別行動夫婦の温泉記②
ロープウェイに乗る
さて、次の日。
ロープウェイに乗ることにしていた。
始発のロープウェイに乗る。満員だ。
山頂からの眺めは素晴らしかった。天気も上々。
眼下には温泉街と、悠々と流れる円山川。
私が「きれいだねえ」と言うと、夫が言う。
「ここ、何にもないな」
「はあ?」
(それ、言う?)
と、ここは心の中で反論。時間がない。急いでお参りする。
山頂にあるのは、温泉寺の奥の院。
静けさの中に静かに建っている。
折り返しの便に乗って、途中の「温泉寺駅」で降りる。
そこには温泉寺本殿。
ここも良かった。1300年ものあいだ、城崎温泉を見守ってきた。
宝物殿(城崎美術館)に納められている仏像、仏画などに驚く。朽ちかけているのもある。鮮やかな色を保っているのも。悠久の長さだ。
私「すごい物ばかりだったね」
夫「貴重な物を見せてもらった」
ここは同意をもらう。
帰り道、夫はここから歩いて降りると言う。聞いたら歩いて10分と言われたからと。夫は「行く?」とか聞くけど、私には絶対無理。
「じゃ、ここで」
夫は歩いて、私は次のロープウェイで。
ふもと駅に着くと、夫はとうに降りていたが、急な坂と階段で「膝が笑っている」んだって。
薬師堂
降りたところにある薬師堂が、これがまた千古の雰囲気を感じさせて心を動かされた。1300年という城崎温泉の歴史の長さを思う。
ここから駅に戻ることにする。
次は出石に行く予定にしていた。
バスには少し時間があるので、私は城崎文芸館に行くことにした。夫は昨日行ったから行かないけど「わかりにくいから」と案内してくれた。
私「じゃ、ここで別れよう」
私は中へ。夫は駅へ。
この時、実は私はある作戦を考え始めていた。この旅の最後まで別行動にするのだ。
城崎文芸館は興味深かった。城崎に関わりのある作家たち。繊細で美しい麦わら細工も見られた。温泉と文学を結ぶKINOBUNに賛同し、お土産も買った。
別行動宣言
駅で再会した夫に、宣言する。
「出石には行かない。城崎マリンワールドに行く」
さすがに今度はちょっと勇気がいった。最後までだから。
夫は「えーっ!行かないの?」と驚いていた。
「じゃ」
今回の旅、何回目かの「じゃ」
最後の「じゃ」
マリンワールドは最初から行きたかったところ。どうしても行きたくなった。夫は行かないと言っていたし、ここは、もうすっぱりと別行動にしよう。
出石そばも私が言い出したし、食べたかったのだけど。
ひとり旅は慣れている。いや、今はひとりがいい!
それじゃ、おうちで会おう!
ああ、スッキリ。
続く。