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創業130年の旅館



そこしか空いていなかった

次男家族が、お正月にこっちへ来るという。
それなら、温泉でも行こう、ということになり、私がネットでホテルを予約した。お正月なので、どこも空いておらず、一件だけ「予約可」があったのが、ここだった。

行ってみたら、創業130年の旅館だった。玄関前の佇まい、下駄箱のある玄関、カーペットの敷いてある廊下、階段。今時なかろうと思われるほど、古い旅館だった。

洗面所とトイレは共有。トイレは1階と2階とに、一個ずつ。でも、次男家族の部屋は、とても広かった。もうすぐ2歳の孫は部屋を走り回った。


私たちの部屋

夕食は別部屋で。とても豪華で珍しいものもあり、美味しかった。食べきれずに残して申し訳なかった。孫はジュースをわざとのようにこぼし、親はあたふたし、じじばばはそれを見て喜んだ。

お風呂騒動

さて、しばらく休んだのち、お風呂に入ろうということになった。次男が見に行くと、「ぬるいよ」と言う。確かにぬるい。旅館の人が見当たらない。

カウンターにあった鈴を鳴らしてみる。お風呂のほうから、当主がやってきて、「(二つあるうち)右の方はぬるいので、左の方を使って下さい」と言う。
「私は、右のほうで、シャワーしてきました。こんな格好でごめんなさい」と、半分裸のお風呂上がり、いやシャワー上がりである。

だが、そうこうしているうちに、同宿の夫婦が入ってしまった。貸し切り湯なのだ。泊まり客は二組だけなのに。12時近くになって、やっと次男家族は入浴した。私と夫は、結局入浴しなかった。

同宿の、その奥様は、「熱いお湯を入れたら良かっただけですよ」と言っていた。考えてみたら、時間は遅くなったが、先に入って浴室を暖めてくれて、お湯も熱くしてくれたので、良かったと思えた。

だが、旅館に泊まってお風呂に入れないなんて、いや、自分の意志ではあるのだが、もっとやり方があるはず。お風呂の分、宿代から引いてもらいたいもんだ、と思った、その時は。

当主は88歳

翌日、おかみさん(たぶん)と話をしていたら、当主は88歳という。お風呂の係は当主だそうだ。うーーん、そうか。泊まり客は二組だけだし、左の浴室だけにしようと思ったのかな。

その旅館は、当主で4代目。創業は明治。でも、息子は医師で、跡継ぎがいないのだそうだ。当主も、いつまでできるかと言っているとのこと。

そう思うと、この古さも貴重と思えた。タコ料理が名物で、部屋にあった落書き帳には、サッカーチームの子どもたちや、駅伝の大会に来た高校生らの文字があった。部屋に布団をずらっと並べたのだろう。

布団と毛布がふかふかで、お風呂に入らなくても、朝までぐっすり休めた。

浴衣の柄

お釜全部をおにぎりに

朝食の時間になっても、孫は起きない。お釜で炊いたご飯がとても美味しかったので、残ったのをおにぎりにすることにした。おかみさんに言って、岩塩とか海苔とかもらった。ラップも。
おかずを入れる容器をくれた。袋もくれた。

息子らはお釜に残ったご飯を全部おにぎりにした。全部で7個。お釜は空っぽになった。親の分を含めて、立派なお弁当ができた。

空っぽ

次男夫婦喜ぶ

帰りには、立派なタマネギたくさんとジュースをお土産にいただいた。現金で払ったプレゼントらしいが、風呂がどうのこうの、と言えないくらい(言わないけど)、いっぱい気を遣ってくれた。

息子夫婦が、「こんな広い部屋と豪華な食事で、とても良かった」と大変喜んでくれたのが、何よりだった。予約したのは私なので、こんな古い旅館で、どうしようと思っていたのだ、それを聞いて安心した。

88歳の当主様。お元気で少しでも長く旅館を続けて下さい。できたら、お風呂は熱めで。(入るのが遅くて、冷えちゃったのかもね)


海が近い

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