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きれいに描かない、まとめない!? その心は……

私は、グラファシを始める前に、誤解のないようにグラフィックを描く理由を説明するようにしています。その時に冒頭に使う言葉が……

きれいに描きません。
まとめません。

この後に、なぜなら……と続くのですが、大体の参加者がここで一瞬「えっ?」という顔になります。
そりゃそうですよね!場を可視化する為にこれからグラフィックを描きに来た人がいきなりこんなこと言ったら、まるでやる気がないように聞こえるのかも知れないです。

もちろん、「やる気ありません」「グラフィックは適当ですがご了承ください」なんてことではありません。

私は、ファシリテーターとして絵をツールとして用いています。
なので、その真意を理解してもらってから始めることが参加者にとってベストだと思っているのです。

では、きれいに描かない、まとめない理由とは?

●グラレコとの役割の違い
●正解のないグラフィック

今日はそんなお話をしていきたいと思います。

間違われやすいグラレコとの役割の違い

どっち?

グラフィックファシリテーションと混同されやすいもののひとつに、「グラフィックレコーディング(グラレコ)」というものがあります。
「グラフィックレコーディング」、「グラフィックファシリテーション」共に「グラフィック」という言葉がつきます。
そして、同じようにリアルタイムでその場を絵を使って可視化していくので、混同されやすいのですが、役割が大きく変わるため、描く内容も大きく違ってきます。

グラレコとは……
議題は何か。
誰が何を言ったか。
どんな意見や案が出たか。
どんな結論にいたったか。

このようなことを絵で分かりやすく描く(記録する)ことで、その場の参加者の思考の整理や、後の振り返りに使用します。まさに、絵の議事録といった役割を果たしています。

だからこそグラレコは、わかりやすくキレイに描いてあり、見れば誰でもすぐ理解できるようにまとめてあります。

※「グラレコ」と言葉を使っているけれども、個々に様々な役割や想いを持って描いている方もいるので、上記はあくまでも一般的な言葉の説明とさせてください。

そして、グラファシとは……
主となるのはファシリテーションです。
ファシリテーションとは、司会進行役のような立場ではありません。
会議や対話の場で参加者が主体的に参加できるよう、心理的に安心安全な場をデザインし、良質な対話を促進させます。それにより、深い相互理解、合意形成に向かえるようにサポートすることです。

そのため、絵は対話を促進、活性化させる手段のひとつとして用います。
「誰が何を言った」「どんな結論に至った」という事実よりも、発言者や参加者の表情、その場の雰囲気、空気感を絵や色で表現することに努めます。

つまり、グラレコは事実をキレイに描いてまとめ、議事録化する役割。
グラファシはファシリテーションの助けとして対話を活性化させるための役割。

ということになります。

この違いを説明しないままグラファシを初めてしまうと……

●グラレコのように記録として描いてくれると誤解を招く。
●リアルタイムで描くというテクニックに注目が集まってしまう。
●その場の賑やかしで終わってしまう。
●参加者が、絵を気にしてしまい対話のノイズになってしまう。

グラレコだと思って見ていた人を最終的にがっかりさせてしまい、「全然、まとまってないじゃん!」とお叱りを受けたこともあります。

また、最後に「こんな意図で描いていました」なんて後だししてしまった日には、「先に言ってよ~」とがっかりされたこともありました。

このような誤解を招かない為にも、グラレコとは役割が違いますよという意味も込めて「きれいに描きません、まとめません」と冒頭でお伝えすることがひとつの理由です。

ここまで説明すると、大体の方にグラレコとの違いを理解して頂けます。
しかし、同時に「表情や雰囲気、空気感を描くとなんで対話が活性化するの?」という新たな疑問が生まれます。

対話が活性化する理由とは。

ちょっと想像してみてください。対話や会議のなかで……

●「頑張ります」と言葉にはしたけれど、とても不安そうな顔をしている人

●「そんなの〇〇に決まっているだろう!」と社長が大きい声で発言して、みんなが困惑するように下を向いてしまう

●営業部の人がマシンガントークでガンガン話を進めてしまい、他の提案もできぬまま、周りがあきらめムードになる

●「なにかモヤモヤします」といった曖昧な言葉に、「ハッキリと言葉にしてもらわないと言いたいことがわからない!」と発言がないがしろにされてしまう

こんな状況に出くわしたことがある人は多いのではないでしょうか?

このような場面で感じるのは、言葉にするのが上手い人、声が大きい人、権威やランクが上の人が優位になってしまうということ。

逆に、言葉にするのが苦手な人や曖昧な表現が多い人、新人等のランクが低い人は、いるだけで対話に参加できない。もしくは、発言することをあきらめてしまいます。

ぼく自身も、サラリーマン時代は後者のあきらめタイプの人間でした。
会議があるたびに、「どうせ何を言ったって相手もにもされないから、黙っておこう」と決めていた程です。

でも、この言葉にならない想いだったり、小さい声だったり、曖昧な表現や言葉の多様性もしっかりと受け取り、対話をする事が、イノベーションの種になったりします。

人に考えや想いが伝わる様に言葉にすることは大事です。
しかし、上手く言葉にならない想いや気持ちもあること受け止めて欲しい。
そして、それを丁寧に大事に扱っていくことは、良質な対話をする上でとても重要です。

また、会議や対話を優先的に進めている人に限って、単純に周りが見えなくなっているだけの方も多いです。
例えば、営業部のリーダーとして、残業しながらも必死にプロジェクト案をチームで練り上げて来た人にとっては、絶対の自信を持って会議で発言しています。ですから、「当然、全員が賛同してくれる。」という想いから前のめりになってしまい、他の参加者を圧倒すると共に、周りが見えなくなってしまいます。

そこで、可視化された場を俯瞰して見ることで、自分がその場で、どのような状態になっているかに気づく方も多いです。

だからこそ、この言葉にならない想いや雰囲気、表情などを絵と色で現して可視化された場から、参加者が色々な気付きを得て発言することで、対話のキッカケにしてほしいと思っています。

参加者の意識が変わった瞬間。

こんなエピソードがあります。
ぼくはとある企業のリーダー会議に呼ばれ、グラファシを担当していました。

そこで、「やる気のない社員にどう対応してよいのかわからない。」という議題が出ました。
その時にみんなが一斉に、
「いるよね~、やる気のない奴」
「もうあきらめるしかない」
「どうせ使えないから気にしない」
「そのうち辞めるよ」
と苦笑いしながら、煮え切らない雰囲気になりました。

モヤモヤ

その時の雰囲気をぼくが、困ったような、あきれたような表情と共に、モヤモヤした感じを上記のような絵で描き表しました。
(※実際の絵は守秘義務の為、お見せできませんが、実際にこんな感じで描きました。)

そして、「皆さんの気分は、今こんな感じですかね?」と聞くと、ひとりがこの絵を指さしながら、「この感じがダメなんじゃない?」と言い始めました。
そこから、前向きな意見が出始め、最終的に「俺たちが意識を変えなきゃ、やる気のない社員の意識も変わらない」となりました。

残念ながら時間となり、この先は次回という事になりましたが、参加者の意識が変わる大きな一歩に立ち会うことができました。

このような場に立ち会った時に、言葉や結論だけでなく、その場の雰囲気や空気感を描くことの意義と必要性を改めて感じます。

正解のないグラフィック。

「きれいに描かない、まとめない」ことのもう一つの理由は、考える余白をグラフィックに残したいから。

グラレコのように、最初から結論までキレイに描いて、しっかりとまとめ上げてしまうとそれがその場の答え、結論となってしまいます。
教科書やセミナー講師が作ってきた内容に、疑問を持ったりしないですよね。それと同じような感覚です。

つまり、明確な結論や答えを理路整然と事実として描いてしまうと、それ以上考える必要もなくなり、思考が停止して、問いや気づきも生まれなくなってしまいます。

でも、話が流れるまま描き、フォーマットやフレームワークに載せずに、きれいに描かないこと、結論に誘導しないことで、考える余白ができると思っています。

その余白が問いや気付きを生み、主体的に対話に参加していく発言のキッカケとなり、活性化に繋がります。

私はその余白を大切にしたいと思っています。
だから、キレイに描かない、まとめないグラフィックは対話を活性化させる上で、必要な描き方なのです。

また、グラフィックを描いていると……

「なんで、そこにその色を使ったのですか?」
「私は、この絵に描かれていないあの言葉の方が重要だと思ったのですが!」
「ぼくがあの時に発した言葉は、そんな軽い絵や色の感じではありません!」

こんな言葉が参加者から出ると、来た~っ!と内心ニヤニヤしてしまいます。

これこそ、この絵をきっかけに参加者の意見が主体的に出てきた瞬間だから。
もう、ここまでくると、簡単です。

なぜ、あなたはそう思ったのですか?
あなたならどう考えますか?
皆さんはどう思いますか?
なんて、簡単な質問を投げかけるだけでどんどん対話が活性化していくから。

だから、どんどんあなたが違和感や違うと感じるグラフィックの余白を見つけて意見や異議を発言して欲しい。そして、グラフィックをあなたの思考や対話を活性化させる為の踏み台として活用して欲しいと思っています。

褒められると嬉しいけれど……

最後に……

リアルタイムで描き続けていると、
スゴイですね!
感動しました!
絵が上手いですね!
なんて、めっちゃ褒められることがあります。

正直、すん~ごくうれしいのです!!ありがと~って投げキッスをまき散らしたい気分になります。グラファシを学び始めた当初、絵の練習をする度に娘に笑われていた私でしたので、絵を褒められることは、もう天国に上るような気分なのです。

ダメでじ

しかし、グラフィックファシリテーターとしては失格です。
ダメダメファシリテーターの烙印を自らもらいに行くようなものです。
なぜなら、自分の絵やテクニックに注目なんて必要ないから。

主役は参加者であり、目的は対話の活性化です。
そこに、グラフィックが目立ってしまうこと、テクニック的なものに注目が集まることは論外なんです。

ここは自分もファシリテーターとして、勘違いしないように常に気を引き締めています。

だから、どうか……
褒めるときは一番最後、ちょっとだけにしてください。
そして、心の中で勝手にお礼の投げキッスをさせて下さい。

自分に甘い コネクトファシリテーター でじでじ でした。


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