乳酸値の上昇がショックとは限らない

ICUで乳酸値の上昇は医療従事者にとってよくない知らせのひとつです。
これを指標に輸液やカテコラミンの調整をすることもあるのではないでしょうか?

しかし乳酸値は高いものの臨床的に安定していて介入すべきかどうか悩ましいときもあります。
乳酸値の上昇はtypeA乳酸アシドーシスとtypeB乳酸アシドーシスに分かれます
typeAはいわゆる本物のショック。低灌流に伴う乳酸上昇なので介入が必要です。typeBはベータ刺激薬による乳酸値の産生増加であったり、肝不全や腎不全での代謝障害による乳酸値上昇なので組織の低灌流自体は無い状態(いわゆる偽物のショック)です。ICUでは肝不全や腎不全の患者やβ刺激薬を使用している患者が多くショックではなくても高乳酸血症を呈する患者が多いです。心臓血管外科の術後の患者も人工心肺の影響で術後typeB乳酸シドーシスを呈する患者が多いです。このような患者に不必要に輸液やカテコラミンを増加させるメリットはありませんね。とは言え、特に心臓血管外科の術後などは、本物のショックを呈している事も多く介入すべきかどうか悩ましい患者が多いので、何か参考になる指標が欲しいと思いませんか?
また、乳酸上昇が仮に本物のショックを示唆しているとして(typeA)、酸素の需給バランスの是正の為にDO2を増加させる介入を検討した際、何を優先して行いますか?
DO2=1.34×CO×Hb×SaO2ですがCO(心拍出量)、Hb、SaO2のうちどれを増やすのが理想的なのでしょうか?CO増やす目的で闇雲に輸液をしても過剰輸液の害を増やすリスクもあります。かといって、Hb増加を目的に輸血するのはハードルが高いし、何らか生理学的根拠が必要です。


そこで提案ですが、CVがあったらVガスをとってみて下さい。
まずここで、ScvO2を見ます。これが60を下回れば低値であり本物のショック(typeA)である可能性が高まります。敗血症性ショックでは80代後半や90台等の異常高値を呈する事もあるので、高ければ高いほど良いと言うわけでは無いことに注意して下さい。

本物のショックかどうか見極めたら次は何の介入をするかです。
次はCVから取ったVガスとAガスのCO2の乖離(CO2ギャップ)を確認します
CO(心拍出量)が十分なら、抹消組織で産生されたCO2は血流に乗って肺に運ばれて吐き出されて消失していきますが、心拍出量が低下すると抹消組織で産生されたCO2が血液に乗って運ばれずに組織に残って蓄積していきます。よってVガスのCO2がAガスの値と乖離を起こすのです。一般的にはCVとAガスのCO2の乖離(CO2ギャップ)が6以上でギャップありと判断します。これを見たら、ショックの中でも、その原因がCOの低下であることが推測されます。よって輸液やカテコラミンで心拍出量を増加させる介入が有効な可能性が高まります。逆にCO2の乖離が少なければ、輸液やカテコラミンに期待は持てませんので、DO2を増加させるためのCO以外の要素であるHbやSaO2の上昇が必要と考えられます。Hbを上げるために輸血をしたり、挿管やNPPVを装着して酸素化を改善させる介入が有効な可能性が高まります。

まとめ
①乳酸アシドーシスにはtypeAとtypeBがあり、本物のショックであるtypeA には低灌流の改善を目的とした介入が必要だがtypeBには不要
②typeAとtypeBはScvO2<60で見分ける
③typeA(本物のショック)への介入はCO2ギャップを測定し乖離があれば(6以上)、輸液やカテコラミン増加で改善が見込めるし、乖離がなければ輸血や酸素化改善が妥当

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