があれば心不全や中枢性の異常を疑うし、biot呼吸も中枢神経の異常でしょう。クスマウルは代謝性アシドーシスの存在を疑いますし、左右のシーソー呼吸は気胸等、上下のシーソー呼吸では気道の閉塞やコンプライアンス低下といった感じです。こういったものが確認できれば病態の治療にあたり改善に向かってから(改善の余地が無ければ仕方ない)抜管するのが妥当です。
Cの破綻による挿管に関して勘違いしている人が多いです。
血圧が下がったら挿管と考えている人が多いですが、鎮静して陽圧換気したらもっと血圧下がりませんか?Cの挿管適応は血圧ではなくショックですね。ショックとは末梢組織における酸素消費量と供給量のミスマッチです。これに対して挿管は、増大した呼吸による酸素消費量(ショック時のエネルギー消費の70%を占める)を人工呼吸器で代替し、鎮静で酸素消費量を下げます。これだけでショックの離脱に大きく近づきます。よって、まずは輸液や昇圧薬で血圧を維持した上でその後に挿管するのが安全です。ショックの最優先事項は環流圧の維持であり、酸素の需給バランスの是正はその次です。これはこの10から15年前後で確立した考えです。
よってCの安定確認には、覚醒させて酸素消費量が増大してもショックにならないという状況を確認する必要があります。SBT前にSATをするのはこのためです。SATで不穏になったり乳酸値上昇がある場合には酸素の需給バランスがギリギリということですのでCは不安定という事になります。
Dの異常は脳外科患者ではよく出会うでしょう。Aの異常も併発するので大変悩ましいですね。ABCDのうち2つ以上の懸念があれば抜管はかなり慎重になった
ほうが良いとされます。SET SCOREというのが脳外科患者において抜管すべきか早期に気管切開に移行するべきかの評価として使われることがありますので参考にしてください。脳浮腫が軽減して神経症状の改善がプラトーになってもSET SCOREが適正値にならなければ気管切開を検討します。
最後に③に関してです。
人間の正常な分時換気量は100ml/kgです。つまり50kgの方なら5L程度とされます。例えば、術後の患者の抜管で、この値に到達していなければ覚醒が不十分であると考えられます。一見CO2が貯留なく、ガスが良くても、まだ酸素消費量が少なく溜まっていないだけかもしれません。もう少し待ったほうが良いでしょう。
分時換気量が上昇しているにも関わらず、CO2が正常の場合にはどうでしょうか?これは酸素消費量が増大しているか死空換気の増大を代償していると考えられます。ショックの兆候は無いか、もしくは肺の状態が悪化していないか確認してからの抜管が必要です。そして分時換気量が増大しているのに、CO2が貯留していれば代償も間に合わない状態であり、本当に抜管するかどうかチームで再協議すべきです。
以上いかがでしたか?
①ABCDは安定しているか(もしくは挿管の原因が解除されたか)
②SBT設定後の呼吸状態に変化は無いか
③必要分時換気量が保たれているか
普段からこの3つをきちんと確認できていますか?
「なんとなく安定して抜管できそう」というのを、明確に言語化するとこのようになります。逆になんかおかしいな?本当に抜管しても良いのかな?と感じたら上記の所見を確認して、何を改善すべきか明確にしてそこに介入を行いできるだけ早く抜管できるようにしましょう。